生成AI研修は全員に受けさせるか、選抜にするか
研修のご相談で、いちばん長く止まるのがここです。「全員に受けさせるべきでしょうか。それとも、まず何人か選んで受けさせるべきでしょうか」。中身の話でも、金額の話でもなく、誰に受けさせるかが決まらないので見積の前提が立たないという段階で止まります。
先に、当社にとって都合の悪いことから書きます。全員研修のほうが、受託する側の売上は大きくなります。人数が増えれば回数も増え、教材の配布範囲も広がるからです。ですから当社が「全員でいきましょう」と言うのは、営業として自然な発言であって、それだけでは判断材料になりません。
そのうえで実際に見てきたことを書くと、選抜にした会社のほうが、半年後に何も残っていない例が多くあります。理由は熱量の問題ではありません。選ばれた数人が新しいやり方を持ち帰っても、承認する側と、隣で仕事をしている人が同じ前提を持っていないと、その人の手元で止まるからです。「便利そうだけど、うちの部署ではまだ早い」と言われて終わります。
この記事は「誰に受けさせるか」の決め方だけを扱います。研修の中身そのものはAIリテラシー研修とはに、育てる階層の考え方はAI人材育成とはに、予算の作り方は社員教育の予算が取れないときに分けて書いています。
1|二択のそれぞれで、実際に何が起きるか
どちらにも、はっきりした失敗の形があります。先にそれを並べます。
| 起きやすいこと | 半年後の状態 | |
|---|---|---|
| 全員に広げる | 1人あたりの時間が薄まる。演習が「触ってみた」で終わる。もともと使っていた層には物足りず、まったく触っていない層には速すぎる | 全員が言葉は知っている。業務は変わっていない |
| 選抜にする | 受けた数人だけが前提を持つ。持ち帰った成果物を承認する側が判断できず、差し戻しも承認もされない | 数人が個人的に使っている。組織としては何も変わっていない |
右列を見ていただくと分かるとおり、失敗したときの結末は、実はほぼ同じです。「業務が変わらない」。原因が違うだけで、行き先が同じなら、二択そのものが問いとして粗いということになります。
2|二択の前に、数えることが4つあります
面談では、全員か選抜かをお聞きする前に、この4つを数えていただいています。ここが埋まると、答えはたいてい自動的に出ます。
- いま自分の判断で使っている人が、社内に何人いるか。 会社が用意していなくても、個人で使っている人はいます。この数がゼロなのか、5人いるのかで設計が変わります。5人いるなら、その人たちを受講者ではなく演習の題材提供役に回せます。
- 成果物を承認する立場の人が、何人いるか。 課長・部長・役員の数です。ここが本記事でいちばん大事な数字です。
- 1回の研修で、業務を止められる最大人数。 全員を同時に抜けない会社がほとんどです。3回に分けられるのか、2回が限界なのか。時間が取れない場合の切り方は研修の時間が取れない会社に別途書きました。
- 半年後に「変わった」と言える業務を、いくつ挙げられるか。 議事録・提案書の下書き・問い合わせ返信の草案など、具体名で挙げます。挙がらないなら、対象者の議論より先にここを決める段階です。
3|全員か選抜かではなく、「順番」で決まります
4つを数えていただいた会社に、当社がお出ししている案はほぼ同じ形です。全員か選抜かの二択ではなく、先に受ける層を決め、時期をずらすという形です。
先に入れるのは、承認する側です
ここが直感に反するところで、多くの会社は「まず現場の若手を数人」と考えます。逆にしてください。承認する立場の人が先に受けていないと、現場が持ち帰った成果物が止まります。
止まり方には型があります。上長が中身を判断できないと、出てきた提案書に対して「これはAIで書いたのか」という質問から始まり、内容の議論に入る前に空気が終わります。逆に、上長が同じものを一度作ったことがあると、「この部分は事実確認したか」という、まともな差し戻しが出ます。この差は決定的です。管理職側の扱い方は管理職はAIの成果物をどうレビューするかに整理しています。
次に、業務が重なる単位で「面」を作ります
2番目に入れるのは、部門の中の全員です。個人を選ばず、同じ仕事を隣でしている人を、まとめて入れる。理由は単純で、隣が同じ前提を持っていれば、研修の翌週から「これ、どうやった?」という会話が発生するからです。人を選んで抜き出すと、この会話が起きません。
これが「選抜にすると戻ってこない」の中身です。選抜がだめなのではなく、組織を縦に薄く切ると孤立するということです。部門単位で面を取れば、人数としては選抜でも、孤立しません。
最後に、残りの部門へ広げます
1つ目の部門で成果物が出てから、次の部門へ移ります。このとき教材に、社内で実際に出た例が入っている状態にしておくと、2部門目以降の食いつきが変わります。他社事例より、自社の隣の部署の例のほうが強い。定着の作り方は社員がChatGPTを「検索代わり」で止まる理由にも書いたとおりです。
整理すると。 ①承認する側 → ②業務が重なる部門の全員 → ③残りの部門、の順に時期をずらします。予算が1回分しかない年は、①と②だけをやってください。③は翌期で構いません。逆に、③に相当する全社説明会だけを先にやると、いちばん残りません。
なお、ここまでは同じ階層のなかで誰を選ぶかという話でした。そもそも役員から入れるのか現場から入れるのかで止まっている場合は、順番の決め方が別にあります。経営層が分かっていない会社で、研修は上から入れるか、現場から入れるかに、判定の3点と、役員の時間で決めるべき4項目を整理しました。
4|それでも「全社一斉」が合う会社もあります
順番の話を書きましたが、一斉にやったほうがよい会社もあります。次のどれかに当てはまる場合です。
- 利用のルールがまだ無い。 何を入力してよくて、何がだめかを全員が知らない状態は、対象者の議論より先に塞ぐべきところです。ルールの作り方はAI利用規程の作り方にまとめました。この場合の一斉研修は、スキルではなく線引きを配るためのものです。
- 従業員が30名前後で、部門の区切りが曖昧。 全員が複数の業務を持っている会社では、部門で切る意味が薄くなります。
- 経営として「使う」と決めた直後。 方針を出した直後は、全員が同じ話を同時に聞いたほうが速い。ただしこの場合も、承認する側だけは別枠で、もう一段深いところまでやってください。
1つ目に該当する会社には、当社はスキル研修より先に、規程と線引きの回だけを提案しています。単価は下がりますが、順番が逆だと事故が先に来ます。
5|助成金を使う場合は、対象者の決め方に制約が入ります
研修費用に助成金を充てる場合、対象者の決め方が制度の要件に引っ張られます。「全員か選抜か」を自社の都合だけで決めたあとに制度を当てはめると、順序が逆になって使えなくなることがあります。
たとえば人材開発支援助成金では、訓練の対象となる労働者の要件、訓練時間数、実施記録の残し方などが定められています。誰を対象にするかを決める段階で、その人が要件を満たすのか、時間数が足りるのかを先に確認しておく必要があります。制度の全体像は人材開発支援助成金とはに、申請の流れは申請から入金までの流れに整理しました。
助成金は対象になる場合がありますが、受給を確約するものではありません。要件の当てはめと申請の可否は、管轄の労働局または社会保険労務士の判断になります。計画の届出には期限が定められているため、対象者を決める段階で一度ご確認ください。
6|対象者が決まったら、見積の形が決まります
ここまで決まると、研修会社に渡す条件が具体的になります。渡す条件はこの5行です。
- 第1回の対象=承認する立場の人が何名か
- 第2回の対象=どの部門の何名か
- 1回あたりの所要時間と、業務を止められる時間帯
- 演習に使う業務の名前(議事録、提案書の下書き、など)
- 助成金を使う予定があるかどうか
この5行があると、各社の見積が同じ形で返ってきます。逆に「うちは何名です」だけで依頼すると、返ってくるのは人数単価の表だけで、比べても差が出ません。見積の読み方は生成AI研修の相見積が比べられないのは、何を数えているからかに書きました。
ノセカエの場合と、正直に申し上げること
- 初回のご相談で、全員研修をおすすめしないことがあります。 承認する側が受けていない状態で人数だけ広げても、半年後に残らないためです。当社の売上としては、全員まとめてお受けするほうが大きくなります。
- すでに個人で使っている社員がいる会社には、その方を受講者ではなく題材提供役に回す案をお出しします。 受講人数は減ります。
- 助成金の申請書の作成・提出代行は行いません。 これは社会保険労務士の業務です。当社がお手伝いできるのは、研修の内容・時間数・実施記録が制度の要件と噛み合う形になっているかの整理までです。
- 研修は座学3割・実習7割で組んでいます。 対象者をどう決めても、触る時間が短いと持ち帰るものが残りません。
まとめ
全員か選抜かは、そのままでは答えの出ない問いです。全員に広げると1人あたりの時間が薄まり、選抜にすると受けた人が現場で孤立します。失敗したときの結末は、どちらも「業務が変わらない」で同じです。
決め方は順番のほうにあります。①成果物を承認する立場の人 → ②業務が重なる部門の全員 → ③残りの部門。予算が1回分しかない年は①と②だけで構いません。人数としては選抜でも、部門単位で面を取れば孤立しません。
その前に、4つを数えてください。自分の判断で使っている人の数、承認する立場の人の数、一度に業務を止められる最大人数、半年後に「変わった」と言える業務の名前。この4つが埋まれば、対象者はほぼ自動的に決まり、見積に渡す条件も5行で書けるようになります。全社一斉が常に間違いというわけでもありません。利用のルールがまだ無い会社は、線引きを配る回だけを先に、全員で受けてください。
御社の人数と部門の形で、受ける順番を組み立てます。
承認する立場の人数・業務を止められる時間・半年後に変えたい業務をうかがい、第1回と第2回の対象を具体的にしてお返しします。全員研修が合わないと判断した場合は、そうお伝えします。
助成金が使えるか無料診断 →※本記事は一般的な整理であり、個別の研修設計や制度の適用における結果を保証するものではありません。助成金については、対象となる場合がありますが受給・採択を確約するものではなく、要件・手続・提出期限は制度ごとに定められています。適用の可否は必ず管轄の労働局・実施機関または社会保険労務士にご確認ください。労働社会保険諸法令に基づく申請書等の作成・提出代行・事務代理は社会保険労務士の業務であり、当社では行いません。