経営層が分かっていない会社で、生成AI研修は上から入れるか、現場から入れるか

目次
現場からは要望が出ているのに、役員が生成AIを分かっておらず、稟議が上がらない。そこで止まっている人事・経営企画の担当者に向けて、何から先に手を打つかを整理します。
迷うのは、役員向けの研修を先に入れて理解してもらうか、現場に小さく入れて成果を作ってから上げるかの二択です。順番を決めかねている間は、どちらにも予算がつきません。
まず押さえておきたいのは、役員研修だけを入れても、現場は動かないということです。90分の講義で役員が納得しても、翌週から現場の仕事の仕方が変わるわけではありません。ノセカエには経営層向けセミナー(90分)がありますが、それ単体を「導入の第一歩」とすることは、おすすめしません。
それでも、上から入れるべき会社はあります。順番を間違えると、現場が動き始めたあとに予算が止まるからです。この記事では、どちらから入れるかを自社で判定できるよう、3つの観点と役員に決めてもらう4項目を整理します。人数の絞り方(全員か選抜か)は生成AI研修を全員に受けさせるか、選抜にするかで扱っており、本記事は階層の順番に絞ります。
1|役員研修だけを入れても、現場が動かない理由
理由は単純で、役員は自分では手を動かさないからです。
生成AIの研修が効くのは、受講者が翌日に自分の手で試す仕事を持っているときです。議事録を書く、メールの下書きを作る、資料の骨子を起こす、問い合わせへの返答案を用意する。こうした作業が自分の手元にある人は、研修で覚えたことをその週のうちに使います。使うから定着します。
役員の日常業務は、多くの場合そうではありません。判断すること、人に会うこと、決めること。手を動かす作業は既に誰かに任されています。そのため役員向けに操作の講義をすると、その場では興味を持っていただけても、翌日に使う場面がないまま忘れられがちです。これは理解力の問題ではなく、業務の性質の問題です。
もう一つ、見落とされやすい点があります。役員が「分かった」と言った状態と、稟議が通る状態は別です。技術の説明を受けて納得しても、決裁の場で問われるのは「情報が漏れないのか」「誰が責任を取るのか」「いくらかけて、いつやめるのか」です。操作を見せる研修では、この3つに答えが出ません。
役員向けのセッションで最初に押さえることをおすすめするのは、使い方ではなく「この場で決めたいことが4つある」ことです。決めることを持ち帰っていただかないと、集まった意味がなくなります。4つの中身は4章で説明します。
2|上から入れる目的は「途中で止まらないようにすること」
役員から入れる理由は「理解してもらうため」ではありません。途中で止まらないようにするためです。
現場から小さく始めた取り組みが半年ほどで止まるケースがあります。止まり方には典型があり、次のいずれかです。
- 情報の扱いで一度ヒヤリとして、全社的に禁止になる。ルールを決める前に走り出したときに起きます。
- 予算の更新で落ちる。「効果が数字で示せていない」という理由がつきますが、実際には、決裁者がその取り組みを自分ごととして知らなかったことが原因です。
- 推進していた担当が異動して、後任が引き継がない。役員がその価値を認識していないと、後任の評価対象になりません。
3つとも、現場の努力では防ぎにくいものです。防げるのは、決裁権を持つ人が最初に何かを決めている場合です。つまり上から入れる目的は、役員に使えるようになっていただくことではなく、止め方と続け方の基準を先に決めていただくことにあります。
3|上からか現場からかを判定する3つの観点
研修の前に確かめたいのは、次の3点です。この3つで、上からか現場からかがおおむね決まります。
| 確認すること | 上から入れたほうがよい状態 | 現場から入れたほうがよい状態 |
|---|---|---|
| (1) 予算の出どころ | 全社の教育予算や情シス予算から出す=役員会の議題に上がる | 部門の裁量予算で始められる=決裁が部長で完結する |
| (2) 止めているのは何か | 「怖い」(情報漏えい・炎上・責任の所在)=不安が理由 | 「分からない」(何に使えるのか想像がつかない)=実例が無いことが理由 |
| (3) 成果の出る業務が既にあるか | まだ特定できていない。どの部署から手を付けるかも未定 | 特定できている。毎月決まって発生する定型業務が見えている |
3つのうち2つ以上が左側なら上から、2つ以上が右側なら現場からです。判断を最も左右するのは(2)です。
「怖い」が理由なら、実例をいくら見せても動かない
役員が止めている理由が不安である場合、他社の成功事例を積み上げても決裁は下りにくいものです。不安に対する答えは事例ではなく、ルールと責任の所在だからです。この場合は、役員に集まっていただき、社内で使ってよい情報の範囲と、事故が起きたときの報告経路を決めるところから始めるほうが早く進みます。ルールの項目はAI利用規程の作り方で整理しています。
「分からない」が理由なら、説明より1件の結果
逆に、役員が用途を想像できていないだけであれば、現場で1件やってみるほうが早いでしょう。何度説明するより、自社の資料が実際に短時間で形になったところを1度見ていただくほうが伝わります。どの業務から始めるかは中小企業の生成AI導入ステップを参考にしてください。
4|役員の時間で決めてもらう4つのこと
上から入れると決めた場合、その時間で扱うべき内容は操作ではありません。持ち帰るのではなく、その場で決める項目を4つ用意する形をおすすめします。
- 入れてよい情報と、入れてはいけない情報の線。顧客の個人情報、未公開の財務数値、他社から預かった資料。どこまでを禁止にするかを決めます。ここが決まらないと、現場は自分で判断できず、結局使いません。
- 人事評価に使うかどうか。「AIを使ったかどうか」を評価に紐づけるのか、紐づけないのか。紐づけると短期的には利用が伸びますが、形だけの利用報告が増えます。当社は原則として紐づけないことをおすすめしていますが、会社の文化にもよります(生成AIの利用を人事評価に入れるかどうか)。
- 成果物の責任の所在。AIが作った下書きを社外に出して問題が起きたとき、責任は作った本人か、承認した上長か。ここを決めておくと、現場は安心して使えます。決めないと、誰も自分の名前で出したがりません。管理職の確認のしかたは部下が生成AIで作った資料を上司がどう確認するかで扱っています。
- いくらかけて、いつ判断するか。初年度の予算上限と、続けるか止めるかを判断する時期。やめる基準を先に決めておくと、予算が途中で消えません。「効果が出なければ半年でやめる」と決めてある取り組みのほうが、かえって続く傾向があります。
この4つに答えが出れば、役員の時間は90分で足ります。逆に、この4つを扱わずに操作の説明だけをすると、時間をかけても何も決まりません。効果の見積もり方は生成AI研修のROIの試算方法で扱っています。
5|現場から入れる場合、3か月後に役員へ返す材料
現場から始めると決めた場合でも、役員を置き去りにしてよいわけではありません。3か月後に、決裁の場に出せる材料を用意しておく必要があります。準備しないまま次の予算期を迎えると、2章の「予算の更新で落ちる」に当たります。
返す材料は3つで足ります。
- 何人が、何の業務で、何回使ったか。削減時間の推計より先に、使われているかどうかの実数です。使われていないなら、そこを直すのが先になります。
- 成果物を1つ、現物で。資料でも、返信文でも、議事録でも構いません。「これを、この時間で作りました」が最も伝わります。
- ヒヤリとしたことがあれば、隠さず1件。これを出しておくと、役員の不安が具体的な話に変わります。何も起きていないという報告だけでは、かえって信用されにくいものです。
現場で試す研修の組み立て方は、生成AI研修とは何か、ツール紹介で終わる研修との違いにまとめています。
6|判断の前に知っておきたいこと
- 経営層向けセミナー単体でも開催できますが、それだけで現場が変わるとは考えていません。お申し込みの際は、そのあと現場にどう続けるかを一緒に決めています。
- 「役員が分かっていない」と一括りにできない会社もあります。分かっていないのではなく、過去に別のIT投資で失敗した経験があることもあります。この場合は、生成AIの説明より、前回何が起きたのかを聞くところから始めるほうが早く進みます。
- 順番に唯一の正解はありません。3点の判定は当社の考え方の整理で、統計に基づくものではありません。会社の規模や業種によって、当てはまり方は変わります。
- 公的な基準を社内議論の土台にできます。経済産業省と情報処理推進機構(IPA)が公表している「デジタルスキル標準」のうちDXリテラシー標準は、「すべてのビジネスパーソン」を対象としています。社内で順番を議論する際の共通の土台として使えます。
- 費用の一部が助成の対象になる場合があります。厚生労働省の人材開発支援助成金は、要件を満たす場合に対象となることがありますが、受給を保証するものではありません。訓練内容・時間・計画届の提出時期などの要件があるため、実施前に管轄の労働局へご確認ください。期限の逆算は人材開発支援助成金の申請の流れで整理しています。
順番とは別に、役員と現場を同じ日の研修にまとめてよいかという問題もあります。決裁・演習・社内の関係の3つで分ける考え方は役員と現場を同じ日に研修してよいかにまとめました。
まとめ
役員が分かっていないから研修が入らない状態で最初にすべきことは、止めている理由が「怖い」のか「分からない」のかを見分けることです。怖いなら上から入れ、操作ではなく情報の線・評価との関係・成果物の責任・予算と判断時期の4つを決めてもらう。分からないだけなら現場から始め、3か月後に使われた実数・成果物の現物・ヒヤリとした1件を役員に返します。
参考資料・注意事項
- 独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「デジタルスキル標準」https://www.ipa.go.jp/jinzai/skill-standard/dss/index.html
- 厚生労働省「人材開発支援助成金」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/d01-1.html
最終確認:2026年9月24日。デジタルスキル標準・助成金の要件は改訂されることがあるため、参照時は最新版をご確認ください。研修の順番に関する記述は当社の考え方の整理です。
貴社が上からか現場からか、30分の無料相談で一緒に確かめます。
予算の出どころ、役員が止めている理由、成果の出そうな業務の有無をうかがい、どちらから入れるかを確認します。まだ社内で方向が固まっていない段階のご相談で構いません。
自社向けの研修内容を相談する →お電話でのご相談:03-6820-2744(平日10:00〜18:00)
