新入社員研修に生成AIを入れるか|入れるなら何日目に、何を教えないか
「来年の新入社員研修に、生成AIを入れたほうがいいですよね」というご相談が増えました。人事の方はたいてい、入れる前提で日程表を持っていらっしゃいます。
そのときに私が最初にお聞きするのは、入れるかどうかではなく「配属先の先輩は、いま使っていますか」です。ここで手が止まる会社が、実際にはかなりあります。使っていない現場に、使える新人だけを送り込むと、その新人は3か月で使わなくなります。浮くからです。
この記事では、新入社員研修に生成AIを組み込むかどうかを、何日目に入れるかと何を教えないかの2点に絞って整理します。研修全体をどう組み立てるかは企業研修は何から手をつけるかに書きました。
新入社員に教えるのが難しい、本当の理由
既存社員向けの生成AI研修と、新入社員向けとでは、同じ内容をやっても結果が逆になります。理由は年齢でも、ITの得意不得意でもありません。出てきた答えが妥当かどうかを判定する基準を、まだ持っていないことです。
入社10年目の営業がAIに提案書のたたき台を作らせると、読んだ瞬間に「うちの客にこの言い方はしない」と分かります。分かるのは、自分で何十本も書いてきたからです。同じ出力を新入社員が読むと、よくできた文章に見えます。比較対象を持っていないので、粗が見えないのです。
| 既存社員 | 新入社員 | |
|---|---|---|
| AIの出力の扱い | 自分の仕事の下書きとして使う | 答えとして受け取る |
| 間違いへの反応 | 違和感で気づき、直す | 気づかないまま提出する |
| 教えるべきこと | 使い方と、使いどころの広げ方 | 使ってよい範囲と、自分でやる工程の線引き |
| 研修の効き方 | その日から時間が浮く | 効き方は遅い。むしろ最初は成長を止めることがある |
ですので、新入社員研修で必要なのは「使わせない」ことではありません。順番を変えることです。世代的にはむしろ、こちらが教えなくても学生時代から触っている人が大半で、禁止しても隠れて使うだけです。会社が決めるべきなのは、使う・使わないではなく、どの工程を自分の手でやらせるかになります。
何日目に入れるか|3つの型
実際にご相談で出てくる置き場所は、だいたい次の3つです。
| 型 | いつ | そこで教える内容 | 向く会社/注意 |
|---|---|---|---|
| A・初日型 | 入社初日〜1週目 | 入れてはいけない情報の線引きだけ。使い方は教えない | 全社。情報管理の説明の一部として置く。ここでツールの操作を教えると、業務が見えないまま手だけ覚える |
| B・配属前型 | 配属前研修の後半(2〜6週目) | 型が決まっている作業の下書きとしての使い方。自社の実務を題材にした演習 | 集合研修の期間が3週間以上ある会社。短い会社は無理に入れない |
| C・配属後型 | 配属から3か月後のフォロー研修 | 判断を含む使い方。自分の仕事の型ができてから広げる | OJT中心の会社。実務で一度詰まった経験があるほど定着する |
私がお勧めしているのは、この3つを1つ選ぶのではなく、3回に分けて置く設計です。
- 初日は、規律だけ。 顧客名や個人情報を入力しない、無料の外部サービスを勝手に業務で使わない、出てきた内容をそのまま社外に出さない。この3つで足ります。社内ルールの作り方は生成AIの社内ルールの作り方に、情報漏えいの論点は生成AIのセキュリティリスクに整理しています。
- 配属前研修の後半で、下書きとしての使い方。 ここで初めて操作を教えます。題材は自社のメール文面や社内用語の確認など、答え合わせができるものに限ります。
- 配属3か月後に、判断を含む使い方。 自分でやってみて時間がかかった作業を持ち寄らせると、その日の演習が全部実務になります。
初日にツールの操作から入れないでください、と申し上げる理由は1つです。入社初日の新人にとって、いちばん覚えにくいのは「自分の仕事が何か」だからです。仕事が見えていない状態で効率化の道具を先に渡すと、何を効率化しているのか分からないまま手順だけが残ります。
何を教えないか
ここが本題です。「教えない」は禁止ではありません。1年目の後半か、2年目に解禁する前提で、いまは外すという意味です。
1年目のうちは外す4つ
- 企画や方針を考えさせる使い方。 案を10個出させて選ぶ、という進め方は、選ぶ基準を持っている人には強力です。持っていない人がやると、いちばんもっともらしい案が残ります。判断の練習にならないまま、判断したつもりになるのがいちばん怖い状態です。
- 議事録の自動要約を、そのまま提出してよいという運用。 新人にとって議事録を書く工程は、記録作業ではなく「その会議で何が決まって、何が決まらなかったのかを理解する訓練」です。ここを外すと、会議に出ているのに中身が入らない状態が続きます。要約を使うなら、自分で書いたものと突き合わせる形にします。
- 顧客に出す文章の生成。 自社のトーンを知らないので、判定できません。まず既存の送信済みメールを20本読ませるほうが早いです。
- 調べ物の丸投げ。 出典を確認する癖がつく前に答えだけ受け取ると、事実確認をしない社会人になります。社内固有のこと(取引条件、承認の順番、過去の経緯)は、そもそもAIは知りません。ここは先輩に聞く領域だと明示して分けます。
逆に、最初から教えてよい4つ
- 入れてはいけない情報の線引き。 これは初日です。
- 自分が書いた文章の読みやすさの点検。 元の文章が自分のものなので、判定できます。新人にとって最も安全で、効果も分かりやすい使い方です。
- 知らない用語の意味の確認。 ただし、社内用語と一般用語の区別を先に教えます。「うちで言う◯◯は一般的な意味と違う」を最初に伝えておくと、事故が減ります。
- 形式が決まっている文書の下書き。 日程調整のメール、参加依頼、簡単な報告の骨組み。指示の出し方の型はプロンプトの書き方にまとめました。
線引きの基準は1つで足ります。その工程は、本人が上達するために必要か。必要ならAIに渡さない。必要でないなら渡してよい。これは新人に限らず、ベテランに対しても同じ基準です。違うのは、新人には「必要な工程」が圧倒的に多いという点だけです。
なお、この線引きは新卒入社を前提にしています。中途入社の方には、そのまま当てはまりません。職種の力量は既にあり、足りないのは自社固有の情報だけなので、AIに渡してよい工程が新卒よりかなり広くなります。入社日が1人ずつバラバラで集合研修が組めない場合の設計は、オンボーディング研修に生成AIを組み込むに分けて書きました。
成長を止めないための、工程の分け方
新入社員が伸びるのは、出来の悪い成果物を出して、直されて、なぜ直されたかを聞く工程です。ここでAIが最初から70点のものを出してしまうと、直される機会そのものが消えます。上司から見ても、80点の提出物に対して何を指導すればよいのか分からなくなります。
| 作業 | 1年目に渡してよいか | 理由 |
|---|---|---|
| 日報・週報 | 渡さない | その日に何をしたか言語化する訓練。書けないこと自体が指導の材料になる |
| 議事録 | 自分で書いた後の突き合わせのみ | 会議の理解そのものが目的 |
| 社内資料の体裁づくり | 渡してよい | 整える作業に学びが少ない。中身の検討は本人が行う |
| 用語・制度の下調べ | 渡してよい(出典の確認とセットで) | 時間の圧縮になる。ただし社内固有の事情は対象外 |
| 顧客向け提案の骨子 | 渡さない | 判定基準を持っていない。2年目以降 |
| 自分の文章の推敲 | 渡してよい | 元が自分の考えなので、直された理由が分かる |
研修を作るときの、3つの決めごと
- 到達点を「使える」ではなく「これは自分で書く、と自分で言える」で書く。 到達点が操作の習得だと、テストで測れる一方、現場では何も変わりません。新人研修の到達点は、線引きを自分で説明できることに置きます。
- 演習の題材は、自社の実務から取る。 一般的なプロンプト演習は、その場は盛り上がって、翌週には使われません。自社の実物を使うと、配属先でそのまま再現できます。
- 同じ内容を、配属先の先輩にも共有する。 ここが抜けると、新人が現場で「研修で習ったので」と使い始めたときに、受け入れ側が判断できません。管理職側の整理は中小企業の管理職研修に書きました。
3つ目は、実務上いちばん効きます。新人研修に生成AIを入れた会社で定着しない原因を並べると、内容の質より受け入れ側が知らないことのほうが多いです。既存社員が使い始めない構造については社員がChatGPTを「検索代わり」で止まる理由に整理しています。
費用と助成金
新入社員向けの訓練は、厚生労働省の人材開発支援助成金の対象になる場合があります。ただし、コースごとに訓練時間や計画の届出時期などの要件が定められており、内容によっては対象外となることもあります。受給を前提に日程を組む前に、必ず最新の支給要領で確認するか、労働局にご相談ください。制度の全体像は人材開発支援助成金とはに整理しています。
実務上の注意を1つ。助成金の要件に合わせて研修時間を伸ばすと、たいてい中身が薄くなります。 新人研修は日程が最初から詰まっているので、時間を足すのではなく、既存の科目のどれかと入れ替える発想のほうがうまくいきます。
ノセカエの場合と、正直に申し上げること
当社では、新入社員向けは90分から半日の枠で、線引きの共有と、自社の実務を題材にした演習を組み合わせる形でお受けしています。そのうえで、3点を先にお伝えしています。
- 新入社員研修だけを単独で入れても、効果は出にくいです。 配属先が使っていない会社では、新人だけが使える状態になり、半年で元に戻ります。入れるなら、受け入れ側への共有をセットにしてください。
- 半日で「使えるようになる」研修は作れません。 半日でできるのは、使ってよい範囲を全員が同じように説明できる状態までです。実務で使えるようになるのは、配属後に自分の仕事を題材にしてからです。
- 今年は入れない、という判断もあります。 社内ルールがまだ無い会社では、研修より先に規程を決めるほうが順番として正しいです。その場合は、そう申し上げます。
まとめ
新入社員研修に生成AIを入れるかどうかは、もう論点ではなくなりつつあります。決めるべきなのは何日目に、何を教えて、何を教えないかです。
初日は線引きだけ。操作は配属前研修の後半。判断を含む使い方は配属して3か月後。そして1年目のうちは、企画を考えさせること、議事録の丸投げ、顧客向け文章の生成、調べ物の丸投げの4つを外す。基準は「その工程は、本人が上達するために必要か」の一言です。
自社の日程表のどこに、何を置くか。助成金が使えるか無料診断では、いまの新人研修の日程を拝見して、置き場所と外す範囲の案をお返ししています。今年は見送ったほうがよいという結論になるなら、そうお伝えします。
いまの新人研修の日程表を、拝見します。
どの日に何を入れて、何を1年目のうちは外すか。配属先への共有の組み方まで含めてご提案します。助成金が使える形かどうかも一緒に確認します。
助成金が使えるか無料診断 →※本記事は一般的な実務の整理であり、特定の研修設計や制度活用の結果を保証するものではありません。人材開発支援助成金をはじめとする助成金は、支給要件・対象経費・申請期限が随時改正されます。受給できるかどうかは個別の事情により判断されるため、必ず厚生労働省および管轄の都道府県労働局が公表する最新の支給要領をご確認のうえ、ご相談ください。生成AIの業務利用にあたっては、自社の情報管理規程および取引先との秘密保持契約の範囲をご確認ください。