不動産業の生成AI活用|物件の数字は書かせず、紹介文と入居者対応を速くする

目次
不動産会社で生成AIを使うとき、最初に押さえておきたいのは不動産の広告は、書き方そのものが規制されている領域だという点です。宅地建物取引業法は誇大広告を禁じ(第32条)、業界の「不動産の表示に関する公正競争規約」は徒歩分数の計算方法や使ってよい用語まで定めています。他の業種なら「まず書かせてみて、あとで直す」で始められますが、不動産でそれをやると、直す前に掲載されてしまう事故が起きます。
先に線を引きます。徒歩分数、面積、築年数、賃料、設備の有無。この種の数値と事実を、生成AIに書かせてはいけません。生成AIは、与えられていない情報を「それらしく」埋めます。人が書き間違えるのと違い、間違えたことに気づかせる手がかりが文中に残りません。
そのうえで、不動産業で生成AIが効く場所ははっきりあります。事実は人が確定させ、その事実をどう並べて誰に向けて書くかをAIに任せる。この分け方ができれば、仲介でも管理でも作業時間を削減できます。
この記事は、賃貸仲介・売買仲介・賃貸管理を行う会社を想定しています。業種を問わない導入手順は中小企業の生成AI導入ステップ、他の業種・部門の活用例は生成AIの業務活用事例で扱っています。
広告規制に触れる3つの使い方をしない
不動産では、触らない範囲を先に決めてから、残りで考えるほうが安全です。決めるのは次の3つです。
①物件の事実に関する数値は、AIに出力させない
不動産広告では、徒歩による所要時間は道路距離80mにつき1分として計算し、1分未満の端数は1分に切り上げると定められています(不動産の表示に関する公正競争規約施行規則第9条)。この計算をAIにやらせない、推測させない。徒歩分数は測って確定した数値を人が入れ、AIには「与えた数値をそのまま使う」以上のことをさせません。
面積、間取り、築年数、管理費、更新料、設備の有無も同じです。当社がおすすめするのは、「AIが書いた文章の中に、自分が渡していない数字や設備名が1つでもあったら、その文章は捨てる」というルールです。直すのではなく捨てる。直すと、直し漏れが混ざります。
②断定・最上級の表現を、そのまま通さない
生成AIは、頼まなくても魅力的に書こうとします。その結果、「最高の立地」「完全なプライバシー」「必ず満足いただけます」といった表現が混ざります。公正競争規約は、「最高」「完ぺき」「絶対」「日本一」「格安」「掘出」といった用語を、表示内容を裏付ける合理的な根拠を示す資料がない限り使ってはならないと定めています(第18条第2項)。生成AIが足してくる言葉の多くが、ここに当たります。
ここは規程で禁止するより、禁止語リストを1枚作って、社内の生成AI利用の手元に置くほうが実務的です。最高・完全・完璧・No.1・絶対・格安・掘り出し物。この種の語を含む出力は、そのまま公開しない。チェックする人が誰かを名前で決めておきます。
③重要事項説明・契約書の作成と回答には使わない
重要事項説明書や契約書の条項、告知事項の判断は、宅地建物取引士の専門領域です。ここに生成AIの出力を入れる運用は、おすすめしません。「調べる」用途で使うのも勧めていません。もっともらしい説明が返ってくるぶん、間違いに気づきにくいためです。
作業時間を削減できる4つの業務
触らない範囲を除いた残りで、作業時間を削減できる場所を並べます。優先順位はこの順です。
| 業務 | 生成AIの効き方 | 注意点 |
|---|---|---|
| ①物件紹介文・募集図面のコメント | 同じ物件を、単身向け・ファミリー向け・法人向けに書き分ける。3本作るのが1本分の時間で済む | 設備と数値は全部こちらから与える。与えていないものは書かせない |
| ②反響への一次返信 | 問い合わせ内容に応じた返信の下書き。テンプレ1種類で返していた運用から抜けられる | 物件が成約済みかどうかの確認は人が行う。返信文に空室状況を書かせない。取引できない物件の表示は、規約でおとり広告として禁じられている(第21条) |
| ③管理業務の入居者向け文書 | 更新案内、工事のお知らせ、騒音・ゴミ出しの注意文。角の立たない書き方に直すのが得意 | 入居者の氏名・部屋番号は入力しない |
| ④オーナー向け報告・提案 | 空室対策の提案書、月次の報告文。数字は人が入れ、説明の文章をAIに書かせる | 賃料改定の提案は根拠資料を人が用意する |
①から始めるのをおすすめしています。理由は、効果がすぐに見えるからです。ポータルサイトへの掲載が1日でも早くなれば、それは機会の差になります。逆に④は効果が月単位でしか見えないので、最初の題材には向きません。
物件紹介文は、募集図面の事実を先に全部渡す
ここが実務の中心なので、具体的に書きます。うまくいかない使い方と、うまくいく使い方の差は、ほぼ1点です。事実を先に全部渡しているかどうかです。
うまくいかない例
「駅徒歩5分の1LDKの物件紹介文を書いて」。この頼み方だと、生成AIは足りない情報を埋めます。宅配ボックス、オートロック、独立洗面台。実際にあるかどうかを確認せずに、それらしい設備名が並びます。この文章は使えません。直すよりも、渡し方を変えるほうが速いです。
うまくいく例
手元の募集図面から、事実をそのまま貼り付けます。所在、賃料、管理費、間取り、専有面積、築年月、駅と徒歩分数、設備リスト、入居可能日。そのうえで、次の3つを指示に入れます。
- 「ここに書かれていない設備・条件には一切触れないでください」:これが最重要の一文です
- 読み手を指定する:単身の社会人向け/小さな子どものいる世帯向け/法人の社宅担当者向け。同じ物件でも刺さる点が変わります
- 文字数と禁止語を指定する:ポータルのコメント欄の上限に合わせ、最上級表現を使わないことを明記します
この型にすると、事実の混入は起きにくくなります。ただしゼロにはなりません。出てきた文章を募集図面と突き合わせる工程は、必ず残してください。それでも、白紙から3パターン書くより速いはずです。事実を先に固めてから文章を任せる進め方は、AIでの提案資料づくりとも共通しています。
研修は仲介と管理で分け、自社の図面と通知文を使う
不動産会社の研修設計でよくある失敗は、全社員に同じ内容をやることです。仲介の営業と管理の担当では、書くものが違います。仲介の営業は内見や案内で日中は外に出ていることが多く、引っ越しの多い時期には研修の時間そのものが取れません。対象を分け、時期を選んで短く行うほうが定着しやすくなります。
| 対象 | 研修の中身 | 目安 |
|---|---|---|
| 仲介の営業担当 | 物件紹介文の書き分け、反響への返信、内見後のお礼と提案。禁止語と数値の扱い | 2〜3時間。実際の募集図面を題材にする |
| 管理の担当 | 入居者向けの通知文、クレーム対応文の下書き、オーナー報告。個人情報を入れない線引き | 2時間。過去の実際の通知文を持ち込む |
| 事務・アシスタント | 議事録、社内資料、求人票。定型作業の置き換え | 2時間 |
| 管理職・責任者 | チェック体制の設計、禁止語リストの運用、社内ルールの決め方 | 1〜2時間。ルールを持ち帰れる形にする |
不動産会社向けに組むなら、一般的な例題ではなく、その会社が実際に扱っている物件の募集図面と、実際に送っている通知文を題材にする形をおすすめします。不動産は社内の書式と言い回しが固まっている業界です。自社の文書で練習しないと、翌日から使われません。
効果は掲載までの時間と、書ける人の人数で測る
生成AIを入れても、反響数が増えるとは約束できません。紹介文の質が上がって多少の差は出るかもしれませんが、反響は物件と条件と時期に左右されます。
変化を数えやすいのは、次の3つです。
- 掲載までの時間:物件を預かってからポータルに掲載するまでの時間。紹介文が書けずに翌日回しになっていたものが、その日のうちに出せるようになります
- 書ける人の人数:紹介文が「文章の上手い1人」に集中していた会社では、ここが分散します。属人化の解消のほうが効いているケースもあります
- 通知文1本の作成時間:管理側の更新案内や工事のお知らせにかかる時間です
ただし、クレーム対応そのものが楽になるわけではありません。文章を作る時間は減っても、電話に出て話を聞く時間は変わりません。この点を先に共有しておかないと、導入後に「思ったほどではなかった」となります。
入力してはいけない情報
不動産業は、他人の個人情報を大量に扱う仕事です。線引きは明確にしておく必要があります。
- 入居者・入居申込者の氏名、住所、電話番号、勤務先、年収、保証人の情報:一般向けの生成AIサービスに入力しません
- オーナーの氏名、連絡先、口座情報:同じく入力しません
- 入居審査に関する判断材料:審査の可否をAIに聞く運用は行いません
- 物件の告知事項・心理的瑕疵に関する情報:取り扱いの判断は宅地建物取引士が行う領域です
使うのは、すでに公開されている物件情報と、社内で作る文章まで。ここに絞れば、契約や設定の話に踏み込まずに始められます。入力してよい情報の考え方は生成AIのセキュリティ対策、規程への落とし方はAI利用規程の作り方で扱っています。
ノセカエが研修で扱う範囲
物件を仕入れ、内見に案内し、条件を詰めるという仕事の中心は、生成AIを入れても人の仕事のままです。研修で扱うことをおすすめするのは、その周りにある紹介文・通知文・報告の時間を減らすことと、実在しない設備や根拠のない最上級が載る事故を防ぐ線を、全員が同じ位置に引くことです。
研修費用は、人材開発支援助成金などの対象になる場合があります。要件は年度で変わり、受給が確約されるものではありません。使える条件と手続きの順番はAI研修の助成金をご覧ください。
まとめ
不動産業では、物件の数値と事実を書かせない、最上級・断定表現を通さない、重要事項説明と契約書に使わない、の3つを先に決めます。そのうえで物件紹介文、反響への一次返信、入居者向け通知文、オーナー報告に使い、紹介文は募集図面の事実を全部貼って「ここに書かれていない設備には触れない」と指示します。それでも、掲載前の突き合わせは残してください。
参考資料・注意事項
- 不動産公正取引協議会連合会「不動産の表示に関する公正競争規約・同施行規則」(2022年9月1日施行版。施行規則第9条、規約第18条・第21条):https://www.rftc.jp/webkanri/kanri/wp-content/uploads/2019/02/h_kiyaku.pdf
- e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」第32条(誇大広告等の禁止):https://laws.e-gov.go.jp/law/327AC1000000176
- 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」:https://www.ppc.go.jp/news/careful_information/230602_AI_utilize_alert/
最終確認:2026年9月24日
本記事は一般的な整理であり、個別の広告表現が宅地建物取引業法・景品表示法・公正競争規約などに適合するかを判断するものではありません。表示の可否や、重要事項説明・告知事項の取り扱いは、所属団体の窓口や弁護士等の専門家にご確認ください。助成金の適用可否は労働局・ハローワーク等の窓口でご確認ください。
自社の募集図面・入居者向け通知文を題材に、線引きから設計します。
仲介・管理・事務で分けた研修プランと、活用できる可能性のある支援制度もあわせてご案内します。
自社のどの業務にAIが使えるか相談する →お電話でのご相談:03-6820-2744(平日10:00〜18:00)
