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医療クリニックの生成AI活用|診療には使わない。減らせるのは受付と事務です

キーワード: 生成AI クリニック | ノセカエ(運営: Never Red株式会社)

クリニックの院長先生から生成AIの相談を受けるとき、私が最初にお伝えしているのは、期待を下げる話です。診断や治療方針の判断に生成AIを使う、という話ではありません。そこは医師の専門領域であり、外部の研修会社が線を引ける場所ではないと考えています。

それでもクリニックで生成AIが効く場面ははっきりあります。診療の外にある事務作業です。電話で毎日同じことを説明している、ホームページのお知らせが半年止まっている、新人スタッフに教える資料が院長の頭の中にしかない。この領域は、患者さんの情報を一切使わずに手をつけられます。

この記事は、業種別クラスタの1本として、無床の診療所(クリニック)を想定して書いています。使ってよい範囲と、絶対に触らない範囲を先に分けるのが要点です。

医療は他の業種より制度上の制約が重い領域です。この記事は一般的な整理であり、個別の運用が法令・ガイドラインに適合するかを判断するものではありません。同じ考え方を介護事業所向けに整理したものは介護の生成AI活用に、導入の全体手順は中小企業のAI導入ステップにあります。

まず、触らない範囲を決める

他の業種の記事では「できることから」と書いていますが、医療だけは逆から入ります。使わない範囲を先に固定してから、残りで考えるほうが安全だからです。私が最初に線を引くのは次の3つです。

使わない範囲理由
診断、治療方針、投薬の判断医師の専門的判断そのものです。生成AIの出力は、もっともらしく誤った内容を含むことがあります。参考にすること自体を否定はしませんが、少なくとも事務職員が扱う道具として位置づけるべきではありません
患者さんの情報を、一般向けサービスにそのまま入力すること診療情報は個人情報保護法上の要配慮個人情報にあたります。一般向けの生成AIサービスは入力内容が学習に使われる設定になっている場合があり、院内の情報管理の枠組みから外れます
患者さんへの回答を、確認なしで自動送信すること症状に関する問い合わせは、内容によって答えが変わります。人が確認しないまま返す仕組みは作らないでください

この3つを院内で紙に書いて共有するところから始めます。禁止事項が明文化されていないと、現場は「たぶん大丈夫だろう」で使い始めます。使わせないためではなく、残りを安心して使うために線を引く、という説明の仕方をすると受け入れられやすいです。

患者情報を使わずにできること

ここからが本題です。線の内側だけでも、クリニックの事務作業はかなり減ります。実際に効いている順に並べます。

1|電話で毎日説明していることを、文章にする

受付の電話がいちばん時間を取ります。しかも内容の多くは繰り返しです。健診の予約方法、当日の持ち物、駐車場、予防接種の間隔、書類の発行にかかる日数。これらをホームページと院内掲示に載る文章にしておくだけで、電話は減ります。

生成AIの使い方は単純です。「予防接種の予約方法について、患者さん向けの案内文を作ってください。対象は保護者の方です。専門用語は避けてください」と頼み、出てきた文章を院内の実態に合わせて直します。ゼロから書く時間と、直す時間では、後者のほうがずっと短い。ここが最初に返ってくる時間です。

注意点をひとつ。出てきた文章の医学的な内容は、必ず医師が確認してください。間隔や対象年齢のような数字は、生成AIが平気で間違えます。書きぶりの下書きとして使い、事実は院内の資料で確認する、という分担にします。

2|院内のお知らせ・掲示物

年末年始の診療時間、休診のお知らせ、感染症が流行したときの受診のお願い。毎回それらしい文章を書くのに時間がかかっている割に、成果として残りにくい仕事です。ここは相性がいいです。

ただし表現には制約があります。医療機関が出す文章には、医療広告に関するルールが関わります。生成AIは、頼んでもいないのに宣伝色の強い言葉を足してくることがあります。「痛みのない」「安心の」「実績多数」といった表現が勝手に入っていないか、公開前に必ず確認してください。院長が読まずに出すのがいちばん危ないパターンです。

3|スタッフ教育の資料

受付や医療事務は、人の入れ替わりが起きやすい職種です。それなのに教える内容は、たいてい先輩の口伝えになっています。「新人受付向けに、電話応対の手順書を作ってください」と頼んで下書きを出させ、自院のやり方に直す。この作り方なら、1つあたり30分程度で形になります。

私たちが研修でお手伝いする際も、この教育資料づくりを題材にすることが多いです。研修時間の中で実際に手を動かして、終わったときに使える資料が残るからです。研修としての考え方は生成AI研修とはに整理しています。

4|求人票と採用の文章

スタッフ採用に苦労しているクリニックは多いです。求人票の文章を書き直す、面接で聞くことを整理する。この種の作業は個人情報を含みませんし、生成AIが得意な領域です。

患者情報を扱う領域に進むなら、先に決める4つ

問い合わせ対応の効率化や、記録の下書きに使いたい、という相談もあります。可能性はありますが、その場合は一般向けのサービスをそのまま使う運用から離れる必要があります。進めるなら、次の4つを先に決めてください。

決めること具体的に
使うサービスを1つに絞る入力内容が学習に使われない設定であること、契約上の取り扱いが明示されていることを確認します。職員が個人のアカウントで使う状態は認めない、と決めます
入力してよい情報の線氏名・生年月日・カルテ番号など、個人が特定できる情報は入れない。症状や経過を扱う場合も、特定につながる要素を外す、といった基準を文章にします
患者さんへの説明院内の情報の取り扱いをどう説明するか。院内掲示やホームページの記載を見直す必要が出る場合があります
最終確認者患者さんに渡る文章は誰が確認して出すのか。役職ではなく、実際に確認する人を名前で決めます

この4つを決めずに始めた組織は、だいたい半年以内に困ります。線の引き方そのものは生成AIのセキュリティ、院内ルールの書き方はAI利用規程の作り方にまとめました。医療機関の場合は、これに加えて所管の指針を確認したうえで進めてください。ここは研修会社が代わりに判断できる部分ではありません。

研修は、職種で分ける

クリニックは職種の違いが大きい職場です。全員を集めて同じ話をしても、刺さりません。私たちが設計する場合は、次の3つに分けます。

対象内容時間の目安
院長・事務長使わない範囲の線引き、院内ルールの決め方、患者さんへの説明の考え方。判断する側に必要な内容です60〜90分
受付・医療事務案内文と手順書づくりの実習。実際の院内文書を題材に、その場で作ります90〜120分
看護師・技師教育資料や申し送りの整理。ただし患者情報の扱いは、決めたルールの範囲内で60〜90分

実施のタイミングは診療時間外か、休診日の午後です。昼休みに詰め込むと、時間内に手が動かず、結局持ち帰りになります。あと1点、研修の中に生成AIが誤った内容を自信を持って出す実物を必ず入れてください。医療の現場では、これを見せるかどうかで安全性が変わります。「便利です」だけを伝える研修は、この業種ではやるべきではないと考えています。

費用と、使える可能性のある制度

研修費用の一部について、人材育成に関する助成金の対象になる場合があります。医療法人・個人開業のどちらでも、雇用保険の適用事業所であれば検討の余地があります。ただし制度は年度ごとに要件が変わり、申請しても受給や採択が確約されるものではありません。実施計画の届出が事前に必要な制度もあるため、動き出す前に所管窓口で確認してください。

私たちにご相談いただいた場合も、まず対象になり得るかを一緒に確認します。AI研修と助成金に、確認の順番を整理しました。

ノセカエの考え方

正直に申し上げると、生成AIでクリニックの診療が変わるとは考えていません。診療の中身は医師の専門領域であり、私たちが立ち入る場所ではありません。

変えられるのは、院長と受付が診療以外に使っている時間です。案内文を書く、掲示物を作る、新人に教える資料を用意する。この時間が減れば、その分は診療と患者さんとの会話に戻ります。クリニックにとっての価値はそちらにあるはずです。

研修も、その前提で組んでいます。終わった時点で、明日から院内で使える文書が手元に残っている状態を目標にしています。座学だけで終わる研修は、この業種では特に定着しません。

まとめ

クリニックで生成AIを使うなら、まず使わない範囲を先に固定します。診断・治療方針の判断、患者情報の一般向けサービスへの入力、確認なしの自動回答。この3つです。

残りの領域、つまり患者情報を使わない文章仕事は今日から始められます。電話で毎日説明していることの文章化、院内のお知らせ、スタッフ教育の資料、求人票。ここが最初に時間の返ってくる場所です。

患者情報を扱う領域に進むなら、サービスを1つに絞る、入力の線を引く、患者さんへの説明を決める、最終確認者を名前で決める。この4つを先に。そして所管の指針の確認は必ず院内で行ってください。

何から手をつけるか決めきれない、スタッフにどこまで許してよいか判断がつかない。その段階からで構いません。無料診断で院内の業務と体制を伺い、患者情報を使わずに着手できる作業と、線を引くべき箇所を分けた表をお作りします。

院内の実際の掲示物・案内文を題材に、線引きから設計します。

院長・受付・看護師で分けた研修プランと、活用できる可能性のある支援制度もあわせてご案内します。

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※本記事は一般的な整理であり、個別の事案における法令解釈や、特定の運用が個人情報保護法・医療法(医療広告に関する指針を含む)その他の法令および所管のガイドラインに適合することを判断するものではありません。診療情報の取り扱い、患者さんへの説明方法、院内の情報管理体制については、所管窓口および顧問弁護士等の専門家にご確認ください。本記事は診断・治療に関する助言を行うものではありません。助成金・補助金は要件が年度により変わり、申請しても受給や採択が確約されるものではありません。制度の適用可否は労働局・ハローワーク等の所管窓口にご確認ください。