中小企業の管理職研修|人数が揃わない会社で、研修を成立させる組み方
「管理職研修をやりたいのですが、対象者が3人しかいなくて」。中小企業の経営者や人事の方から、この形のご相談を何度もいただいてきました。そのたびに感じるのは、この会社は研修に消極的なのではなく、既存の研修の形に自社が入らないことに気づいているということです。
先に結論を書きます。中小企業で管理職研修が続かない理由は、予算でも管理職の意識でもありません。階層別研修という形式そのものが、同じ立場の人が一定数いることを前提に設計されているからです。20人が同期入社する会社の仕組みを、管理職が3人の会社に持ち込めば、当然うまくいきません。ですので、人数のところから設計をやり直す必要があります。
この記事は「人数が揃わない会社で、どう組むか」という形式の話に絞っています。育成そのものの進め方はAI人材育成とは?に、研修を単発で終わらせない仕組みは生成AIの社内教育に、導入の順番は中小企業の生成AI導入ステップに整理しています。
なぜ「3人の管理職研修」は成立しにくいのか
人数が少ないと何が起きるか。実際に立ち会って見えたのは、次の3つです。
- グループワークが成立しない。 一般的な管理職研修のプログラムは、4〜6人の班を複数作り、班ごとの結論を比べるという流れで組まれています。3人だと班が1つしかできないので、比べる相手がいません。ワークの時間がそのまま雑談になります。
- ケース教材が自社の実名にすり替わる。 「A課長の部下のBさん」という架空の事例を扱っていても、参加者3人は全員お互いの部署を知っています。話しているうちに、それが誰の話なのかが全員に分かってしまう。すると発言が止まります。人数が多い研修では匿名性が担保されますが、少人数ではそれがありません。
- 日程が合わない。 これが実はいちばん大きい。3人の管理職は3人とも現場を持っています。20人の会社で3人の予定を半日空けるのは、200人の会社で20人を空けるより難しいことがあります。1人休むと3分の1が欠けるので、延期が延期を呼びます。
つまり人数が少ないことは「規模が小さい」という量の問題ではなく、研修という形式の前提が崩れるという質の問題です。ここを認めたうえで組み替えると、少人数のほうが有利な点も出てきます。
人数が揃わない会社で使える4つの組み方
実務で見てきた形は、おおむね次の4つに整理できます。
| 組み方 | 成立する人数 | 向いている目的 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| A:同業・近隣の他社と合同でやる | 自社2〜3人+他社 | 視野を広げる/他社の当たり前を知る | 自社の生々しい課題は出せない |
| B:1対1に切り替える | 1人から | 特定の管理職の詰まりを外す | 人数比例で費用が上がる |
| C:課題持ち寄り型にする | 2〜6人 | いま現場で起きている問題を進める | 進行役がいないと愚痴で終わる |
| D:管理職候補も混ぜる | 3人+候補2〜4人 | 次の層を同時に育てる | 評価・処遇の話は扱えなくなる |
いちばん現実的なのはDです。人数を外から足すのではなく、内から足す。「まだ管理職ではないが、いずれ任せたい人」を2〜3人混ぜるだけで、班が2つできてワークが動きます。副次的な効果として、候補者が管理職の悩みを先に知ることになるので、いざ任命したときの立ち上がりが速くなります。
ただしDには制約があります。評価、処遇、個別の人事の話は扱えません。部下になるかもしれない人が同席しているためです。この種のテーマを扱いたい場合は、Dとは別にBの時間を用意してください。1つの研修で両方をやろうとすると、どちらも中途半端になります。
Cの課題持ち寄り型は、3人でも成立する数少ない形式です。教材を使わず、参加者が実際に抱えている案件をそのまま議題にします。人数が少ないことがむしろ有利に働き、1人あたりの持ち時間が長くなります。ただし進行役が「それで、次に何をしますか」と毎回聞かない限り、共感で終わって何も動きません。ここは社内の人間だと役割を果たしにくい部分です。
中小企業の管理職に必要なテーマは、大企業とは違う
形式と同じくらい大事なのが、中身です。市販の管理職研修のカリキュラムは、多くが大企業向けに作られています。目次を見ると、評価制度の運用、目標管理の面談、労務管理の基礎、といった項目が並びます。
これらは「制度がすでにある会社で、制度を正しく運用する」ための内容です。ところが中小企業の管理職に起きているのは、その手前の状況です。評価制度がない、目標が期初に決まっていない、就業規則を読んだことがない。制度を運用する話をしても、運用する制度がありません。
私が見てきた範囲で、中小企業の管理職が実際に詰まっているのは次の3つです。
- 仕事の渡し方。 プレイヤーとして優秀だった人がそのまま管理職になっているので、自分でやったほうが速い。結果、部下に渡すのは自分がやりたくない作業だけになり、部下は育たず、本人は残業が減りません。ここは技術の問題で、渡す単位の切り方を練習すれば変わります。
- 数字の見方。 自部門の粗利がいくらで、自分の判断が何にどう効くのかを知らないまま判断している方がかなりいらっしゃいます。会社が数字を開示していないケースもありますが、開示していても読み方を教えていないことのほうが多いです。
- 人が辞める前の兆候。 中小企業では1人の離職が事業に直接効きます。にもかかわらず、辞意を告げられてから初めて動く。兆候をどう拾うかは、経験ではなく観点の問題です。
この3つはいずれも、テキストを読んで理解する種類のものではありません。自社の実際の案件を題材にしないと身につかないので、結果的に前章のC(課題持ち寄り型)と相性がよくなります。少人数であることが不利にならない領域です。
生成AIは「操作」ではなく「差し戻し方」として入れる
私たちは生成AI研修を提供している会社なので、この点は正直に書きます。管理職研修に生成AIを「ツールの操作」として入れると、たいてい失敗します。管理職は忙しく、自分で入力する機会が部下より少ないためです。研修中は動かせても、翌週には触らなくなります。
一方で、管理職にしか発生しない生成AIの課題があります。部下が生成AIで作ったものを、どう受け取るかです。
生成AIで作った資料は、見た目が整っています。章立てがあり、語尾が揃い、それらしい見出しが付いている。ところが中身を読むと、自社の事情が入っていなかったり、数字の根拠が曖昧だったりします。管理職が生成AIを使ったことがないと、この「体裁は良いが中身が薄い」ものを、よくできた資料として通してしまいます。そして通ったものが顧客に出ていきます。
ですので、管理職研修で扱うべきなのは操作ではなく、次の3点です。
- どこを見れば、確認していない部分がわかるか。 固有名詞、数字、日付、そして「一般的には」で始まる段落。ここに自社の情報が入っていなければ、まだ作業が終わっていません。
- 差し戻すときに、何と言うか。 「AIっぽいから書き直して」では部下は直せません。「この段落は自社の事例に置き換えて」という具体の指示に翻訳できるかどうかが、管理職側の技術になります。
- そもそも使ってよい仕事か。 顧客の情報や未公開の数字を扱う場面での線引きは、担当者ではなく管理職が判断する場面です。
部下側が「検索代わり」で止まってしまう構造は社員がChatGPTを「検索代わり」で止まる理由に書きました。管理職研修は、その受け取り手側を扱う位置づけになります。
この「差し戻し方」を、実際の資料に当てる形まで具体化したものが別稿にあります。上司が見る5つの観点(数字の出どころ・固有名詞と出典の実在・自社の事情・社外に出せるか・誰の名前で出るか)と、差し戻しの3区分は部下が生成AIで作った資料を、上司はどこまで直すべきかにまとめました。研修の組み方を決める前に、こちらだけ部門で配っても機能します。
1回にまとめず、短く分ける
人数が少ない会社ほど、半日や1日の研修を1回やる形は向きません。前述のとおり、日程が合わないからです。
私たちがお勧めしているのは、60〜90分を月1回、3〜6か月という形です。理由は3つあります。
- 1〜2時間なら、現場を持っている管理職でも押さえられます。半日は押さえられません。
- 間が空くので、前回決めたことを実際に試す時間が取れます。次回の冒頭が「やってみてどうだったか」から始まると、研修が現場と地続きになります。
- 1人欠けても回せます。3人中1人が欠けた回は、その人に次回の冒頭で共有すれば済みます。1回きりの研修では、欠席は取り返せません。
逆に、短く分ける形の弱点も書いておきます。間隔が空くと、何も試さないまま次回が来ることがあります。これを防ぐには、毎回の終わりに「次回までにやること」を1つだけ決め、それを社長または人事が把握しておくことです。宿題を出すというより、決めたことを覚えている人を社内に置く、という意味です。
なお、この「短く分ける」という考え方は、管理職の一段下=主任・リーダークラスに当てるときのほうが効きます。抜けるとその日の業務が止まる層なので、1日集合はまず成立しません。回数・間隔・各回に残す成果物の決め方は中堅社員研修|いちばん忙しい層に、いちばん効かせるための時間の切り方に分けて書きました。
効果測定をどう考えるか(数字が出ないことを前提にする)
ここは正直に申し上げます。対象者が3人の研修は、数字で効果を示せません。3人の変化は統計になりませんし、離職率も売上も、研修以外の要因のほうが大きく効きます。「研修の効果です」と言い切れる数字は作れません。
そのうえで、実際に見ておく価値があると考えているのは次のような変化です。
| 見るもの | なぜそれを見るか |
|---|---|
| 社長まで上がってくる判断の件数 | 減っていれば、管理職の層で決まるようになったということ |
| 管理職から社長への相談の中身 | 「どうすればいいですか」から「こうしようと思います」に変われば前進 |
| 部下からの直訴が社長に届く回数 | 増えているなら、管理職が機能していない可能性を疑う |
| 会議の時間 | 短くなるとは限らないが、決まる件数が増えているかは見られる |
いずれも数字にはできますが、比較対象がないので厳密な効果測定ではありません。それでも「何を見るか」を先に決めておくと、続けるかどうかの判断がしやすくなります。研修の効果を金額で試算する考え方そのものは生成AI研修のROIに書きましたが、管理職研修は生成AI研修よりも効果が見えるまで時間がかかります。半年から1年は見ておいてください。
費用と、助成金について
費用は、前章の組み方によって構造が変わります。合同型(A)は1社あたりの負担が下がる代わりに自社の課題は扱えず、1対1(B)は人数分だけ費用がかかります。「1人あたりいくら」で比べると少人数の会社は必ず割高になるので、比べるなら「その3人が判断できるようになることに、いくらまで出せるか」で見たほうが現実的です。研修そのものの比べ方は法人向けAI研修の選び方に整理しています。
助成金については、会社が計画して実施する訓練であれば、要件を満たすことで対象になる場合があります。人材開発支援助成金には複数のコースがあり、訓練の中身や目的によって見るコースが変わります。ただし、会社が使う助成金では訓練を始める前に計画を届け出ることが要件とされているのが一般的で、実施した後から相談しても間に合いません。制度の全体像は人材開発支援助成金とはをご覧ください。対象になるかどうかの最終的な判断は、管轄の労働局が行います。
ノセカエの立場と、正直に申し上げておくこと
- 管理職が2人以下の会社には、研修という形をお勧めしていません。 その規模なら、1対1でその方の詰まりを外すほうが安く、速く効きます。研修の体裁を整えることに意味はありません。
- 労務管理・ハラスメント対応など、法令の解釈が絡む領域は扱いません。 これらは社会保険労務士や弁護士の領域です。私たちがお引き受けするのは、仕事の渡し方、数字の読み方、生成AIを含むアウトプットの受け取り方といった実務の側です。
- 社長が同席するかどうかを、先に決めていただいています。 同席すると管理職の本音は出にくくなり、同席しないと出た話が社長に届きません。どちらにも損があるので、両方は取れないということだけ先にお伝えしています。当社は、初回は同席あり、2回目以降は同席なしで最後に共有、という形をお勧めすることが多いです。
- 管理職研修は、生成AI研修より効果が見えにくいです。 生成AI研修は「作業時間が減った」という手応えが数週間で出ますが、管理職の変化はそうはいきません。短期で成果を示す必要がある局面なら、先に生成AI研修を入れたほうが社内は動きます。
まとめ
中小企業で管理職研修が続かないのは、意識の問題ではありません。階層別研修という形式が、同じ立場の人が一定数いる前提で作られているだけです。ですので、人数のところから組み直します。
順番はこうです。まず管理職候補を混ぜて班が2つできる人数を作る。次に、教材ではなく自社の実際の案件を議題にする。そして半日1回ではなく、60〜90分を月1回にする。この3つで、3人の会社でも研修は動きます。テーマは制度の運用ではなく、仕事の渡し方・数字の見方・人が辞める前の兆候の3つから始めてください。
生成AIについては、管理職に操作を教えるより、部下が作ったものをどう受け取り、どう差し戻すかを扱うほうが効きます。ここは管理職にしかできない仕事です。
いまの人数と体制で、どの組み方が現実的か。助成金が使えるか無料診断では、研修設計の側から整理してお返しします。研修という形にしないほうがよいという結論になるなら、そうお伝えします。
※本記事は一般的な実務の整理であり、個別の支給・採択を保証するものではありません。助成金は要件を満たすことで対象になる場合がありますが、申請しても受給が確約されるものではなく、最終的な判断は管轄の労働局・各制度の事務局が行います。制度の要件は年度・改正により変わることがありますので、実際のご検討にあたっては最新の支給要領をご確認ください。労働社会保険諸法令に基づく申請書等の作成・提出代行・事務代理は社会保険労務士の業務であり、当社では行いません。労務管理・ハラスメント対応等における法令解釈については、社会保険労務士・弁護士にご相談ください。記載の人数・期間の目安は当社が実務で用いている判断材料であって、基準を保証するものではありません。