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医療クリニックの生成AI活用|診療には使わず、受付と事務の時間を減らす

医療クリニックの生成AI活用|診療には使わず、受付と事務の時間を減らす
目次
  1. 診断・患者情報の入力・自動回答には使わない
  2. 患者情報を使わずに減らせる4つの事務作業
  3. 患者情報を扱う段階に進む前に、決める4つ
  4. 研修は院長・受付・看護職で分ける
  5. 定型の電話件数と、文書づくりの時間を数える
  6. まとめ
  7. 参考資料・注意事項

無床の診療所(クリニック)で、生成AIを院内のどこに使い、どこに使わないか。院長・事務長の方に向けて、その線引きを整理します。前提として、診断や治療方針の判断に生成AIを使う話はしません。そこは医師の専門領域であり、外部の研修会社が線を引ける場所ではないと考えています。

それでもクリニックで生成AIが効く場面ははっきりあります。診療の外にある事務作業です。電話で毎日同じことを説明している、ホームページのお知らせが半年止まっている、新人スタッフに教える資料が院長の頭の中にしかない。この領域は、患者さんの情報を使わずに手をつけられます。

以下では、使わない範囲、患者情報なしでできる4つの作業、患者情報を扱う段階に進む前に決めること、職種別の研修、効果の測り方の順に扱います。

医療は他の業種より制度上の制約が重い領域です。同じ考え方を介護事業所向けに整理したものは介護の生成AI活用、他の業種・部門の例は生成AIの業務活用事例にあります。

診断・患者情報の入力・自動回答には使わない

医療では、使わない範囲を先に固定してから、残りで考えるほうが安全です。最初に線を引くことをおすすめするのは、次の3つです。

使わない範囲理由
診断、治療方針、投薬の判断医師の専門的判断そのものです。生成AIの出力は、もっともらしく誤った内容を含むことがあります。参考にすること自体を否定はしませんが、少なくとも事務職員が扱う道具として位置づけるべきではありません
患者さんの情報を、一般向けサービスにそのまま入力すること病歴や診療の過程で知り得た情報は、個人情報保護法上の要配慮個人情報にあたります(第2条第3項)。個人情報保護委員会は、個人データを含む指示を生成AIに入力する場合、提供事業者がそのデータを機械学習に使わないことなどを十分確認するよう注意を促しています。一般向けのサービスは入力内容が学習に使われる設定になっている場合があり、院内の情報管理の枠組みから外れます
患者さんへの回答を、確認なしで自動送信すること症状に関する問い合わせは、内容によって答えが変わります。人が確認しないまま返す仕組みは作らないでください

この3つを院内で紙に書いて共有するところから始めます。禁止事項が明文化されていないと、現場は「たぶん大丈夫だろう」で使い始めます。使わせないためではなく、残りを安心して使うために線を引く、という説明の仕方をすると受け入れられやすいです。

患者情報を使わずに減らせる4つの事務作業

線の内側だけでも、クリニックの事務作業はかなり減らせます。効果が見えやすい順に並べます。

1|電話で毎日説明していることを、文章にする

受付の時間を大きく取るのが電話です。しかも内容の多くは繰り返しです。健診の予約方法、当日の持ち物、駐車場、予防接種の間隔、書類の発行にかかる日数。これらをホームページと院内掲示に載る文章にしておくだけで、電話を減らしやすくなります。

生成AIの使い方は単純です。「予防接種の予約方法について、患者さん向けの案内文を作ってください。対象は保護者の方です。専門用語は避けてください」と頼み、出てきた文章を院内の実態に合わせて直します。ゼロから書く時間と、直す時間では、後者のほうがずっと短い。ここが最初に返ってくる時間です。

注意点をひとつ。出てきた文章の医学的な内容は、必ず医師が確認してください。間隔や対象年齢のような数字は、生成AIが平気で間違えます。書きぶりの下書きとして使い、事実は院内の資料で確認する、という分担にします。

2|院内のお知らせ・掲示物

年末年始の診療時間、休診のお知らせ、感染症が流行したときの受診のお願い。毎回それらしい文章を書くのに時間がかかっている割に、成果として残りにくい仕事です。ここは相性がいいです。

ただし、どこに出すかで扱いが変わります。ホームページに載せるお知らせは、医療広告規制の対象です。平成29年の医療法改正で医療機関のウェブサイトも規制対象となり、医療広告ガイドラインは虚偽広告・比較優良広告・誇大広告や、治療等の効果に関する患者の体験談の広告などを禁じています。一方、院内の掲示や院内で配るお知らせは、受け手がすでに受診している患者さんに限られるため、ガイドライン上は通常、広告ではなく情報提供と整理されています。同じ文面をホームページに転載すれば、規制の対象になると考えてください。

生成AIは、頼んでもいないのに宣伝色の強い言葉を足すことがあります。ガイドラインが虚偽広告の例に挙げる「絶対安全な手術です!」ほど極端でなくても、「痛みのない」「実績多数」のような言葉が勝手に入っていないか、公開前に必ず確認してください。院長が読まずに出すのが、いちばん危ない形です。

3|スタッフ教育の資料

受付や医療事務は、人の入れ替わりが起きやすい職種です。それなのに教える内容は、先輩の口伝えになっていることがあります。「新人受付向けに、電話応対の手順書を作ってください」と頼んで下書きを出させ、自院のやり方に直す。白紙から書くより、ずっと短い時間で形になります。

この教育資料づくりは、研修の題材に向いています。研修時間の中で実際に手を動かして、終わったときに使える資料が残るからです。研修の組み立て方の全体像は生成AI研修とはで扱っています。

4|求人票と採用の文章

求人票の文章を書き直す、面接で聞くことを整理する。この種の作業は患者情報を含まず、生成AIが得意な領域です。職員募集の求人広告は、医療広告ガイドラインの対象外と整理されていますが、給与や勤務時間などの条件は院内の正しい情報を人が入れてください。

患者情報を扱う段階に進む前に、決める4つ

問い合わせ対応の効率化や、記録の下書きに使いたい、という場合もあります。可能性はありますが、その場合は一般向けのサービスをそのまま使う運用から離れる必要があります。進めるなら、次の4つを先に決めてください。

決めること具体的に
使うサービスを1つに絞る入力内容が学習に使われない設定であること、契約上の取り扱いが明示されていることを確認します。職員が個人のアカウントで使う状態は認めない、と決めます
入力してよい情報の線氏名・生年月日・カルテ番号など、個人が特定できる情報は入れない。症状や経過を扱う場合も、特定につながる要素を外す、といった基準を文章にします
患者さんへの説明院内の情報の取り扱いをどう説明するか。院内掲示やホームページの記載を見直す必要が出る場合があります
最終確認者患者さんに渡る文章は誰が確認して出すのか。役職ではなく、実際に確認する人を名前で決めます

この4つを決めずに始めると、後から運用を立て直すことになりがちです。入力してよい情報の考え方は生成AIのセキュリティ対策、院内ルールの書き方はAI利用規程の作り方で扱っています。医療機関の場合は、これに加えて個人情報保護委員会・厚生労働省の「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」を確認したうえで進めてください。ここは研修会社が代わりに判断できる部分ではありません。

研修は院長・受付・看護職で分ける

クリニックは職種の違いが大きい職場です。全員を集めて同じ話をしても、それぞれの仕事に結びつきません。クリニック向けに組むなら、次の3つに分ける形をおすすめします。

対象内容時間の目安
院長・事務長使わない範囲の線引き、院内ルールの決め方、患者さんへの説明の考え方。判断する側に必要な内容です60〜90分
受付・医療事務案内文と手順書づくりの実習。実際の院内文書を題材に、その場で作ります90〜120分
看護師・技師教育資料や申し送りの整理。ただし患者情報の扱いは、決めたルールの範囲内で60〜90分

実施のタイミングは診療時間外か、休診日の午後です。昼休みに詰め込むと、時間内に手が動かず、結局持ち帰りになります。あと1点、研修の中に生成AIが誤った内容を自信を持って出す実物を必ず入れてください。医療の現場では、これを見せるかどうかで安全性が変わります。「便利です」だけを伝える研修は、この業種ではやるべきではないと考えています。

終わった時点で、翌日から院内で使える文書が手元に残っていることを目標にしています。研修費用は人材開発支援助成金などの対象になる場合があります(医療法人・個人開業とも、雇用保険の適用事業所であることが前提です)。要件は年度で変わり、計画の事前提出が必要なため、確認の順番はAI研修の助成金をご覧ください。

定型の電話件数と、文書づくりの時間を数える

診療の質や患者満足度は、生成AIの研修で動かす指標ではありません。測るのは次のような事務側の数字です。研修の前に一度数えておき、院内で使い始めてひと月ほどたったところでもう一度数えて比べます。

まとめ

クリニックでは、診断・治療方針の判断、患者情報の一般向けサービスへの入力、確認なしの自動回答の3つには使わないと先に決めます。そのうえで、電話で毎日説明していることの文章化、院内のお知らせ、スタッフ教育の資料、求人票から始めてください。ホームページに載せる文章は医療広告ガイドラインの対象になるため、公開前に院長が確認します。

参考資料・注意事項

最終確認:2026年9月24日

本記事は一般的な整理であり、診断・治療に関する助言や、個別の運用が医療法・個人情報保護法・所管のガイドラインに適合するかの判断を行うものではありません。診療情報の取り扱いや広告表現の可否は、所管の窓口や弁護士等の専門家にご確認ください。助成金は受給を保証するものではなく、適用可否は労働局・ハローワーク等の窓口でご確認ください。

院内の実際の掲示物・案内文を題材に、線引きから設計します。

院長・受付・看護師で分けた研修プランと、活用できる可能性のある支援制度もあわせてご案内します。

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浅香 祐輔

この記事を書いた人

浅香 祐輔(Never Red株式会社 代表取締役)

大手コンサルティングファーム(アクセンチュア/アビーム)出身。DX・業務改革・SAP導入が専門で、50名超のチームでPMを担当。法人向け生成AI研修「ノセカエ」の講師を務める。

講師プロフィール ・ 運営会社の情報