AI研修のダミーデータの作り方|実データを出せない会社が、業務に近い題材を用意する手順

この記事の要点
- AI研修の演習に実データを出せないときは、実物の形を残したダミーデータを作ります。
- 置き換えるのは、固有名、数値、日付の3つです。書類の構成、項目の並び、言い回しは残します。
- 置き換えすぎると、演習が業務から離れます。数字の関係と、文書の癖は崩さないようにします。
目次
自社のデータを研修会社に渡せない、または渡したくない人事・情報システム・研修担当の方に向けて、演習に使うダミーデータの作り方をまとめます。出せない理由は会社ごとに違います。実データを使ってよいかどうかの判断は演習で自社のデータを使ってよいかの判断基準で扱っています。この記事は、その判断で「実データは使わない」と決めたあとの手順です。
AI研修の演習にダミーデータを使う場面
AI研修の演習は、受講者の業務に近い題材を使うほど、職場に戻ってから使われやすくなると当社は考えています。ただ、実際の見積書や顧客とのメールには、社外に出せない情報が入っています。ダミーデータは、実物の形を保ったまま、出せない情報だけを置き換えたものです。次のような場面で使います。
- 顧客の名前や取引の金額が入った書類を、演習の題材にしたい。
- 社内の規程で、業務のデータを研修会社や外部のサービスに渡せない。
- 研修で使うAIツールが、会社として認めた環境ではない。
- 個人情報が入った資料しか、手元に実物がない。
例題でも演習はできます。ただ、研修会社が用意した汎用の例題は、自社の書類と形が違います。受講者は職場に戻ってから、自分の業務への当てはめをやり直すことになります。自社の書類から作ったダミーデータなら、その手間が減ります。
置き換える項目と、残す項目
最初に線を引きます。何を置き換え、何を残すかです。
図1 置き換える項目と、残す項目
誰の、いくらの、いつの話かが分かる情報
業務のやり方が表れる部分
置き換えるのは中身の値で、書類の形と数字の関係は残します。
固有名
社名は「A社」「B社」、人名は「担当者A」「担当者B」のように、記号の名前に置き換えます。同じ相手は、文書のなかで同じ名前に置き換えます。途中で名前が変わると、AIも受講者も、誰の話かを追えなくなるからです。商品名は、型番や愛称から会社が特定できる場合に置き換えます。住所、電話番号、メールアドレスは、実在しない形にします。
数値
金額や数量は、桁をそろえたまま別の数字にします。大事なのは関係です。明細の合計が合う、前月より増えている、予算を超えている、といった関係が崩れると、集計や比較の演習が成り立ちません。全部の数字に同じ率を掛ける方法なら、関係を保ったまま置き換えられます。ただし、同じ率を掛けただけの数字は、1つの実額を知っている人には元に戻せます。利益率や値引率のように、比率そのものが出せない情報のときは、比率も変えます。
日付
日付は、全体を同じ日数だけずらします。こうすると、受注から納品までの日数や、支払いの期限までの残り日数といった間隔が、置き換えたあとも保たれます。曜日が意味を持つ業務では、7の倍数でずらすと、曜日も保てます。同じ日数だけずらした日付も、1つの実際の日付を知っている人には元に戻せます。日付そのものが出せない情報のときは、間隔も変えます。
個人についての記述が入った書類は、名前の置き換えだけでは足りない
経歴、評価、健康の状態、問い合わせの経緯のように、人についての記述が入った書類は、名前を置き換えても本人が分かることがあります。本人に関する記述は削るか、生成AIに一から作らせた架空のデータを使います。置き換えたあとも社内では個人情報として扱い、社外に渡す前に、社内の個人情報の担当に確かめます。判断の順番は演習で自社のデータを使ってよいかの判断基準で扱っています。
表1 置き換えの例
| 項目 | 実物の形 | 置き換えたあとの形 | 気を付けること |
|---|---|---|---|
| 取引先の名前 | 実在の会社名 | A社、B社 | 同じ会社は、最後まで同じ記号にする |
| 担当者の名前 | 実在の氏名 | 担当者A、担当者B | 役職と敬称は残す |
| 金額 | 実際の金額 | 全部に同じ率を掛けた金額 | 明細と合計が合うことを確かめる。比率が出せない情報なら、比率も変える |
| 日付 | 実際の日付 | 全体を同じ日数だけずらした日付 | 前後の順と間隔を保つ。日付が出せない情報なら、間隔も変える |
| 商品名 | 実際の商品名、型番 | 商品X、型番000 | 商品の種類が分かる言葉は残す |
| 文章 | 実際の本文 | 固有名を置き換えた本文 | 言い回しと長さは変えない。個人についての記述は削る |
ダミーデータの作り方:4つの手順
図2 ダミーデータを作る手順
置き換えの前に、項目の一覧を作ります。その場の判断で消すと、消し方がそろいません。
手順1では、うまくいった例だけでなく、差し戻しになった書類や、情報が足りないメモも入れておきます。実務では、整っていない資料も扱うためです。手順2の一覧は、社内の情報の区分に合わせて作ります。見落としやすいのは手順4です。本文を置き換えても、ファイルの名前、作成者の情報、表計算の非表示の列やコメントに、実名が残ることがあります。作った人とは別の人が、こうした場所まで開いて確かめます。
置き換えの作業そのものに、外部のAIを使わない
実データを外部のAIツールに入力して「匿名にして」と頼むと、その時点で実データを社外に渡したことになります。置き換えは、社内の表計算や文書の機能で行うか、会社が認めた環境で行います。
置き換えすぎると、演習が崩れる
消しすぎも困ります。安全を優先して何もかも消すと、演習の題材として使えなくなります。置き換えすぎの例は、次のようなものです。
- 数字を全部「〇〇円」にする。集計も比較もできなくなります。別の数字に置き換えます。
- 文章を要約して短くする。実物の長さと言い回しが、AIに任せる作業の難しさを決めます。短くすると、演習ではうまくいっても、実物では通用しません。
- 項目を削る。使わない項目が混じっていることも、実物の特徴です。削ると、必要な情報を選ぶ練習ができません。個人に関する項目は別で、こちらは削ります。
- きれいに整える。誤字や表記のゆれ、抜けている情報を直してしまうと、実務で起きることが演習に出てきません。
残す線は、「業務のやり方が分かるか」で引く
受講者がダミーデータを見て、「これはうちのあの書類だ」と分かれば、演習は業務につながります。あわせて、誰の、いくらの話かが、社外の人に分からないことを確かめます。それでも分かる場合があるので、手順4の確認と、渡してよいかの社内の判断は省きません。
生成AIにダミーデータを作らせるときの注意
別の方法もあります。実物から作らず、生成AIに一から架空のデータを作らせるやり方です。書類の項目と件数を指定して、架空の見積書や問い合わせの文面を作らせます。実データを入力しない方法ですが、次の点に注意します。
- 自社の書類の形と違うものが出てきます。項目の名前と並びを、指示で指定します。
- 整いすぎたデータが出てくることがあります。情報の抜けや表記のゆれを、わざと入れるよう指示します。
- 架空のつもりの社名や人名が、実在の名前と重なることがあります。記号の名前に置き換えておきます。
- 数字の合計が合っていないことがあります。使う前に、検算します。
研修会社に渡す前に確かめること
- ダミーデータを渡す範囲を、社内の責任者が確認したか。
- 研修会社との間に、秘密保持の取り決めがあるか。
- 研修で使うAIツールに、ダミーデータを入力してよいか。
- 研修のあと、渡したデータをどう扱うか(返す、消す)が決まっているか。
ノセカエの研修は、貴社の業務を題材に進めます。個人情報や取引先の名前は、伏せた形でお持ちいただいて構いません。演習に使う資料の範囲は、事前のヒアリングでうかがいます。入力してよい情報の決め方は、生成AIのセキュリティで整理しています。料金と内容はノセカエのトップページでご確認ください。
この記事のまとめ
- 実データを出せないときは、実物の形を残したダミーデータを作る。
- 置き換えるのは固有名、数値、日付。構成、言い回し、数字の関係は残す。
- 置き換える項目の一覧を先に作り、別の人が確かめる。
- 置き換えの作業は、社内の機能か、会社が認めた環境で行う。
- 個人についての記述は削り、渡す前に社内で確かめる。
よくある質問
- AI研修で、ダミーデータは誰が用意しますか
自社の書類から作る場合は、発注する会社の側で用意します。実物を見られるのは社内の人だけだからです。研修会社には、どの業務の書類を何件ほど用意すればよいかを、事前に確かめます。
- ダミーデータにすれば、どのAIツールに入力しても大丈夫ですか
いいえ。置き換えが十分かどうかによります。固有名を消しても、取引の内容や数字の組み合わせから相手が分かることがあります。別の人の目で確かめ、会社として認めたツールで使ってください。
- 汎用の例題と、ダミーデータは何が違いますか
汎用の例題は、研修会社が用意した、どの会社にも使える題材です。ダミーデータは、自社の書類の形と言い回しを残して、値だけを置き換えたものです。受講者が自分の業務を思い浮かべられるかどうかが違います。
- 個人情報を消せば、個人情報ではなくなりますか
名前を消しただけでは、そうとは限りません。個人情報保護委員会のガイドラインは、他の情報と容易に照合でき、それによって特定の個人を識別できるものも、個人情報に含むとしています。元の書類を持っている会社の側では照合できる場合があるので、置き換えたあとも社内では個人情報として扱い、社外に渡す前に社内の個人情報の担当に確かめてください。この記事は、法律上の判断を示すものではありません。
参考資料・注意事項
- 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」(2023年6月2日)
https://www.ppc.go.jp/news/careful_information/230602_AI_utilize_alert/ - 個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」
https://www.ppc.go.jp/personalinfo/legal/guidelines_tsusoku/ - 個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(仮名加工情報・匿名加工情報編)」
https://www.ppc.go.jp/personalinfo/legal/guidelines_anonymous/
最終確認:2026年10月2日。置き換える項目と手順は、当社の考え方を整理したもので、情報の安全を保証するものではありません。渡してよい情報の範囲は、自社の規程と、取引先との契約でご確認ください。
出せる資料の範囲に合わせて、演習の題材を一緒に決めます。
扱いたい業務と、社外に出せない情報をうかがい、演習に使う資料の用意の仕方を、30分の無料相談で確認します。
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