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物流・運送業の生成AI活用|配車より先に、事務所に溜まる文章から使う

物流・運送業の生成AI活用|配車より先に、事務所に溜まる文章から使う
目次
  1. 配車・運賃計算より、連絡文と記録の整理に効く
  2. 運送会社の事務所で、文章仕事が重くなる背景
  3. 始める順番:連絡文、ヒヤリハット、教育資料
  4. 運行の判断・個人情報・労務の適否は人が持つ
  5. ドライバーが席にいない会社での進め方
  6. 3時間研修の時間割(題材は自社の連絡文と記録)
  7. 測るのは事務所の時間。事故件数は指標にしない
  8. まとめ
  9. 参考資料・注意事項

運送会社で生成AIの話になると、「配車を自動で組めないか」「ルートを最適化できないか」という期待から始まることがよくあります。ここはいったん切り分けてください。配車と経路の最適化は、生成AIではなく配車システムや最適化の計算エンジンの領分だからです。車両制限、荷主の指定時刻、休憩の取り方、ドライバーごとの経験。制約が多いほど、文章を作る道具ではなく、条件を計算する道具が要ります。

生成AIが強いのは、答えを計算することではなく言葉を扱うことです。そして運送・物流は、外から見えているより文章の量が多い業種です。荷主とのやり取り、遅延の一報、事故やヒヤリハットの報告、点呼と日報の記録、年間を通して続く安全教育の資料、ドライバー募集の求人票。トラックの外側、事務所と点呼場に溜まっている文章の仕事から、生成AIに任せられます。

この記事は、車両を十数台から百台前後で運行している規模の会社を想定しています。大手が入れている輸配送システムの話ではありません。

何から始めるかを決めかねている段階なら、中小企業の生成AI導入ステップが先です。この記事は運送・物流に固有の事情に絞っています。製造・建設・小売など他の業種や部門の例は生成AIの業務活用事例で一覧できます。

配車・運賃計算より、連絡文と記録の整理に効く

検討の最初に、まずこの表で確かめることをおすすめします。期待の高い欄ほど効きが低くなりやすい表です。

仕事効き理由
配車の組み立て・経路の最適化低制約条件を解く計算。文章を作る道具の仕事ではない
運賃の見積計算そのもの低距離・重量・料金表からの計算。表計算とシステムの領分
デジタコ・動態データの数値集計低集計はシステムが正確。生成AIに数字を計算させない
荷主・配送先への連絡文、遅延の一報高状況は分かっているのに、丁寧な文にする時間が取れない
安全教育の資料づくり高毎月続く。題材は自社にあるのに、まとめる時間がない
ヒヤリハット・事故報告の整理と要約高紙で溜まったまま読まれていない。分類と要約が本業
日報・点呼記録から月次の報告をまとめる中〜高事実は記録にある。読ませて整えるのは得意な仕事
ドライバーの求人票・面接の案内文高他社と横並びの文面になりがち。書き分けが効く
荷主との運賃交渉に使う説明資料の下書き中〜高数字は自社で出す。並べ方と言い回しを整えるところが効く

効きが高い欄を眺めると、共通点が見えます。材料はすべて社内にあるのに、文章にする時間だけがない仕事です。運送業でここが詰まりやすいのは、事務所の人数が少なく、その人が電話と点呼と請求を同時に持っているからです。

運送会社の事務所で、文章仕事が重くなる背景

1つめは連絡の相手の多さです。荷主、配送先、傭車先の協力会社、自社のドライバー。同じ「30分遅れます」でも、荷主に出す文、受け入れ担当に出す文、社内の一斉連絡では、内容も長さも変わります。この書き分けが、忙しい時間帯ほど後回しになります。

2つめは安全教育が毎年続くことです。貨物自動車運送事業者は、運転者への指導・監督を行い、その日時・場所・内容などを記録して営業所で3年間保存することが求められています(貨物自動車運送事業輸送安全規則第10条)。止められない仕事なのに、資料をまとめる担当は運行管理者が兼務している、という会社もあります。過去の事故・ヒヤリハットや季節ごとの注意点といった題材は自社にあります。足りないのは、それを教材の形にする時間です。

3つめは働ける時間の上限です。2024年4月から、自動車運転の業務にも時間外労働の上限規制(特別条項付き36協定を結ぶ場合で年960時間)が適用されています。ドライバーの時間に上限があるぶん、事務所側の時間もやりくりが厳しくなりました。運行に直接関係しない文章仕事を減らせるかどうかは、以前より切実な問題です。

始める順番:連絡文、ヒヤリハット、教育資料

  1. 荷主・配送先への連絡文と、遅延の一報:効果がその日のうちに分かり、成否がはっきりします。ひな形を数パターン作っておくところまでを最初の実習にします
  2. ヒヤリハットと事故報告の分類・要約:溜まっている紙やメモを読ませ、種類ごとに分けて短くまとめます。次の安全教育の題材が、この作業から出てきます
  3. 安全教育の資料と、求人票:2番で出てきた題材を教材に組み替えます。求人票はここまで来てから手をつけます

社外の目に触れる文章を先にやると、1回のまちがいで社内が使うのをやめてしまうことがあります。それでも荷主への連絡文を最初に置くのは効果が見えやすいからで、必ず人が読んでから送る運用を初日に決めることが条件です。読まずに送る運用にすると、宛先や時刻の誤りがそのまま相手に届きます。

運行の判断・個人情報・労務の適否は人が持つ

任せてはいけないこと理由と、代わりにやること
運行の可否判断(気象、車両の状態、体調や過労の判断)人の安全に直結し、責任の所在も明確に決まっている。運行管理者と本人が判断する。生成AIは、判断したあとの連絡文を書く側に置く
荷主名・配送先の住所・個人宅の情報・ドライバーの個人情報をそのまま入力する配送に関する相談文は、最初から住所と名前が入っている。伏せてから入力する手順を、研修で実際にやって見せる
労働時間や休憩の基準に適合しているかの判定基準は細かく、改定もある。適否はシステムの計算と社内規程で確認する。AIの答えをそのまま運用の根拠にしない
事故発生時の対応手順や、賠償・保険の可否の回答誤った案内が相手方に伝わると取り返しがつかない。手順書と保険会社の窓口に沿う

荷主名や住所を含む個人データを外部のサービスに入力する場合、個人情報保護委員会は、そのデータが機械学習に使われないことなどを確認するよう注意を促しています。入力してよい情報とだめな情報の線引きは、口頭の注意だけでは残りません。社内のルールとして1枚にしておく作り方はAI利用規程の作り方にまとめています。

ドライバーが席にいない会社での進め方

日中は車内、朝と夕方は点呼場。ドライバーにはPCの前に座る時間がほとんどありません。出庫の時間もばらばらなので、全社員を1つの部屋に集める研修は成り立ちません。この前提で、次の3点を決めてから始めます。

3時間研修の時間割(題材は自社の連絡文と記録)

時間内容
0:00-0:20できること・できないことの線引き。配車と数字は任せない、という前提合わせ
0:20-0:45入力してはいけない情報。荷主名・住所・個人情報を伏せる手順を実演
0:45-1:30実習①:先週自分が書いた荷主への連絡文を持ち寄り、書き直す
1:30-2:15実習②:ヒヤリハットの記録20件を分類し、次の安全教育の題材を3つ選ぶ
2:15-2:45社内ルールの草案づくり。使ってよい業務、人が必ず確認する箇所
2:45-3:00次の1か月でやることを決める。担当と期限まで書いて終わる

実習で使う材料は、受講者が実際に書いた文章と、自社に溜まっている記録にします。用意された練習問題では、翌日から使う動きになりません。自社の書類を持ち込む組み方は、建設業の生成AI活用でも同じです。

測るのは事務所の時間。事故件数は指標にしない

事故件数や輸送品質を、生成AI研修の効果指標に置かないでください。これらは天候、荷主の運行条件、人員構成といった別の要因の影響のほうが大きいからです。研修の成果として説明しようとすると、良くても悪くても説明がつかなくなります。

研修費用は、人材開発支援助成金などの対象になる場合があります。要件は年度で変わるため、使える条件と手続きの順番はAI研修の助成金でご確認ください。

まとめ

運送・物流業で生成AIが効くのは、配車や運賃計算ではなく、荷主への連絡文、遅延の一報、ヒヤリハットの整理、安全教育の資料、求人票といった事務所の文章仕事です。事務所と運行管理者から一巡させ、運行の可否判断、個人情報の入力、労働時間の適否判定、事故対応の回答の4つは任せないと最初に決めてください。

参考資料・注意事項

最終確認:2026年9月24日

本記事は一般的な実務の整理です。安全教育・運行管理・労働時間に関する法令上の要否や適否は、運輸支局・労働基準監督署・社会保険労務士等にご確認ください。助成金は受給を保証するものではなく、適用可否は労働局・ハローワーク等の窓口でご確認ください。

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浅香 祐輔

この記事を書いた人

浅香 祐輔(Never Red株式会社 代表取締役)

大手コンサルティングファーム(アクセンチュア/アビーム)出身。DX・業務改革・SAP導入が専門で、50名超のチームでPMを担当。法人向け生成AI研修「ノセカエ」の講師を務める。

講師プロフィール ・ 運営会社の情報