AI研修の助成金|使える条件・計画届・申請までの順番
「社員に生成AIの研修を受けさせたい。ただ、全社でやると費用がそれなりにかかる」。そう考えたときに選択肢へ入ってくるのが、国の助成金です。
先に結論を書きます。AI研修・AI人材育成の費用は、厚生労働省の「人材開発支援助成金(人材育成支援コース)」の対象になり得ます。ただし、誰でも・何でも・自動的にもらえるわけではありません。条件は大きく4つ。そして、研修を始める前に計画届を出していないと、内容がどれだけ良くても対象になりません。
この記事は、助成金を初めて調べる経営者・人事の方に向けた入口の1本です。条件・金額・計画届・申請の順番を、厚生労働省の資料の原文を引きながら通しで整理します。制度ごと・場面ごとの深い話は、それぞれの記事へ送ります。
先にお伝えする前提
助成金の支給は保証できません。対象可否と金額は、制度の要件と審査によって変わります。また、助成金の申請代行は社会保険労務士の独占業務です。当社は研修を提供する立場であり、申請の代行は行いません。この記事に書いた数値・期限は、末尾に挙げた厚生労働省の資料の記載時点のものです。制度は改定されるため、実際に動く前に必ず最新版と管轄の労働局でご確認ください。
1|助成金を受け取るのは、研修会社ではなく貴社です
最初に押さえたいのは、助成金を受け取るのは、受講させる事業主(=貴社)であるという点です。ここを誤解したまま話が進むご相談は、いまでもよくあります。
- 助成金は「研修費が割引になる仕組み」ではありません。
- いったん貴社が研修費を全額支払い、後から要件を満たした分が事業主に支給される、という後払いの構造です。
- したがって、書類を整えて窓口とやり取りするのも、原則として事業主側です。
当社のような研修会社は、研修そのものを提供し、必要に応じて情報提供と提携社労士のご紹介を行う立場です。貴社に代わって助成金を「もらってくる」ことはできません。
後払いということは、支払ってから入金までの期間、資金が先に出ていくということでもあります。その期間の見方は人材開発支援助成金は、研修費を払ってからいつ入るか|先に出ていく分の資金を、どう見ておくかに整理しました。
2|条件は4つ。ここを外すと土俵に乗りません
AI研修でいちばん使われるのは、人材開発支援助成金の「人材育成支援コース」のうち①人材育成訓練です。厚生労働省のリーフレットでは、この訓練は「10 時間以上のOFF-JTによる訓練」と定義され、支給対象は「事業主:雇用保険適用事業所の事業主/労働者:雇用保険被保険者」と書かれています。
そこから、実務で確認すべき条件は次の4つに整理できます。
| 条件 | 中身 | つまずきやすい点 |
|---|---|---|
| (1) 雇用保険 | 雇用保険適用事業所の事業主で、受講者が雇用保険被保険者であること | 役員のみ、業務委託のみ、という体制では乗りません |
| (2) 10時間以上のOFF-JT | 業務を離れて行う訓練で、合計10時間以上 | 2時間のセミナー1回では足りません。研修の設計段階から時間数を積む必要があります |
| (3) 職務との関連 | 受講する労働者の職務に関連した専門的な知識・技能の習得であること | 「教養として学ばせたい」では通りません。誰のどの業務に効かせるかを書けるかどうかです |
| (4) 経費の全額を自社が負担 | 訓練に要した経費を、支給申請までに申請事業主が全て負担していること | 親会社が一部でも負担すると、経費助成は対象外になります |
(4)は見落とされがちなので、原文を引きます。厚生労働省のQ&A(人材育成支援コース・令和6年11月版)は、親会社が経費を一部負担した場合について「申請事業主(子会社)が訓練に係った経費を全額負担することが要件となっているため、親会社が一部でも負担した場合は助成対象外となり、その他の要件を満たした場合は賃金助成のみの助成対象となります」としています。
同じQ&Aは、教育訓練機関から値引きや返金など「申請事業主の負担額の実質的な減額となる金銭の支払い」を受けた場合、その訓練経費は支給対象経費に該当しない、とも書いています。研修会社との価格交渉の仕方まで影響する話です。
コースの選び分けと、対象にならない研修の形は人材開発支援助成金とは|生成AI研修に使えるコースと、使えないケースに書きました。
3|いくら戻るのか(率と上限)
人材育成支援コース・①人材育成訓練(正規雇用労働者等)の場合、リーフレットに記載されている助成の内容は次のとおりです。カッコ内は中小企業以外の事業主の場合です。
| 区分 | 通常分 | 賃金要件・資格等手当要件を満たす場合 |
|---|---|---|
| 経費助成率 | 45%(30%) | +15%(+15%) |
| 賃金助成額(1人1時間あたり) | 800円(400円) | +200円(+100円) |
経費助成には、受講者1人1訓練あたりの限度額があります。訓練時間が10時間以上100時間未満なら中小企業15万円(大企業10万円)、100時間以上200時間未満なら30万円(20万円)、200時間以上なら50万円(30万円)です。加えて、1事業所1年度あたりの助成限度額は1,000万円、訓練の受講回数は労働者1人につき1年度で3回までと定められています。
ここで、AI研修でとくに効いてくる注記が2つあります。
- e ラーニング・通信制は経費助成のみで、賃金助成は対象外です。リーフレットの注記に「e-ラーニング、通信制による訓練は経費助成のみです。賃金助成は対象外です。」と明記されています。動画で全社に配る形を選ぶと、賃金助成の分だけ回収が落ちます。
- 所定労働時間外・休日の訓練は、賃金助成の対象になりません。Q&Aは「所定労働時間外・休日に実施した訓練は、割増賃金を支払っていたとしても、賃金助成の対象とはなりません」とし、あらかじめ振り替えた休日(振替休日)は対象、事後に付与した代休は対象外、と分けています。業務が止まらない時間帯にやりたい、という現場の希望と正面からぶつかる論点です。
「安く済ませたい」と「助成を取りたい」が逆を向く場面があるということです。金額の比較そのものはリスキリングの補助金と助成金は何が違うか|出どころ・受け取る人・申請時期で並べるに整理しました。
4|計画届は、訓練開始日の1か月前が締切です
ここが最も間違えやすく、かつ取り返しがつかない工程です。リーフレットの手続きの流れ(Step1 計画提出)には、こう書かれています。
「作成した必要書類を訓練開始日の6か月前から1か月前までの間に管轄労働局に提出する」(主な提出書類=職業訓練実施計画届(様式第1-1号)、対象労働者一覧(様式第3-1号)など。添付書類=訓練内容を確認できるカリキュラム など)
研修を終えてから申請しよう、という順番では間に合いません。そして「訓練開始日」の数え方にも落とし穴があります。Q&Aには、講習の初日に適性検査を実施する場合は「適性検査を実施する日が訓練開始日となり、当該日から起算して1か月前までに計画届の提出が必要となります」とあります。前日にオリエンテーションを入れる、事前テストを先にやる——こうした設計をすると、締切が前へ動きます。
あわせて、計画の前段として職業能力開発推進者の選任と事業内職業能力開発計画の策定・労働者への周知が手続きの流れに置かれています。研修の日程を決める前に、社内で整えるものがあるということです。
いつまでに何を決めるかを日付で逆算した表は人材開発支援助成金の申請の流れ|計画届から支給申請までの期限を逆算で並べるにあります。研修日が先に決まっている会社は、こちらから読むほうが早いです。
5|支給申請は、訓練終了日の翌日から2か月以内
実施したあとの工程です。リーフレット(Step3 支給申請)には次のように書かれています。
「職業訓練実施計画に基づき訓練を実施する」「支給申請までに、訓練にかかった経費全額を支払う」「訓練終了日の翌日から2か月以内に、必要書類を管轄労働局に申請する」
主な提出書類として挙げられているのは、支給申請書と助成額を算定した書類、OFF-JT実施状況報告書(様式第8-1号)など。添付書類は、訓練期間中の労働条件がわかるもの(雇用契約書の写しなど)、事業主が訓練費用を負担したことを確認できる振込通知書など、出勤簿・タイムカード・賃金台帳の写しです。
つまり、審査で見られるのは研修の中身そのものより、「計画どおりに実施した記録」と「たしかに払った記録」です。当日の出席の取り方を決めずに始めると、ここで足りなくなります。なお、電子申請を使う場合はGビズIDの申請・取得が必要である旨もリーフレットに記載されています。取得には日数がかかるため、計画届の前に動かしておくのが安全です。
どこで落ちるのかを実務の順に並べたものは人材開発支援助成金が不支給になるのは、どこで躓いたときか|計画届・出勤簿・賃金台帳の3点に書きました。
6|対象にならない費用と、按分されるケース
「研修にかかったお金」のすべてが対象になるわけではありません。Q&Aから、誤解の多いところを3つ引きます。
- 受講生の交通費・宿泊費は対象外。「受講生の交通費や宿泊費は助成対象になりません。訓練そのものに直接要する経費のみ助成対象となります」とされています。遠方から集める形の集合研修は、対象外の費用が膨らみます。
- 対象外の従業員が一緒に受けると、按分になる。会場に余裕があるからと助成対象労働者以外も受講させた場合、「(助成対象労働者数)/(助成対象労働者以外の従業員も含めた総受講者数)」で経費を按分して算出する、と示されています。人数を増やすほど単価が下がる、という感覚のまま組むとずれます。
- 社外講師への謝金には上限がある。Q&Aでは、事業内訓練における社外の講師への謝金について、1時間あたり1.5万円が上限である旨を前提とした質疑が置かれています。
研修の中身・時間数・実施の形が、助成金の要件によってどこまで縛られるのかは助成金を使うと、研修の中身はどこまで決められてしまうか|時間数・実施の形・記録の3つに整理しました。助成金を取りに行くと、研修は必ず設計が変わります。そこを知ったうえで選ぶのが、いちばん損の少ない進め方です。
7|人材開発支援助成金以外の選択肢
AI研修・AI人材育成で検討されることのある枠は、ほかにもあります。自社がどれに当たるのかを見るには、それぞれの記事へ進んでください。
- 事業展開等リスキリング支援コース|新しい事業や業態の展開に伴う訓練を対象とする枠です。「事業展開」に当たるかどうかの線引きは事業展開等リスキリング支援コース|対象になる「事業展開」の線引きを実務の言葉で整理するに書きました。
- 人への投資促進コース|デジタル人材の育成という枠で生成AI研修が入るかどうかは人への投資促進コース|デジタル人材育成の枠で、生成AI研修が入るかどうかに整理しています。
- 補助金(助成金ではないもの)|IT導入補助金のように、要件を満たせば必ず受けられるわけではなく採択審査があるものです。違いは生成AIの導入に使える補助金は?IT導入補助金など代表的な制度と、研修費用の見方・申請の注意点にまとめました。
- 制度の入口をひととおり見たい場合はリスキリング助成金とは?生成AI研修に使える制度と申請の流れから読むのが早いと思います。
そもそも研修の予算が取れない、という段階の方は社員教育の予算が取れないとき|助成金で組み直すという選択肢と、その前に確かめることもあわせてどうぞ。
8|正直に申し上げておきたいこと
- 支給は保証できません。要件を満たして申請しても、審査の結果によって対象可否や金額は変わります。「使える前提」で資金計画を立てるのは危険です。
- 金額・要件は変わります。この記事に書いた率・上限・期限は、末尾に挙げた資料の記載時点のものです。年度や改定で変わるため、動く前に最新版をご確認ください。
- 申請代行は社会保険労務士の独占業務です。研修会社や無資格の事業者が申請手続きを代行することはできません。「うちが申請まで全部やります」と言う研修会社があれば、そこは確かめたほうがよい部分です。
- 助成金ありきで研修を組むと、たいてい薄くなります。時間数を満たすために内容を水増しした研修は、受講者の時間を使うだけです。当社は「研修はやる。使えるなら助成金も使う」という順番をおすすめしています。
9|提携社労士による無料診断
ここまで読んで、「要件が細かくて、自社が対象になるか分からない」と感じた方が多いと思います。それが普通の感覚です。
当社では、提携している社会保険労務士による無料診断をご案内しています。貴社の雇用保険の状況と研修プランをもとに、対象になり得るか・どのコースが候補かを整理します。申請手続きが必要な場合は、独占業務を担える社労士が対応します。「今回は対象になりにくい」という回答になることもあります。無理に使わせるための診断ではありません。
まとめ
AI研修・AI人材育成の費用は、人材開発支援助成金(人材育成支援コース)の対象になり得ます。条件は4つ。雇用保険の適用、10時間以上のOFF-JT、職務との関連、経費の全額を自社が負担すること。
金額は、正規雇用労働者等への人材育成訓練で経費助成率45%(中小企業以外30%)、賃金助成1人1時間あたり800円(同400円)。ただしe ラーニング・通信制は賃金助成の対象外で、所定労働時間外・休日の訓練も賃金助成が付きません。
順番はひとつだけ覚えてください。計画届は訓練開始日の6か月前から1か月前までに提出。支給申請は訓練終了日の翌日から2か月以内。この2つの期限を外すと、内容がどれだけ良くても届きません。
そのうえで、当社の立場を最後にもう一度。助成金は目的ではなく、研修を実施できるようにするための手段です。使えるかどうかを先に確かめて、使えるなら乗せる。使えないなら、規模と時間を組み替えて実施する。その順番でご相談に乗っています。
※本記事は、記載時点で公表されている厚生労働省の資料に基づく一般的な整理であり、個別の事案における支給の可否・金額を判定するものではありません。引用および数値の出典は、厚生労働省「人材開発支援助成金『人材育成支援コース』のご案内」(都道府県労働局・ハローワーク/LL080408開企05・https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/001687559.pdf )および「人材開発支援助成金事業主様向けQ&A(人材育成支援コース)令和6年11月版」(https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/001330281.pdf )です。助成率・助成額・限度額・提出期限・様式番号は制度の改定により変わることがあるため、実際の申請の前に、必ず最新版のパンフレットと管轄の都道府県労働局にご確認ください。助成金の支給を保証するものではありません。助成金の申請代行は社会保険労務士の独占業務であり、当社では行いません。