生成AI研修の当日に手が止まる会社は、どこで詰まっているか
研修が始まって10分。講師が「では画面を開いてください」と言ったところで、会場のあちこちから手が挙がります。ログインの画面が出ない。パスワードが通らない。確認コードを受け取るスマートフォンをロッカーに置いてきた。ようやく全員が画面を開けたと思ったら、今度は質問を入れても答えが途中で止まる人が出てくる。
こうして冒頭の30分が接続の確認で消えると、その日の研修は取り戻せません。演習の時間が削られ、受講者は「結局、うちの環境では使えない」という印象だけを持ち帰ります。研修の中身が悪かったのではなく、始まる前に止まっていたという事態です。
先に、当社にとって都合の悪いことを書きます。この種の詰まりは、研修会社の側からはほとんど直せません。受講者の端末の設定も、社内ネットワークの制限も、講師が当日その場で変えられるものではないからです。確かめられるのは、社内の情シス・総務の方だけです。この記事は、実施日が決まったあとに前の週までに何を確かめておけばよいかを、止まる場所の順に整理したものです。
1|止まる場所は、3つしかない
当社がこれまで研修の準備でご相談を受けてきた範囲では、当日の詰まりはほぼ次の3つに分かれます。
| 止まる場所 | 当日の症状 | 確かめる人 |
|---|---|---|
| (1) 受講者の端末で使えるか | ログイン画面が出ない/パスワードが通らない/確認コードが受け取れない/必要なアプリが入っていない | 情シス(端末管理・アカウント管理) |
| (2) 社内の通信制限で止まらないか | サイト自体が開かない/開くが答えが途中で止まる/一部の人だけつながらない | 情シス(ネットワーク・セキュリティ) |
| (3) 演習の素材が当日そろうか | 演習用のファイルが開けない/届いていない/入力してよいか受講者が迷って手が止まる | 研修の主管部署(人事・総務) |
3つとも、当日の朝に気づいても間に合わないのが共通点です。アカウントの再発行にも、通信制限の例外設定にも、社内の承認が要るからです。
2|(1) 受講者の端末で使えるか
最初の詰まりは、画面を開く前に起きます。確かめる項目は4つです。
会社の端末か、私物の端末か
研修で使う端末が会社支給なのか、個人のスマートフォンやパソコンなのかを先に決めてください。私物の端末で業務用のアカウントにログインさせてよいかは、会社の規程で決まっていることが多い項目です。当日になって「私物は禁止だったはず」と誰かが言い出すと、そこで止まります。
ブラウザとアプリ
会社支給の端末では、使えるブラウザや拡張機能、インストールできるアプリが制限されていることがあります。受講者が管理者権限を持っていない端末では、当日その場でアプリを入れることはできません。研修でアプリ版を使う予定なら、配布は情シスの側で事前に済ませておく必要があります。
アカウントと多要素認証
いちばん多いのがここです。会社で契約した生成AIのアカウントは、社内のシングルサインオンや多要素認証とつながっていることが多く、確認コードを受け取る2台目の端末(多くはスマートフォン)が手元に無いとログインできません。工場や店舗など、作業中にスマートフォンを持ち込まない職場の方が受講者にいる場合は、研修室への持ち込みを事前に決めておいてください。
前の週までに、全員に1回ログインしてもらう
4つの項目を1回で確かめる方法があります。研修の前の週までに、受講者全員に一度ログインしてもらい、ログインできたかどうかを報告してもらうことです。ここで止まった人だけを情シスが個別に対応すれば、当日の冒頭は講師の説明から始められます。アカウントの持ち主と契約の形そのものがまだ決まっていない場合は、その手前の話になります。こちらはChatGPT研修の前に決めるアカウントと契約|個人アカウントのまま研修をやると何が残らないかに整理しました。
3|(2) 社内の通信制限で止まらないか
2つ目の詰まりは、画面が開いたあとに起きることがあり、原因が分かりにくいのが特徴です。
サイトが開かない:URLフィルタ
社内のネットワークで、生成AIのサービスへの接続そのものを止めている会社があります。以前に「業務で使わないように」と遮断の設定を入れ、そのまま残っているケースです。研修で使うと決めたのに、遮断の設定を外す手続きが誰の仕事にもなっていないと、当日にこれが出ます。
開くが答えが止まる:接続の方式
分かりにくいのはこちらです。生成AIのサービスには、通常のページの読み込みとは別の方式の通信を使う機能があります。OpenAIのヘルプセンターでは、ChatGPTの一部の機能がHTTPSに加えてWebSocketという方式の通信を使うこと、組織がこれを既定で止めていると機能が止まったり切れたりすることがあると案内されています。MicrosoftもMicrosoft Learnで、管理されたネットワークではCopilotのドメインへのWebSocket接続を有効にするよう、IT管理者に求めています。
つまり、サイトが開くことを確かめただけでは足りません。実際に質問を入れて、答えが最後まで表示されるところまで確かめてください。プロキシや通信の検査(TLSの検査)を入れている会社では、この部分が引っかかることがあります。どのドメインや方式を許可すべきかは、使うサービスの公式ドキュメントの現行版に従ってください。この記事では個別の設定値は書きません。改定されることがあるためです。
一部の人だけつながらない:研修室の回線
普段の席ではつながるのに、研修室ではつながらない、ということも起きます。会議室のWi-Fiが来客用のネットワークで社内とは別の制限がかかっている、あるいは数十人が同時につなぐ前提になっていない、といった場合です。確認は、研修室で、当日と同じ種類の端末を使って、当日と同じ回線で行ってください。情シスの席から確認して「つながりました」では、当日の状況は分かりません。
4|(3) 演習の素材が当日そろうか
3つ目は技術の問題ではありません。演習で何を入力するかが決まっていないと、受講者は画面を開けたあとに手が止まります。
- ファイルが端末に届いているか。演習用のファイルをメールに添付する予定なら、社内のメールで添付の容量や形式に制限がないか。共有フォルダに置く予定なら、受講者全員に閲覧の権限がついているか。
- 入力してよい情報かどうか、受講者が迷わないか。社内に生成AIの利用ルールがある会社では、研修の演習でもそのルールが効きます。「この資料は入れていいのか」と受講者が一人ひとり考え始めると、演習が進みません。演習で使う素材は、主管部署が事前に「これは入れてよい」と決めて配ってください。ルールの作り方は生成AIの社内ルール(AI利用規程)の作り方|入れてはいけない情報とひな形の考え方に書きました。
- 自社の実データを使う演習なら、加工が済んでいるか。実務に近い演習ほど効果は上がりますが、先に決めることも増えます。その整理は演習で自社の実データを使わせてよいか|実務に近づけるほど、先に決めておくことが増えるに書きました。
5|前の週までの確認は、この順番で
ここまでの内容を、実施日から逆算した順番に並べ直します。日数は当社がおすすめしている目安で、社内の承認にかかる時間によって前後させてください。
| いつ | 誰が | 何を確かめるか |
|---|---|---|
| 実施日の2週間前まで | 情シス・総務 | 使う端末(会社支給か私物か)と、使うサービスへの接続が社内で許可されているか。遮断の設定が残っていれば外す手続きを始める |
| 1週間前まで | 情シス | 研修室で、当日と同じ種類の端末1台を当日と同じ回線につなぎ、質問を入れて答えが最後まで表示されるところまで確かめる |
| 1週間前まで | 受講者全員 | 一度ログインし、できたかどうかを報告する。止まった人だけ情シスが個別に対応する |
| 3営業日前まで | 人事・総務 | 演習の素材を配り、受講者の端末で開けるかを確かめる。「入力してよい素材」であることを添えて伝える |
| 当日の朝 | 主管部署 | 確認コード用のスマートフォンの持参を声かけする。予備の端末を1〜2台用意しておく |
表のうち、一番効くのは2行目と3行目です。研修室での実機の確認と、全員の事前ログイン。この2つが済んでいれば、当日の詰まりの大半は前の週のうちに表に出ます。
6|それでも当日止まったときの逃げ道
準備をしても、当日に1人、2人つながらない人は出ることがあります。そのときに研修全体を止めないための逃げ道を、あらかじめ講師と決めておいてください。
- 隣の人と1台を2人で使う。演習を2人1組に切り替えれば、つながらない人も手を動かす側に回れます。
- 講師の画面を映して進める。接続の対応は休憩時間に情シスが行い、本人は講師の画面で流れを追います。
- その場で直そうとしない。講師が受講者の端末の設定を触って直そうとすると、他の全員が待つことになります。会社の端末の設定を外部の講師が変えることは、情報管理の面からもおすすめしません。
なお、助成金の活用を予定している研修で、当日の詰まりによって実施時間が計画より短くなった場合の扱いは、要件に関わることがあります。計画した時間どおりに実施できなかった場合の扱いは、事前に管轄の労働局に確認してください。助成金を使う研修で決められてしまう項目の整理は助成金を使うと、研修の中身はどこまで決められてしまうか|時間数・実施の形・記録の3つに書きました。
ノセカエの場合と、正直に申し上げること
- 端末と回線の設定は、当社からは直せません。講師が現地で解決できることは限られます。だからこそ、実施日が決まった段階で、この記事の確認項目を御社の情シスの方と一緒に確かめることをおすすめしています。
- 「当日なんとかなる」とは申し上げません。冒頭の30分が接続の確認で消えた研修は、演習の時間を取り戻せないまま終わります。その結果の責任を受講者の理解度のせいにするのは筋違いです。
- 通信の設定値や許可すべきドメインを、当社が断定してお伝えすることはしません。サービス側の仕様は改定されることがあり、御社のネットワークの構成によっても変わります。判断の根拠は各サービスの公式ドキュメントの現行版と、御社の情シスの確認です。
- 研修が終わったあとも、アカウントと端末の管理は続きます。当日のために作ったアカウントや例外設定が、そのまま残ってしまうことがあります。止め方と棚卸の回し方は研修が終わったあと、アカウントは誰が止めるか|退職・異動で残るアカウントと、棚卸の回し方に書きました。
- この記事の内容は、当社がこれまでご相談・実施してきた範囲での整理です。統計調査に基づくものではなく、御社の環境によってはここに無い理由で止まることもあります。
まとめ
生成AI研修の当日に手が止まる場所は3つです。受講者の端末で使えるか。社内の通信制限で止まらないか。演習の素材が当日そろうか。
3つとも研修会社の側からは直せず、当日の朝に気づいても間に合いません。確かめられるのは社内の情シスと主管部署だけで、確かめる時期は前の週までです。
一番効くのは2つ。研修室で、当日と同じ端末と回線を使い、答えが最後まで表示されるところまで確かめること。受講者全員に前の週までに一度ログインしてもらうこと。サイトが開くだけでは確認になりません。
研修の中身をどれだけ作り込んでも、始まる前に止まれば届きません。当日の最初の10分を講師の説明から始められるかどうかは、前の週の準備で決まります。
実施日が決まったら、準備の確認を一緒に進めます。
使う予定のサービス、受講者の端末、研修室の回線、演習で使う素材の予定をうかがい、前の週までに確かめておく項目をお返しします。助成金の活用を検討している場合は、対象となる場合があるかの見立てもあわせてお伝えします。ご相談だけでも承ります。
助成金が使えるか無料診断 →※本記事は、記載時点で各社が公開している公式ドキュメントに基づく一般的な整理であり、個別の環境における設定の適否を判定するものではありません。参照した資料は、OpenAI Help Center「Network recommendations for ChatGPT errors on web and apps」、Microsoft Learn「Microsoft Copilot 管理者のアプリとネットワークの要件」です。サービスの仕様、通信の方式、許可すべきドメインは改定されることがあるため、設定の前に各社の最新のドキュメントと、自社の情報システム部門の確認をお願いします。ChatGPTは OpenAI、Microsoft 365 Copilot は Microsoft Corporation の製品・サービスです。助成金は要件を満たす場合に対象となることがあるもので、受給・採択を保証するものではありません。要件・様式・申請期限は改正されることがあるため、実施前に管轄の労働局および厚生労働省の最新の案内をご確認ください。研修当日の詰まりに関する記述は、当社がご相談・実施してきた範囲に基づく整理であり、統計調査に基づくものではありません。