生成AIで書いた社外メールを新人にそのまま送らせないために|ビジネスマナー研修に足す「確かめる3か所」

目次
新入社員向けのビジネスマナー研修を担当している人事・研修担当の方に、先に見ていただきたい場面があります。新人が生成AIで社外メールを下書きするようになると、次のようなことが起こり得ます。
- 新人の社外メールの敬語が整っている。聞くと、生成AIで下書きしている。
- 取引先から「先日お約束した件ですが」と返信が来て、確かめたら約束などしていなかった。下書きの中に、事実ではない一文が入っていた。
- 少し納期が遅れただけの連絡で、会社の過失を全面的に認めるお詫びを出していた。文面はとても丁寧だった。
起きているのはマナーの不足ではなく、敬語は整っているのに、中身が事実と違う、あるいは会社として言ってはいけないことを書いているという、従来のマナー研修が想定していなかった種類の失敗です。
以下では、この失敗に備えてビジネスマナー研修に何を足すかを整理します。敬語の型や名刺の渡し方といったマナーそのものは扱わず、生成AIで下書きした社外メールを送る前に誰が何を確かめるかに絞ります。
1|敬語が整っているのに問題のあるメールはどこから生まれるか
以前の新人のメールの失敗は、敬語の誤り、宛名の書き方、件名の付け方など、読めば分かるものが中心でした。マナー研修もこれを直すために作られています。生成AIで下書きするようになると、失敗が起きる場所が変わります。
| 自分で書いていたころの失敗 | 生成AIで下書きしたときの失敗 | |
|---|---|---|
| どこで起きるか | 言葉づかい。二重敬語、尊敬語と謙譲語の取り違え | 中身。日付・経緯・約束など、書いた本人が確かめていない箇所 |
| 見つけやすさ | 上司が読めばすぐ分かる | 文面が整っているので、読んでも引っかからない |
| 相手にどう映るか | 「新人だな」で済むことが多い | 「この会社は言ったことを守らない」「この会社は非を認めた」と受け取られる |
| 誰の責任になるか | 書いた新人の未熟さとして扱われる | 会社の名前で出た約束・謝罪として残る |
生成AIは、頼まれた文章をそれらしく完成させようとします。「先日はありがとうございました」「お約束の件」「弊社の不手際により」。前後が自然につながる一文を、事実かどうかとは関係なく補うことがあります。新人はその一文が補われたものだと気づけません。自分が頼んだ内容と、出てきた文章の区別がつかないからです。
つまり、マナー研修で教えてきた「正しく書く」は、生成AIがかなりの部分を代わりに担ってしまいます。人に残るのは「送る前に、中身が事実で、言ってよいことかを確かめる」という工程で、ここが研修に足す部分です。
2|使わせるかどうかの方針とは別に、確認の型を入れる
新入社員研修に生成AIを入れるタイミングでは、1年目のうちは顧客に出す文章の生成を外し、日程調整や参加依頼のような形式の決まった文書の下書きから始める、という線引きを示しました。自社のトーンを知らない新人には、出てきた文章の良し悪しを判定できないためです。この考え方は変わりません。生成AI研修全体の組み立ては生成AI研修とは何をする研修かで説明しています。
ただ、実際には次の2つが起きます。
- 形式の決まった文書でも、社外に出るものがある。日程調整のメールは典型で、ここにも日付の誤りや、していない約束は入り込みます。
- 会社が使わせるかを決める前に、新人はもう使っている。個人で使い慣れている新人は、禁止されていなければ自然に下書きに使います。
ですから、「使わせるかどうか」の方針とは別に、社外に出すメールは、どう書いたかに関わらず出す前にこの3か所を確かめる、という確認の型をマナー研修に入れておくのが現実的です。自分で書いたメールにも同じ型が効くので、生成AIを使わせない方針の会社でも無駄になりません。
3|出す前に確かめる3か所
当社が研修でお渡ししている型です。全文を読み直すのではなく、この3か所だけに印を付けて確かめます。
(1) 事実の箇所|日付・数字・名前・経緯
本文の中で、確かめれば正誤が決まる箇所をすべて拾います。
- 日付と曜日。曜日が日付と合っているか。候補日が相手の休業日に掛かっていないか
- 金額・数量・納期。見積書や受注の記録と同じ数字か
- 相手の社名・部署名・氏名・役職。前回のメールの署名と一字ずつ同じか
- 「先日は」「お約束の」「前回ご指摘の」といった、過去の経緯を前提にした一文。その経緯は本当にあったか
- 「添付の資料」と書いてあるなら、添付が付いているか
最も起きやすいのは最後から2つ目です。生成AIは、礼儀正しいメールの冒頭によくある一文を補います。新人に「この一文は、あなたが実際に経験したことですか」と1つずつ聞くのが、研修での確かめ方になります。
(2) 関係の箇所|相手と自社の距離
生成AIは、相手との関係を知りません。頼んだ人が伝えない限り、すべての相手を「初めてやり取りする丁寧な取引先」として書きがちです。
- 長く付き合っている担当者に、初対面のような挨拶を書いていないか
- いま揉めている、あるいは対応を待たせている相手に、何事もないような明るい書き出しになっていないか
- 社内の上司と相手の役職の上下が、宛名や敬称の順番に反映されているか
- 丁寧すぎて、用件が最後まで読まないと分からなくなっていないか
ここは新人が1人では判定できない箇所です。判定できないと分かっていること自体が大事で、分からないときは先輩の過去の送信済みメールを探して見比べる、それでも分からなければ聞く、という手順までを研修で教えます。
(3) 約束の箇所|会社として言ってよいか
最も重要なのがここです。本文の中で、会社が相手に何かを約束している、または何かを認めている一文を拾います。
- 「◯日までに対応いたします」「間違いなく」。期日や結果を約束していないか
- 「無償で」「今回に限り」「値引き」。金額や条件に触れていないか
- 「弊社の不手際により」「弊社の責任で」。原因がまだ分かっていないのに、過失を認めていないか
- 「承知いたしました」。相手の依頼を受けてよいと、誰が決めたか
お詫びのメールを頼むと、生成AIは相手の気持ちに配慮した、深いお詫びを書く傾向があります。文章としては丁寧でも、会社としてはまだ認めていない過失を認める文面になることがあります。新人の権限で出してよい約束と謝罪の範囲は、会社ごとに違います。研修では「この3種類の一文が入っていたら、出す前に上司に見せる」とだけ決めておけば足ります。
4|研修の中で、どう演習するか
3か所の型は、説明を聞いただけでは身につきません。当社の研修では、座学で型を渡したあと、次の形で手を動かしてもらいます。
| 演習 | やること | 身につくこと |
|---|---|---|
| 間違い探し | 生成AIで作った社外メールに、事実・関係・約束の誤りを講師が仕込んでおき、3か所の型で見つけてもらう | 整った文面の中にある誤りに気づく目 |
| 自分で頼んで確かめる | 実際の業務に近い場面(日程調整、納期遅れの連絡)で下書きを作らせ、補われた一文に印を付ける | 自分が頼んだことと、補われたことの区別 |
| 送信済みメールとの比較 | 同じ用件の、先輩が過去に送ったメールと並べ、関係の箇所の違いを話し合う | 自社のトーンと、相手ごとの距離の取り方 |
3つ目の演習には、社内の送信済みメールを使います。研修で使うメールから、顧客名や個人の連絡先を伏せておく作業が研修の前に要ります。そもそも社外のメールを生成AIに貼り付けてよいかは、社内の利用ルールで決める論点です。何を入力してはいけないかの線引きはAI利用規程の作り方で扱っています。演習で「相手のメールを丸ごと貼り付けて返信を作らせる」使い方をさせる前に、この線引きを先に教えてください。
5|研修のあと誰がいつまで確かめるか
研修で型を渡しても、配属後に確かめる人がいなければ、数週間で3か所の確認は省かれます。研修の設計と一緒に、配属先で誰が、いつまで見るかを決めておきます。
- 約束の箇所を含むメールは、一定の期間、上司か先輩に見せてから出す。期間は会社ごとに決めて構いませんが、「いつまで」を決めずに始めると、見る側が疲れて自然消滅します。
- 事実と関係の箇所は、本人が確かめた旨を1行残す。たとえば社内の下書き共有で「日付・宛名・経緯を確認済み」と書く。上司が全部を読み直すと、上司の時間だけが増えます。
- 見る側にも型を渡す。上司が何を見るかがばらばらだと、新人は誰に見せるかで結果が変わると学びます。
部下が生成AIで作ったものを上司がどこまで直すべきかという一般的な話は、部下が生成AIで作った資料を上司がどう確認するかで扱っています。この記事の3か所は、そのうち社外メールに絞った短い版です。
ノセカエでご提案できる範囲
- 当社はビジネスマナー研修そのもの(敬語の型、電話応対、名刺交換など)は提供していません。すでにお持ちのマナー研修や、お付き合いのある研修会社の研修に、生成AIの下書きを確かめる1コマを足す形でご提案します。
- 3か所の型と演習の素材は、貴社の業種とよくある社外メールに合わせて作ります。演習用のメールは、貴社の送信済みメールを伏せ字にしたものが最も効果的ですが、伏せ字の作業は貴社で行っていただくか、架空の文面で代えます。
- 新人に生成AIを使わせるかどうかの方針は、貴社で決めていただくものです。使わせない方針でも、3か所の確認の型は自分で書いたメールにそのまま使えます。
- どの約束・謝罪を新人の権限で出してよいかは、当社では決められません。研修では「この3種類の一文が入っていたら上司に見せる」という形までにとどめ、範囲そのものは貴社の決まりに合わせます。
- 研修費に助成金が使えるかは、研修の形と会社の条件によります。考え方はAI研修に助成金を使う条件と申請までの順番にまとめています。
まとめ
生成AIで下書きした新人の社外メールには、事実と違う一文、相手との距離を外した一文、会社としてまだ言ってはいけない一文が、整った文面の中に紛れ込むことがあります。ビジネスマナー研修に足すのは、送る前に事実・関係・約束の3か所を確かめる型です。演習で身につけてもらい、配属先で誰がいつまで見るかまで決めておいてください。この型は自分で書いたメールにも使えるので、生成AIを使わせるかどうかの議論が決着するのを待つ必要はありません。
注意事項
確かめる3か所の型、演習の組み方、配属後の確認の置き方は、当社の研修提供とご相談の経験に基づく整理で、統計調査に基づくものではありません。冒頭の例は、起こり得る状況を一般化したものです。社外メールの内容に関する法的な責任や、謝罪・約束の文言が取引上どのような意味を持つかは、弁護士等の専門家にご確認ください。助成金は審査によって支給の可否が決まり、当社は支給を約束するものではありません。助成金の申請書類の作成・提出代行は社会保険労務士の業務であり、当社では行いません。
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