人材開発支援助成金とは|生成AI研修に使えるコースと、使えないケース

目次
人材開発支援助成金は、会社が社員に職務と関係する訓練を計画どおりに実施したとき、訓練経費や訓練中の賃金の一部を助成する厚生労働省の制度です。7つあるコースのうち、生成AI研修で検討するのは3つで、どれに当てはまるかはその研修が会社にとって何のためのものかで決まります。
この記事では、制度の全体像、3コースの助成率と共通の要件、選び分け、そして生成AI研修が対象外になるケースを整理します。対象外になる理由は、研修の内容よりも計画届の時期や記録といった段取りにあることが多いため、そこにも紙幅を割きます。なお、申請しても受給が約束されるものではなく、最終的な判断は労働局が行います。
この記事は制度全体の地図です。研修を発注する側の段取りはAI研修で助成金を使うときの段取りに、「リスキリング助成金」という呼び名が指す制度はリスキリング助成金とはにまとめています。
1. 人材開発支援助成金の仕組み
厚生労働省の雇用関係助成金のひとつで、事業主が雇用する労働者に、職務に関連した専門的な知識・技能を習得させる訓練を計画に沿って実施した場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部などを助成する制度です。対象は雇用保険の適用事業所の事業主と、雇用保険の被保険者である労働者です。
押さえておきたい前提が2つあります。
- 受け取るのは会社で、受講した本人ではありません。個人が自分の学び直しに使う教育訓練給付とは別の制度です。違いはリスキリングの補助金と助成金の違いで整理しています。
- 先に計画を届け出て、そのとおりに実施した実績に対して支給されます。研修を終えてから申請する順番は成り立ちません。
令和8年度の厚生労働省のページには、次の7コースが掲載されています。
| コース | おおまかな対象 | 生成AI研修との関係 |
|---|---|---|
| 人材育成支援コース | 職務に関連した10時間以上のOFF-JT、OJTとOFF-JTを組み合わせた訓練など | 最も基本の枠。自社の業務に沿った研修を組む場合 |
| 人への投資促進コース | 高度デジタル人材訓練、定額制訓練(サブスクリプション型の研修サービス)など | デジタル分野の育成として整理する場合 |
| 事業展開等リスキリング支援コース | 事業展開、または企業内のDX化・GX化に伴って必要となる知識・技能を習得させる訓練 | 新規事業や社内のDXの実体があるときの枠 |
| 教育訓練休暇等付与コース | 有給の教育訓練休暇制度を導入し、取得・受講があった場合 | 制度導入型。単発の研修では使わない |
| 建設労働者認定訓練コース | 建設業の認定職業訓練 | 業種限定 |
| 建設労働者技能実習コース | 建設業の技能実習 | 業種限定 |
| 障害者職業能力開発コース | 障害者の職業能力開発 | 目的が異なる |
人への投資促進コースと事業展開等リスキリング支援コースは、厚生労働省のパンフレットで「令和8年度末までの時限措置」とされています。コース構成も要件も年度ごとに見直されるため、検討の際は最新のパンフレット・支給要領をご確認ください。
名前の似たキャリアアップ助成金は、別の制度です。有期雇用やパートなど非正規雇用の労働者を正社員にしたり、処遇を改善したりした事業主に助成するもので、訓練を助成する人材開発支援助成金とは対象が異なります。
2. 3コースの助成率と共通の要件
生成AI研修で使うことの多い訓練区分について、主な数字を並べます(令和8年8月3日版パンフレットより。カッコ内は中小企業以外の事業主)。
| コース・訓練区分 | 経費助成率 | 賃金助成(1人1時間あたり) |
|---|---|---|
| 人材育成支援コース(人材育成訓練) | 正規雇用労働者等45%(30%)、非正規雇用労働者70% | 800円(400円) |
| 人への投資促進コース(高度デジタル人材訓練) | 75%(60%) | 1,000円(500円) |
| 人への投資促進コース(定額制訓練) | 60%(45%) | なし(経費助成のみ) |
| 事業展開等リスキリング支援コース | 75%(60%) | 1,000円(500円) |
人材育成訓練と定額制訓練は、訓練後の賃上げなどの要件を満たすと助成率が加算されます。経費助成には1人1訓練あたりの限度額もあり、訓練時間数や実施方法で変わります。
3コースに共通する要件のうち、研修の組み方に直接かかわるのは次の3つです。
- 実訓練時間数が10時間以上であること。休憩や移動、助成対象にならないカリキュラムの時間は除いて数えます。
- 訓練開始日の6か月前から1か月前までの間に、職業訓練実施計画届を管轄の労働局へ提出すること。
- 訓練終了日の翌日から2か月以内に支給申請を行うこと。
実施の形も助成額に影響します。eラーニングと通信制の訓練は経費助成のみで、賃金助成は付きません。一方、オンラインでも受講中に講師へ質疑応答ができる「同時双方向型の通信訓練」は、eラーニングとは別の区分として扱われます。集合・オンライン同時・録画で何が変わるかはAI研修の受講形式の選び方にまとめています。
3. 3コースの選び分け
「どれがいちばん有利か」から入ると話が進みにくくなります。軸は、その研修が会社にとって何のためのものかです。
いまの業務のやり方を良くしたい:人材育成支援コース
経理担当者が資料作成に、営業担当者が提案書の下書きに生成AIを使えるようにする、といった研修です。職務との関連を説明しやすく、最も素直に整理できます。「業務に関係のある内容か」を問われたときに、受講者ごとに担当業務を答えられるかどうかが分かれ目です。
デジタル分野の力をつけたい:人への投資促進コース
高度デジタル人材訓練や、サブスクリプション型の研修サービスを使う定額制訓練の枠があります。社内に学習環境を置きたい会社には合いますが、学習サービスを契約しただけでは利用が広がりにくい、と当社は考えています。集合研修で使い方の入口を作ってから学習環境を渡す順番をおすすめしています。生成AI研修がどの区分に入り得るかは人への投資促進コースの解説で扱っています。
新規事業や社内のDXに伴う訓練:事業展開等リスキリング支援コース
新規事業の立ち上げなどの事業展開、または企業内のDX化・GX化に伴い、関連する業務に従事させるうえで必要な専門的な知識・技能を習得させる訓練が対象です。「DXを進めるから」だけでは説明として足りず、どの業務をどう変えるのかという筋道が要ります。パンフレットでも、既存のアプリやシステムを購入してその操作方法を習得するだけの訓練は対象にならないとされています。「事業展開」に当たるかどうかの線引きは事業展開等リスキリング支援コースの対象範囲で整理しています。
4. 令和8年8月3日からの改正で変わったこと
事業展開等リスキリング支援コースでは、令和8年8月3日以降に提出する計画届から、次の2点が変わりました。助成率(中小企業75%)と10時間以上の要件は変わっていません。
- DX化・GX化の訓練でも、汎用的な内容は対象外に。「職業、または職務に間接的に必要となる知識・技能」や「職業、または職務の種類を問わず、職業人として共通して必要となるもの」を目的とする訓練は、DX化・GX化に関する訓練であっても助成対象外になりました。厚生労働省のリーフレットでは、生成AIを使って商品提案書の構成案作成・文章生成・修正方法を学ぶ営業担当者向けの訓練は業務に直結するため対象、特定の業務への適用を伴わない汎用的なプロンプトの作り方を学ぶ訓練は対象外、という例が示されています。DXの概念やデジタル技術の概要を学ぶだけの訓練も、対象外の例に挙がっています。
- 受講回数に上限。同じ労働者が助成を受けられる訓練は1年度に3回まで、このうちeラーニングによる訓練は1回までです(年度は支給申請日を基準に、4月1日から翌年3月31日まで)。
令和8年8月2日以前に教育訓練機関と契約・申込みをしている場合などには経過措置があります。該当しそうな場合は、支給要領とパンフレットで条件をご確認ください。
人材育成支援コースでも、職務に間接的に必要な訓練や、接遇・マナー講習のように職業人として共通に必要な訓練はもともと対象外で、同じ労働者の支給申請は1年度3回までです。どのコースで整理するにしても、生成AIの一般論ではなく、受講者の担当業務に当てはめる内容にしておくことが前提になります。制度を使うと研修の中身がどこまで縛られるかは助成金を使う研修の設計上の制約をご覧ください。
5. 生成AI研修が対象外になる主なケース
相談の時点で「今回は難しい」となるケースを並べます。研修の内容が理由になるものと、段取りや記録が理由になるものがあります。
| ケース | 何が起きているか |
|---|---|
| 研修を始めてから相談した | 計画届は訓練開始日の6か月前から1か月前までに提出します。始めてしまった訓練を後から計画として出すことはできません |
| 受講者が対象外 | 雇用保険の被保険者でない方(業務委託の方など)は対象になりません |
| 訓練時間が足りない | 実訓練時間数10時間以上が要件です。2時間の入門セミナー単体では届きません |
| 汎用的な内容にとどまる | 特定の業務に当てはめないプロンプトの一般論や、AIの概念理解だけの内容は、令和8年8月3日以降の事業展開等リスキリング支援コースで対象外と明記されました |
| ツールの操作説明だけ | 自社の業務で使う機器・端末等の操作説明は、対象とならない訓練の例に挙がっています |
| 職務との関連を説明できない | 「今後のために教養として」では通りません。誰のどの業務に必要かを、受講者ごとに言える状態が要ります |
| 実施の記録が残っていない | カリキュラム、時間割、受講者ごとの出欠。実施した事実があっても、記録がなければ示せません |
| 経費の証拠が揃わない | 見積書・請求書・支払いの流れを説明できる形になっているか。値引きや相殺があると整理が要ります |
| 事業主側の要件を満たしていない | 労働保険料の納入状況、労働関係法令の遵守状況など、研修の中身とは別に会社側に求められる条件があります |
研修の中身が理由になるのは、時間数・汎用的な内容・操作説明・職務との関連の4つです。残りは順番と記録の問題なので、研修の内容より先にスケジュールを確認する価値があります。出勤簿や賃金台帳の出し方、所定労働時間外に実施した訓練の扱いなど、書類でつまずく場所は人材開発支援助成金が不支給になるケースに整理しています。
6. 申請の期限は2つだけ押さえる
制度上動かせない期限は、職業訓練実施計画届の提出(訓練開始日の6か月前から1か月前まで)と、支給申請(訓練終了日の翌日から2か月以内)の2つです。計画届を出す日までに、職業能力開発推進者の選任と事業内職業能力開発計画の整備も済ませておきます。4月から新年度の研修を始めたい会社は、前年の年内には動き始める計算になります。受講予定者の入れ替えや日程のずれにも手続きが要るため、日程は動かせる範囲を最初から狭くしておくほうが安全です。
研修初日から逆算した準備の並べ方と、間に合わなかった場合の選択肢は人材開発支援助成金の申請の流れに、研修会社や社会保険労務士に何を頼むかはAI研修で助成金を使うときの段取りに、研修費の支払いから入金までの資金の見方は助成金の入金時期と立て替えの考え方にまとめています。
7. 申請は会社が労働局へ。不正受給は社名の公表まで進む
申請者は会社(事業主)で、受講した社員が個人で申請する仕組みはありません。計画届も支給申請書も、事業所の所在地を管轄する都道府県労働局に出します。都道府県によっては、ハローワークで受け付けている場合もあります。
出し方は、労働局の窓口への提出、郵送、雇用関係助成金ポータルでの電子申請の3通りです。郵送は労働局に届いた日が提出日になり、消印の日付では数えません。電子申請にはGビズIDの取得が必要です。また、計画届を紙で出すと、その計画の変更届や支給申請は電子申請で出せなくなります。GビズIDの準備を含む手続きの順番は、計画届から支給申請までの申請の流れにまとめています。
もう1つ押さえておきたいのが、不正受給の扱いです。厚生労働省のパンフレットによると、不正受給と判断されると助成金は不支給か支給の取り消しとなり、受け取った分の返還に加えて、返還額の20%の違約金と年3%の延滞金がかかります。その後5年間は雇用関係助成金を受けられず、悪質な場合は刑事告訴の対象にもなります。公表の扱いも変わっています。令和8年8月3日以降の支給申請では、労働局の調査より前に自主申告しなければ、支給申請の段階で公表の対象になります。助成金をまだ受け取っていなくても、事業主名や代表者名が公表されるということです(金額などによる例外があります)。
厚生労働省のリーフレットには、研修会社などから「実質無料」と説明されて協力金を受け取った例や、受講の見返りに製品を無料で提供された例が、不正の例として載っています。「後からキャッシュバックがある」といった提案も、注意すべき勧誘に挙がっています。助成金を前提にした提案を受けたら、研修費を自社で全額負担する形になっているかを確かめてください。
8. ノセカエがお手伝いできる範囲
当社は研修会社で、社会保険労務士事務所ではありません。助成金の申請書類の作成・提出の代行は社会保険労務士の業務なので、当社では行いません。対象になり得るかどうかは、提携する社会保険労務士が無料で診断します。
当社が用意するのは訓練の側の書類です。カリキュラム、時間割、訓練時間の内訳、実施内容の記録。助成金を検討される場合は最初にお伝えいただければ、書類の形をそこに合わせ、研修の中身も受講者の担当業務に当てはめる形で組みます。
ただし、時間数の下限を満たすためだけに座学を足すことはおすすめしません。当社が座学3割・実習7割で組んでいるのは、要件のためではなく、そうしないと業務で使えるようにならないからです。また、受給できなかった場合でも成立する規模で始めることをおすすめしています。費用対効果の見方は生成AI研修のROIをご覧ください。
まとめ
生成AI研修で検討するのは、人材育成支援コース・人への投資促進コース・事業展開等リスキリング支援コースの3つです。いずれも実訓練時間10時間以上、計画届は訓練開始日の6か月前から1か月前まで、支給申請は終了日の翌日から2か月以内が基本です。令和8年8月3日以降の事業展開等リスキリング支援コースでは、業務に当てはめない汎用的な内容が対象外と明記されました。研修の日程を決める前に、コースと段取りを確認してください。
参考資料・注意事項
本記事は一般的な制度の整理であり、貴社が対象になるかどうか、受給できるかどうかを示すものではありません。コース構成・要件・提出期限・助成額は年度ごとの見直しで変わることがあります。検討の際は、厚生労働省と管轄の都道府県労働局が公表する最新のパンフレット・支給要領をご確認ください。申請書等の作成・提出代行は社会保険労務士の業務であり、当社では行いません。
- 厚生労働省「人材開発支援助成金」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/d01-1.html
- 厚生労働省「令和8年度版 人材育成支援コースのご案内(令和8年8月3日版)」 https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/001731967.pdf
- 厚生労働省「令和8年度版 人への投資促進コースのご案内(令和8年8月3日版)」 https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/001731974.pdf
- 厚生労働省「令和8年度版 事業展開等リスキリング支援コースのご案内(令和8年8月3日版)」 https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/001731978.pdf
- 厚生労働省「令和8年8月3日からの変更点について(事業展開等リスキリング支援コース)」 https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/001731966.pdf
最終確認:2026年9月24日
- 厚生労働省「人材開発支援助成金 不正受給した事業主は公表されます」(リーフレット) https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/001731928.pdf
- 厚生労働省「人材開発支援助成金 「訓練経費」は無料になりません」(リーフレット) https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/001687554.pdf
- 厚生労働省「雇用関係助成金の電子申請」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/index_00060.html
- 厚生労働省「キャリアアップ助成金」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/part_haken/jigyounushi/career.html
最終確認:2026年9月30日(上記4件と、人材育成支援コースのご案内)
研修の内容より先に、スケジュールと書類の形から一緒に確認します。
今回は間に合わないという結論になるなら、それを先にお伝えします。
助成金の対象になるか無料で確認する →お電話でのご相談:03-6820-2744(平日10:00〜18:00)
