事業展開等リスキリング支援コース|対象になる「事業展開」の線引きを、実務の言葉で整理する

目次
「事業展開等リスキリング支援コース」という名前を見て、「新規事業をやっていないので対象外だろう」と考える人事担当者もいます。生成AI研修にこのコースを使えるか検討している会社に向けて、対象になる訓練の線引きを確かめていきます。
整理すると、このコースの入口は3つあり、そのうち1つは事業展開をしない会社でも使える「DX化・グリーン化」の入口です。コース名の「等」がその部分を指しています。
一方で、令和8年8月3日以降に提出する計画届からは、特定の業務に結びつかない汎用的な内容の訓練が助成対象外になり、同じ労働者が受けられる回数にも上限が設けられました。生成AI研修にとって影響の大きい改正なので、この記事では改正後の線引きを中心に書きます。
この記事はこのコース単体の「対象になる/ならない」の線引きに絞っています。人材開発支援助成金という制度全体とコースの見取り図は人材開発支援助成金とはで、「リスキリング助成金」という呼び名の整理はリスキリング助成金の正体と使い方で扱っています。
まず共通の3条件。ここを外すと入口の話にならない
3つの入口の前に、どの入口でも共通して必要になる条件があります。パンフレットには基本要件として次のように書かれています。
- 実訓練時間数が10時間以上であること(休憩・移動時間などを除いた時間で数えます)
- OFF-JT(通常の業務の過程外で行われる訓練)であること
- 職務に関連した訓練であること
生成AI研修で引っかかりやすいのは1つ目です。「まず半日、生成AIの体験会をやってみたい」という企画は、この時点で10時間に届きません。最初から10時間以上の設計にしておけば、この条件は満たせます。日程より先にカリキュラムの総時間を確かめたいのは、このためです。
2つ目のOFF-JTも見落としやすい条件です。通常の業務をしながら横で教える形は、この制度でいうOFF-JTには当たりません。業務から切り離した時間として、日程を押さえる必要があります。
入口は3つある
共通条件を満たしたうえで、次の3つのいずれかに当たる訓練であることが求められます。パンフレットでは3つが並べて示されています(この記事ではⅰ・ⅱ・ⅲと呼びます)。
| 入口 | どんな訓練か | この入口を選ぶ会社 |
|---|---|---|
| ⅰ 事業展開に伴う訓練 | 企業において事業展開を行うにあたり、新たな分野で必要となる専門的な知識および技能を習得させるための訓練 | 新規事業・新サービス・新市場への進出を予定している、または直近で始めた会社 |
| ⅱ DX化・グリーン化に伴う訓練 | 事業主において企業内のデジタル・DX化やグリーン・カーボンニュートラル化を進めるにあたり、これに関連する業務に従事させる上で必要となる専門的な知識および技能を習得させるための訓練 | 事業展開はしないが、社内の進め方を変えようとしている会社 |
| ⅲ 人材育成計画に基づく訓練 | 企業内の人事および人材育成に関する計画に基づき、今後従事することが予定される職務に必要となる専門的な知識および技能を習得させるための訓練 | 配置転換や将来の役割を見据えて育てたい会社 |
生成AI研修を検討している会社が当てはめやすいのはⅱです。新規事業がなくても、社内の業務をデジタル化していく取り組みに関連する業務に就かせるための訓練であれば、この入口を検討できます。ただし、単にデジタル機器で文章や数値を入力する程度の初歩的な操作だけの訓練や、既存のアプリ・システムを購入してその操作方法を習得するだけの訓練は対象にならない、とパンフレットに明記されています。
令和8年8月3日から変わった2つのこと
生成AI研修にとって最も影響が大きいのが、令和8年8月3日の改正です。同日以降に提出する計画届に基づく訓練から、次の2点が変わりました。
1. DX化・GX化の訓練でも、汎用的な内容は対象外に
改正前は、「職務に間接的に必要な知識・技能」や「職業人として共通して必要なもの」にあたる訓練でも、DX化・GX化を進めるために必要なものであれば例外的に対象になっていました。改正後は、この例外がなくなり、DX化・GX化に関する訓練であっても、こうした実施目的の訓練は助成対象外です。
厚生労働省の改正リーフレットは、具体例として次のように整理しています。
| 訓練の例 | 扱い | リーフレットが示す理由 |
|---|---|---|
| 生成AIを活用して商品提案書の構成案作成、文章生成、修正方法を学ぶ営業担当者向けの訓練 | 助成対象 | 営業担当者の具体的な業務に直結し、そのまま活用できる内容 |
| 生成AIを利用するために汎用的なプロンプトの作り方を学ぶ訓練 | 助成対象外 | 特定の業務への具体的な適用を伴わない汎用的な内容 |
| DXの概念、デジタル技術の概要、データ活用の考え方を学ぶ訓練 | 助成対象外 | 共通知識の習得にとどまり、業務に直接適用される内容ではない |
あわせて、訓練内容に沿って対象労働者を選んでいるかも見られます。リーフレットでは、CO₂排出量の算定手順を学ぶ訓練は算定業務の担当者なら対象、人事や営業に従事する者なら対象外、という例が挙げられています。生成AI研修に置き換えると、「全社員に同じ汎用講座」ではなく、部署ごとの業務に結びつけた内容を、その業務の担当者に受けさせる設計が求められる、ということです。
2. 受講回数の上限(1年度3回、うちeラーニングは1回)
このコースで助成が受けられる訓練は、同じ労働者につき1年度(支給申請日を基準とした4月1日から翌年3月31日)で3回までです。そのうち、令和8年8月3日以降に提出した計画届に基づくeラーニングによる訓練(他の実施方法と組み合わせた場合を含む)は1回までになりました。定額制サービスによる訓練は、人への投資促進コースの定額制訓練などと合わせて1年度3回までです。
経過措置
計画届の提出日が令和8年8月3日以降でも、教育訓練機関との契約締結や申込が令和8年8月2日以前に行われている場合(事業内訓練では、関連する契約・申込・発注のいずれかが同日以前の場合)は、対象外訓練の扱いについて改正前(令和8年5月14日改正)の支給要領が適用されます。eラーニングの回数制限についても、事業外訓練で契約・申込が8月2日以前であれば回数に算入しません。いずれも契約書や申込書の写しで確認されるため、該当する場合は日付の分かる書類を残しておいてください。
「事業展開」には、時間の幅がある
ⅰの入口を選ぶ場合に誤解されやすいのがここです。パンフレットには、ⅰの事業展開は、訓練開始日(定額制サービスによる訓練は契約期間の初日)から起算して3年以内に実施する予定のもの、または6か月前までに実施したものに限ると書かれています。
この一文が意味するのは、次の2つです。
- まだ始めていなくてもよい。3年以内に実施する予定であれば、計画段階でもⅰの入口に立てます。「立ち上がってから研修」ではなく「立ち上げるために研修」という順番が想定されています。
- 終わってしまった話は使えない。すでに実施した事業展開については、6か月という区切りがあります。何年も前に始めた新規事業を根拠にする、という組み立ては通りません。
「構想はあるが、まだ動いていないから対象外だと思っていた」という場合もあります。構想があるなら、それを文書にできるかどうかが分かれ目になります。
なお、ⅲの「今後従事することが予定される職務」についても同様に、訓練開始日から起算して3年以内に従事することが予定される職務である必要があるとされています。「いつか役に立つから」では時間軸が示せません。
ⅲ(人材育成計画)には、追加の条件がある
ⅲの入口は一見いちばん広く見えます。人材育成の計画に基づく訓練であれば、事業展開もDX化も必要ありません。ただし、パンフレットには次の条件が付いています。
- 訓練開始日時点で従事している職務とは異なる職務に関連する訓練であること(厚生労働省編職業分類の小分類で判断)。今の仕事の延長で使う生成AI研修は、ⅲではなくⅱの側で考えることになります。
- 中小企業の場合、人事および人材育成に関する計画について、あらかじめ認定経営革新等支援機関の確認を受けること。
- ⅲでは定額制サービスによる訓練は対象外で、管理職研修・マネジメント研修のように役職として求められる知識の習得を目的とする訓練も対象外です。
- 訓練後は、対象労働者を計画どおりの職務に就かせ、実施状況を労働局に報告します。
認定経営革新等支援機関は国が認定した支援機関で、税理士や金融機関が認定を受けている場合もあります。ⅲを選ぶ場合は「誰に確認をもらうか」を先に押さえておく必要があります。研修日程を決めた後に着手すると、確認に時間がかかり計画届の期限に間に合わなくなるおそれがあります。
関門は「事業展開等実施計画」の1枚
このコースには、他のコースにはない提出書類があります。事業展開などの内容を記載した「事業展開等実施計画」(様式第1-3号)を、職業訓練実施計画届と併せて提出する必要があります。
この1枚が、実質的な関門です。当社の見立てでは、手が止まる理由は要件に合わないことよりも、自社の取り組みを具体的な言葉で説明できないことにあります。「DXを進めたい」だけでは、何をどう変えるのかが書けません。改正後は、訓練内容と対象者の業務の結びつきも問われるので、なおさらです。
書けるようにするために、先に次の3つの質問に答えることをおすすめします。
- いま、どの業務の、どの工程を変えるつもりですか。「全社的に」ではなく、部署と業務名で答えられるところまで絞ります。
- 変えた後、誰がその業務をやりますか。ここで挙がった人が、そのまま受講者一覧になります。逆に、受講者が決まらないうちは計画が書けません。
- いつから変えますか。ⅰもⅲも訓練開始日から3年以内という時間軸が要るので、ここが空欄だと書類が完成しません。
この3つに答えられれば、書類は書けます。答えられない場合は、助成金の前に、研修そのものの設計を見直したほうがよいと当社は考えています。誰が何のために受けるのかが決まっていない研修は、助成が下りても社内に残りにくいためです。研修の目的の立て方はDX研修と生成AI研修の違いでも扱っています。
助成率と限度額(令和8年8月3日版パンフレット)
パンフレットに記載されている助成率・助成額は次のとおりです。制度改正で変わりうる数字ですので、検討時点の最新版を必ずご確認ください。
| 企業規模 | 経費助成 | 賃金助成(1人1時間) | 設備投資加算 |
|---|---|---|---|
| 中小企業 | 75% | 1,000円 | 50% |
| 大企業 | 60% | 500円 | — |
受講者1人1訓練あたりの経費助成には、実訓練時間数に応じた限度額があります。中小企業の場合、10時間以上100時間未満で30万円、100時間以上200時間未満で40万円、200時間以上で50万円です(大企業はそれぞれ20万円・25万円・30万円)。賃金助成は1人1訓練あたり1,200時間が限度です。
研修の形式によっても扱いが変わります。押さえておきたいのは次の3点です。
- eラーニング、通信制、定額制サービスによる訓練は経費助成のみで、賃金助成は対象外です。
- eラーニングおよび通信制による訓練の経費助成限度額は、時間数にかかわらず中小企業15万円・大企業10万円です(令和8年4月8日の見直し後。通学制などと組み合わせた場合も同じ)。
- 定額制サービスによる訓練の経費助成限度額は、受講者1人1月あたり2万円です。
ここは研修の設計に直結します。動画を配って終わりの形にすると、賃金助成が付かないうえに経費の限度額も下がり、改正後は受講回数も1年度1回に制限されます。制度上は、集合形式や同時双方向のオンラインで時間を確保するほうが素直な組み立てになります。もっとも、これは助成金の都合であって、研修の効果とは別に考える必要があります。
1事業所が1年度に受給できる助成額の上限は1億円です。設備投資加算(中小企業のみ・導入費用の50%、1人15万円・10人以上は150万円が限度)は、訓練で使う機器・設備を導入し、賃金要件などを満たした場合の上乗せです。
もう1つ、このコースは令和8年度末(2027年3月31日)までの時限措置とされています。年度をまたぐ計画を立てる場合は、その時点の制度を確認してください。
スケジュールは、計画届の提出期間から逆算する
この制度でつまずきやすいのは、要件よりも順番です。パンフレットでは手続きが次の流れで示されています。
| 段階 | やること | 期限 |
|---|---|---|
| Step 0 | 職業能力開発推進者の選任、事業内職業能力開発計画の策定と社内への周知 | 計画提出より前 |
| Step 1 | 職業訓練実施計画届・事業展開等実施計画・対象労働者一覧などを管轄労働局へ提出 | 訓練開始日の6か月前から1か月前まで |
| Step 2 | 計画に基づき訓練を実施。支給申請までに訓練経費の全額を支払う | 計画どおりの日程で |
| Step 3 | 支給申請書、OFF-JT実施状況報告書などを管轄労働局へ提出 | 訓練終了日の翌日から2か月以内 |
実務で効いてくるのは、Step 1の「1か月前まで」と、その前にStep 0があるという点です。事業内職業能力開発計画の策定と職業能力開発推進者の選任は、計画届を提出する日までに済ませておく必要があります。何も整えていない状態で「来月から研修を始めたい」という場合、このコースを使うのは現実的ではありません。
スケジュールは、研修日から数えるのではなく、計画届の提出日から数えることをおすすめします。当社の目安では、研修開始の3〜4か月前から社内の準備を始めると慌てずに済みます。日付の逆算の仕方は人材開発支援助成金の申請の流れで詳しく扱っています。
ノセカエがお手伝いできる範囲
当社は研修を提供する会社で、社会保険労務士事務所ではありません。そのため、次の3点を先に押さえておくことをおすすめします。
- 申請書類の作成や提出代行は行いません。当社がお出しできるのは、カリキュラム・訓練時間数・受講者一覧・実施記録といった研修側の資料です。対象になるかどうかは、提携社労士が無料で診断します。
- 対象になるかどうかの最終判断は、管轄の労働局が行います。ⅰ・ⅱ・ⅲのどれに当たるか、改正後の対象外に当たらないかを、当社が「大丈夫です」と保証することはありません。
- 助成金ありきで研修を大きくすることはおすすめしていません。限度額に合わせて時間数を膨らませると、受講者の集中が切れます。必要な時間数と内容を先に決め、その結果として制度に乗るかどうかを見るほうが、研修としては健全です。
このコースに当たらない場合でも、人材育成支援コースで対象になることがあります。発注者の側から見た段取りはAI研修の助成金|使える条件・計画届・申請までの順番にまとめています。
まとめ
事業展開等リスキリング支援コースには3つの入口があり、事業展開をしない会社でもDX化・グリーン化の入口(ⅱ)を検討できます。ただし、令和8年8月3日以降の計画届では、特定の業務に結びつかない汎用的な生成AI研修は対象外となり、受講回数にも上限が付きました。
対象に乗せるには、部署の業務に結びついた内容を、その業務の担当者に受けさせる設計にしたうえで、事業展開等実施計画を具体的に書き、計画届を訓練開始日の1か月前までに出すことが前提になります。どれも、研修の日程を決める前にしか手が打てません。
参考資料・注意事項
- 厚生労働省「人材開発支援助成金」(パンフレット・支給要領の掲載ページ)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/d01-1.html - 厚生労働省「人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)のご案内(詳細版)」令和8年8月3日版
https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/001731978.pdf - 厚生労働省「令和8年8月3日からの変更点について(事業展開等リスキリング支援コース)」
https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/001731966.pdf - 厚生労働省「令和8年4月8日からの変更点について(コース共通)」
https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/001687558.pdf - 厚生労働省「支給要領 人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)」令和8年8月3日版
https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/001731981.pdf
最終確認:2026年9月24日。本記事は上記資料に基づく一般的な整理で、個別の支給要件の充足や受給を保証するものではありません。助成金は審査により支給・不支給が決まり、制度の内容・助成率・限度額は改正されることがあります。実際のご検討にあたっては、最新の資料と管轄の都道府県労働局の案内をご確認ください。申請書類の作成・提出代行は社会保険労務士の業務であり、当社では行いません。
助成金の対象になるかどうかは、研修の日程を決める前に見てください。
対象になる場合があります。判断は労働局が行いますので、当社では材料を揃えるところまでをお手伝いします。
助成金の対象になるか無料で確認する →お電話でのご相談:03-6820-2744(平日10:00〜18:00)
