助成金を使うと、研修の中身はどこまで決められてしまうか
研修のご相談で、ほぼ必ず出る質問があります。「これ、助成金は使えますか」。
使える可能性はあります。ただ、この質問には続きが要ります。使えるかどうかより先に、使うと決めた時点で手放すことになる設計の自由があるからです。制度に合わせて研修を組むというのは、制度が決めている枠の中に研修を入れるということで、枠のほうが先にあります。
先に、当社にとって都合の悪いことを書きます。研修会社としては「助成金が使えます」と言ったほうが、確実に売りやすくなります。実質の負担額が下がって見えるからです。それでも先に制約を書くのは、制度に寄せた結果、届かせたかった相手に届かない形の研修になった会社を実際に見ているからです。
この記事は、制度の説明ではなく、研修を設計する側から見た「何が縛られるか」だけを扱います。要件を満たすかどうかの判定はしません。
助成金そのものの解説は別の記事に分けています。制度の全体像は人材開発支援助成金とは、期限の逆算は申請の流れ、落ちる理由は不支給になるのはどこで躓いたときか、入金までの資金繰りは研修費を払ってからいつ入るかに書きました。本記事はそのどれとも重ならない位置=研修の中身の設計に限定します。
以下で引用する記載は、厚生労働省「人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)のご案内(詳細版)」によります。コースによって要件は異なりますし、同パンフレット自身が「年度の途中で制度が変更になる場合があります。最新の要件などについて、事前に厚生労働省のホームページでご確認いただくか、管轄の労働局またはハローワークへお問い合わせください」と注意を促しています。実際の申請では必ず最新版と管轄の労働局でご確認ください。
1|制約は、3つに集約されます
いろいろな要件がありますが、研修の設計に効いてくるものだけを取り出すと3つです。
| 制約 | 設計のどこが縛られるか |
|---|---|
| 時間数 | 1回の長さと回数。短くまとめる設計が取れなくなる |
| 実施の形 | 誰が企画・主催するか、どこで実施するか、講師をどう立てるか。見積の作り方まで変わる |
| 記録 | 誰が受けたか、いつ受けたか、その時間の賃金がどうなっているか。研修の外側にある社内の記録体制が問われる |
この3つ以外にも要件はありますが、「研修をどう作るか」を変えてしまうのはこの3つです。順に見ます。
2|制約1・時間数|「半日で終わらせる」が取れなくなります
パンフレットの用語定義に、こう書かれています。
実訓練時間数=総訓練時間数から、移動時間その他の助成対象とならない時間、助成対象とならないカリキュラム等の時間を除いた時間数。実訓練時間数が10時間以上であることが本コースの要件となる。
総訓練時間数=昼食等の食事を伴う休憩時間を除いた訓練時間数。
そして支給されない例として、「実訓練時間数が、10時間未満の場合(一部除く)」が挙げられています。
研修の設計者として、ここから読むべきことは3つです。
- 「まず半日、様子見で」という第一歩が、この枠には入りません。 4時間の入門研修は、それ単独では時間数に届きません。10時間を満たす形にするには、たとえば3時間×4回や、2時間×5回といった組み方になります。
- 数えるのは机上の時間ではなく、除いたあとの時間です。 昼食休憩は総訓練時間数から外れ、移動時間や助成対象とならないカリキュラムの時間は実訓練時間数から外れます。「9時から17時で8時間」と書いても、そのまま8時間として数えられるとは限りません。
- 時間を満たすために内容を薄めると、本末転倒になります。 ここが実務でいちばん起きます。10時間に届かせるために演習を水増しした研修は、受講者の記憶に何も残りません。
研修の時間をどう切るか(半日×4回と2日連続で何が変わるか)は研修の時間が取れない会社は、どこを削っているかに別途書きました。助成金を使うと、そこで挙げた選択肢のうち「短く1回だけ」が最初から消えます。これは制度の欠陥ではなく、制度が「一定量以上の訓練」を支援対象としている以上、当然の帰結です。
3|制約2・実施の形|「誰が主催したか」で、見積の形まで変わります
ここが、研修会社に発注する会社にとって、いちばん見えにくい制約です。パンフレットは訓練を2つに分けています。
事業外訓練=OFF-JTであって公共の職業能力開発施設、学校教育法上の教育機関、各種学校、専修学校、認定職業訓練施設、他の事業主団体等が企画し主催している訓練。
事業内訓練=OFF-JTであって申請事業主自らが主催し、事業内において集合形式で実施する訓練。※部外講師の活用や社外の場所で行われる訓練等であっても、事業主が企画し主催したものは事業内訓練とする。
最後の一文が効きます。外部の講師を呼んでも、自社の会議室でなく貸会議室でやっても、企画・主催が自社であれば「事業内訓練」の側です。「外部に頼んだから事業外」ではありません。
そして、この区分によって支給申請に必要な書類がまるごと変わります。パンフレットの支給申請書類一覧から、区分ごとの違いだけを抜くと次のようになります。
| 区分 | 求められる書類(抜粋) |
|---|---|
| 事業内訓練 | 部内講師の場合は部内講師の出勤簿またはタイムカードの写し等/訓練の運営に要した経費を申請する場合は、その経費に係る請求書および領収書の写しまたは振込通知書等。部外講師の謝金・手当、部外講師の旅費、施設・設備の借上費、教科書代・教材費は、それぞれ支払いを受けた者・支払った者・支払年月日・支払名目・支払金額が分かるものであることが求められる |
| 事業外訓練 | 入学料・受講料・教科書代等に係る請求書および領収書または振込通知書の写し等/支給申請承諾書(訓練実施者)(様式第12号)/教育訓練機関等から説明を受けた資料一式の写し |
実務上の意味を訳すとこうです。
- 事業内訓練で組むなら、費目を分けた見積と証憑が要ります。 「研修一式 ○○円」の1行見積では、講師謝金・旅費・会場費・教材費を分けて出せません。相見積の読み分けそのものは生成AI研修の相見積が比べられないのは、何を数えているからかに書きましたが、助成金を使う場合は読み分けが好ましいのではなく、分かれていないと申請の書類が作れないという話になります。
- 事業外訓練で組むなら、研修会社の協力が要件に含まれます。 様式第12号は訓練実施者が承諾するものですし、説明を受けた資料一式も相手方から出る書類です。助成金を使う予定があるなら、発注前に「様式の記入と資料の提供に応じてもらえますか」を確認してください。断られてから気づくと、後戻りできません。
- 部内講師を立てるなら、その人の出勤簿まで出ます。 社内の詳しい人に講師をやってもらう形は費用が安く済みますが、書類の手間は増えます。
4|制約3・記録|「受けた」ことを、あとから証明できる形にしておく
3つめは、研修そのものではなく研修の周りに残る記録です。支給申請の共通書類には、対象労働者の雇用契約書または労働条件通知書の写し等に加えて、通学制・同時双方向型の通信訓練の場合として対象労働者の賃金台帳または給与明細書の写し等、対象労働者の出勤簿またはタイムカードの写し等(日ごとに始業時刻、終業時刻、休憩時間が分かるもの)が挙げられています(eラーニング・通信制・定額制サービス等の場合は原則不要とされています)。
定額制サービスによる訓練については、さらに踏み込んだ記載があります。
労働時間に訓練を実施しているか(賃金の支払い状況)については、「定額制サービスによる訓練実施結果報告書(様式第8-5号)」により確認するほか、都道府県労働局から、別途、出勤簿・賃金台帳の提出を求めたり、実地調査や労働者・関係者への聴取を実施したりすることもあります。また、パソコンのログイン・ログアウトの記録などの提出を求めることもあります。
研修の設計に返ってくる論点は2つです。
参加を「任意」にできなくなります
同じ箇所に、支給対象訓練は「業務上義務付けられ、労働時間に実施される訓練であること」が必要とあります。そのうえで、事業主が業務命令として労働時間に実施する意図がなく、専ら労働者が自発的に受講している場合は助成対象にならないと書かれています。業務命令として実施したことに加えて労働者が自発的に受講した分については、その受講時間を「10時間要件」の受講時間数に計上することはできないものの、それだけで直ちに助成対象外になるわけではない、とも書かれています。
研修設計の言葉に直すと、「興味がある人は自由に参加してください」という設計は、この枠には合いません。誰に受けさせるかを会社が決め、業務として時間を確保する形になります。全員か選抜かをどう決めるかは生成AI研修は全員に受けさせるか、選抜にするかに書きましたが、助成金を使う場合は「手を挙げた人だけ」という第3の選択肢が消えます。
受ける人を、先に確定しておく必要があります
定額制サービスによる訓練の支給対象労働者は、計画届の提出時に受講予定者として届けられている被保険者である必要がある、と記載されています。届け出ていなかった人は受講自体はできても支給対象労働者に含めることはできず、所定期日までに変更届を提出すれば支給対象労働者となる、とされています。
「やってみて、良さそうなら次は他部署にも」という広げ方が、そのままでは取りにくいということです。広げるなら変更届の期日を先に押さえておく。ここは制度の期限の話なので、申請の流れと併せて読んでください。
5|3つの外側にある、お金と日程の縛り
設計の中身ではありませんが、意思決定を左右するので2つだけ足します。
- 受講者に費用を一部負担させる形は取れません。 支給されない例として「事業主が訓練にかかる経費を全額負担していない場合」が挙げられています。自己啓発の補助として半額を本人負担にする設計とは相性が悪い、ということです。
- 夜間・休日に寄せると、賃金助成の側が落ちます。 同じく支給されない例に「所定労働時間外や休日(振替休日は除く)に実施された時間の賃金助成、OJT実施助成」が挙げられています。現場を止めたくないから土曜に集める、という設計は、経費助成の話とは別に賃金助成の面で不利になり得ます。時間帯を動かしたときに賃金と助成金がどう動くかは研修を受けている時間は、労働時間にあたるのかに分けて書きました。
- 思い立ってすぐには始められません。 職業訓練実施計画届を訓練開始日から起算して6か月前から1か月前までの間に提出していない場合、訓練終了日の翌日から起算して2か月以内に支給申請を行わない場合は、支給されない例として挙げられています。研修日を決める前に、計画届の窓が開いているかを確認してください。
6|助成金に寄せないほうがよい会社
ここまでを読んで「うちには合わない」と感じたなら、その感覚は正しいことがあります。次のどれかに当てはまる会社は、制度に合わせるより、合わせずに設計したほうが結果が出ることがあります。
- まず2時間で線引きだけ配りたい。 利用ルールが無い会社が最初にやるべきなのは、長い研修ではなく短い共有です。10時間に伸ばす理由がありません。
- 手を挙げた人から始めたい。 自発的な受講を核にする設計は、この枠と噛み合いません。
- 内容を直前まで動かしたい。 計画届と実施内容の整合が要る以上、当日の反応を見て大きく変える運び方はやりにくくなります。
- 受講者に半額を負担してもらう建て付けにしたい。 前述のとおり、経費の全額負担が前提です。
逆に、対象者を会社が決め、業務時間内に、一定量まとめて実施するという形が最初から自然な会社は、制約がほとんど制約になりません。この場合は積極的に検討する価値があります。
ノセカエの場合と、正直に申し上げること
- 当社は、助成金の受給・採択を確約しません。 要件の判定と申請の可否は、管轄の労働局および社会保険労務士の領域です。労働社会保険諸法令に基づく申請書等の作成・提出代行・事務代理は行いません。
- 設計の相談では、先に制約のほうをお伝えします。 「使えます」から入ると、時間数を満たすためにカリキュラムを膨らませる方向に話が進みます。順番を逆にして、制約を受け入れられるかを先に決めていただいています。
- 助成金を使わない設計を提案することがあります。 短い回を先に、という進め方のほうが合う会社があるためです。売上としては小さくなりますが、そう申し上げます。
- 事業外訓練として組む場合に必要な様式・資料の提供にはお応えします。 発注前にその点を確認していただいて構いません。
ここに書いた制約は、助成金を使うと決めたあとの話です。そもそも自社が対象になるのか、いつまでに何を出すのかはAI研修の助成金|使える条件・計画届・申請までの順番に、厚生労働省の資料の原文を引いて整理しました。
まとめ
助成金は「使えるか」だけで見ると判断を誤ります。使うと決めた時点で、時間数・実施の形・記録の3つが設計に食い込みます。
時間数は、事業展開等リスキリング支援コースでは実訓練時間数10時間以上が要件とされており、昼食休憩や移動時間などを除いたあとの時間で数えます。「まず半日だけ」は、この枠には入りません。
実施の形は、事業内訓練か事業外訓練かで支給申請の書類が変わります。部外講師を呼んでも自社が企画・主催すれば事業内訓練であり、その場合は費目を分けた見積と証憑が要ります。事業外訓練なら様式第12号など研修会社側の協力が前提になります。発注前に、その協力が得られるかを確認してください。
記録は、研修の外側の話です。業務上義務付けられ労働時間に実施されることが必要とされているため、任意参加の設計は合いません。受講予定者も計画届の段階で確定しておく必要があります。
そのうえで申し上げたいのは、この3つを引き受けられる会社にとっては、制約はほとんど障害にならないということです。合わないと感じた会社は、無理に合わせないほうが、研修としては良いものになります。要件の適用可否は制度とコースによって異なり、改正もあります。実際の判断は必ず最新のパンフレットと管轄の労働局・社会保険労務士にご確認ください。
助成金に寄せる設計と、寄せない設計を、両方お出しします。
対象者の決め方・実施できる時間帯・記録の体制をうかがい、制度の枠に入る形と、入らないが効く形の2案を比べられる形でお返しします。寄せないほうがよいと判断した場合は、そうお伝えします。
助成金が使えるか無料診断 →※本記事は、厚生労働省「人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)のご案内(詳細版)」の記載に基づく一般的な整理であり、個別の事案における支給の可否を判定するものではありません。助成金は対象になる場合がありますが、受給・採択を確約するものではありません。要件はコースごとに異なり、また年度の途中で制度が変更される場合があります。同案内自身が、最新の要件について厚生労働省のホームページで確認するか管轄の労働局またはハローワークへ問い合わせるよう案内しています。実際の申請にあたっては、必ず最新の公表資料と管轄の労働局・社会保険労務士にご確認ください。労働社会保険諸法令に基づく申請書等の作成・提出代行・事務代理は社会保険労務士の業務であり、当社では行いません。