中堅社員研修|いちばん忙しい層に、いちばん効かせるための時間の切り方
研修の相談をいただくとき、新入社員向けと管理職向けは、たいてい形が決まっています。決まっていないのが真ん中です。入社5年目から15年目くらい、主任・リーダー・係長あたりの層。ここだけ、毎年「今年もできませんでした」で終わっている会社が少なくありません。
理由を伺うと、返ってくる答えはほとんど同じです。「日程が押さえられない」。予算が無いわけでも、必要性を感じていないわけでもない。いちばん現場を回している人たちを、まとめて1日抜くことができない。それだけの理由で、毎年後回しになります。
ですので、この記事はカリキュラムの中身の話ではありません。時間の切り方の話に絞ります。ここを変えないかぎり、どれだけ良い内容を用意しても中堅の研修は成立しないからです。階層別・職種別など研修全体の切り方は企業研修は何から手をつけるかに、管理職層の組み方は中小企業の管理職研修に分けて書いています。
1|中堅社員の研修が組めないのは、予算の問題ではない
中堅層には、他の階層に無い事情が3つ重なっています。どれも本人の意欲とは関係ありません。
事情1|抜けると、その日の業務が止まる
新入社員は、抜けても業務が止まりません。管理職は、抜けても代理決裁の仕組みがあります。中堅だけが、抜けると具体的な作業が止まる位置にいます。顧客からの問い合わせ、若手からの相談、承認前の一次確認。その日の分がそのまま翌日に積み上がります。
だから中堅は、研修に出ても頭が戻りません。休憩のたびにメールを見て、午後には中抜けする。これは意識の問題ではなく、戻る先の仕事が誰にも預けられていないという構造の問題です。
事情2|「いま困っていない」から、学ぶ理由が立たない
中堅は、目の前の仕事はできる層です。だから「何を学びたいですか」と聞いても出てきません。出てくるのは「時間が足りない」だけ。
ここで会社側がやりがちなのが、リーダーシップ論やキャリア開発といった抽象度の高いテーマを当てることです。悪い内容ではありませんが、忙しい人にとっては「今日でなくてもよい話」に分類されます。分類されたら、次回から出席率が落ちます。
事情3|教える側に回されているのに、教え方を習っていない
3つ目がいちばん大きいと考えています。中堅は、いつのまにか後輩の指導係になっています。ところが指導のしかたを習った経験は、ほぼありません。自分がやれば5分で終わることを、30分かけて教える意味が腹落ちしていない。結果、自分で巻き取ってしまう。
この層が抱えている本当の困りごとは、自分の作業ではなく人に渡せないことです。ここに当てると、研修の位置づけが「今日でなくてもよい話」から外れます。
中堅社員研修が続かない会社は、たいてい「内容が刺さらなかった」と総括します。ですが実務で見ていると、先に崩れているのは日程のほうです。3回のうち2回しか出られなかった人は、内容の評価ができません。
2|時間の切り方は3つ。中堅に1日集合はいちばん合わない
研修の時間の取り方は、実務上ほぼ次の3つです。中堅層に当てたときの向き不向きを並べます。
| 切り方 | 向く条件 | 崩れ方 | 中堅への適性 |
|---|---|---|---|
| 1日集合(丸1日) | 繁忙期を外せる/全員の担当を代われる人がいる | 欠席と中抜けが出る。次回から日程が取れなくなる | 低い |
| 半日×2回 | 部署をまたいで同じ半日を空けられる | 2回目までの間隔が空くと、1回目が抜ける | 中 |
| 90分×複数回 | 定例会議の枠を転用できる | 1回が短いので、演習を詰め込むと座学に戻る | 高い |
結論から書くと、中堅層は90分×複数回がいちばん成立します。理由は3つあります。
- 既存の会議枠に乗せられる。新しく1日を作るのではなく、既にある枠を使う。日程調整の難易度が桁違いに下がります。
- 間に実務が挟まる。次回までに1回試す時間が取れます。研修中にしか触らないものは、終わった瞬間に止まります。
- 欠席が致命傷にならない。1回落としても次で戻れる設計にできます。1日集合で欠席すると、その人はもう入れません。
ただし90分には弱点があります。詰め込むと座学に戻ることです。90分で説明と演習と質疑を全部やろうとすると、説明だけで終わります。ここは後述の「持ち込み」で解きます。
間隔は、詰めすぎても空けすぎても崩れる
複数回にするとき、次に決めるのが間隔です。実務でうまくいっているのは、2週間前後の間隔です。
- 1週間だと、間の実務で試す機会が来ないまま次回が来ます。宿題が未着手のまま集まることになります。
- 1か月空くと、前回の内容が飛びます。冒頭の振り返りに時間を取られ、実質の時間が減ります。
また、月末月初と決算期を外すのは最初に確認してください。中堅層は経理や営業事務との接点が多く、この時期は物理的に抜けられません。
なお、ここに挙げた向き不向きは中堅層に当てた場合の話です。全社としてどの形を選ぶか、分割すると何が落ちるのか(長い演習、本音が出るまでの助走)を対象者によらず整理したものは研修の時間が取れない会社は、どこを削っているかにあります。
3|題材を「自分の業務」から「後輩の業務」に変える
時間の切り方と同じくらい効くのが、題材の置き方です。ここは中堅層だけ、他の階層と変えたほうがよいと考えています。
中堅に「自分の業務を効率化しましょう」と当てると、反応が鈍くなります。自分の業務は、すでに自分なりに最適化されているからです。むしろ「いまのやり方を否定された」と受け取られることがあります。
そこで題材を後輩・若手に渡したい業務に置き換えます。すると、次の3つが同時に起きます。
| 題材を後輩の業務にすると | 起きること |
|---|---|
| 研修の目的が具体になる | 「渡せるようにする」という到達点が本人の言葉で立つ |
| 手順を言語化せざるを得なくなる | 自分の中で暗黙になっていた判断が、初めて文になる |
| 成果が研修外に残る | 作った手順書がそのまま職場に残る。研修が資産になる |
3つ目が重要です。中堅の研修は、成果物が残らないと「やった記憶」だけになります。1回90分ごとに、持ち帰れるものを1つ作る設計にしてください。この考え方は新入社員側の設計とはちょうど逆になります(新入社員研修に生成AIを入れるか)。
4|生成AIを入れるなら、中堅だけ設計を変える
当社は生成AI研修を提供しているので、この観点でも書きます。ただし中堅層に、若手と同じ生成AI研修を当てるのは非効率だと考えています。理由は明確です。
中堅は「自分でやったほうが早い」層です。ここに「文章を書かせてみましょう」「議事録を作らせてみましょう」と当てても、自分でやったほうが早いという結論に着地します。そして、その結論は多くの場合、その時点では正しい。
ですので、中堅に当てる論点は自分の作業短縮ではなく、次の2つに寄せます。
- 後輩が作った下書きを、どう見るか。生成AIを使い始めるのは若手のほうが早い。すると、中堅のところに「それらしく整っているが、事実の裏付けが無い文書」が上がってきます。何を見て差し戻すかの基準を、中堅が持っていないと詰まります。
- 渡す業務の手順を、どこまで書けばよいか。後輩に渡す手順書を書くとき、生成AIは下書きの相手として使えます。自分の作業を短くするのではなく、渡すための言語化を速くする使い方です。
この「見る側の訓練」という考え方は、管理職層にも共通します。触らせ方の設計そのものはAI活用研修|触らせる研修と使わせる研修に、若手が検索代わりで止まる構造は社員がChatGPTを検索代わりで止まる理由に書きました。研修を単発で終わらせない仕組みは生成AIの社内教育に整理しています。
中堅層に生成AIを入れるとき、いちばん避けたいのは「若手のほうが詳しい」という状態を放置することです。放置すると、中堅は見る側に回れず、若手の成果物が誰のチェックも通らずに社外へ出ます。順序としては、中堅に先に基準を持たせるほうが安全です。
5|効果をどう見るか|満足度アンケートは中堅には効かない
中堅層の研修で満足度アンケートを取ると、点数はそこそこ高く出ます。真面目な層だからです。ただ、その点数と、3か月後に何か変わったかどうかは、あまり関係がありません。
見るなら、次の3つを研修前に決めておいてください。研修が終わってから測る指標を探すと、必ず満足度に戻ります。
| 見るもの | 測り方 | いつ見るか |
|---|---|---|
| 渡した業務の数 | 各人が「後輩に渡した」と言える業務を件数で数える | 研修終了から3か月後 |
| 手順書の有無 | 渡した業務に、書かれた手順が付いているか | 各回の直後 |
| 差し戻しの理由 | 後輩の成果物を戻すとき、理由を書いているか | 研修終了から1か月後 |
3つとも、研修の点数ではなく職場に残ったものを数える形にしています。時間削減額で見たい場合の考え方と落とし穴は生成AI研修のROIに別途書きました。
6|費用と助成金|「使えるかどうか」は先に確認する
研修費用の手当てとして、公的な助成金を検討される会社は多いです。生成AIやDXに関する訓練は、制度の要件を満たす場合に助成の対象になることがあります。
ただし、ここは断定を避けます。助成金は訓練時間・訓練内容・受講者の雇用形態・計画の届出などに要件があり、制度改正で変わります。当社としては「対象になる場合がある」という範囲でのご案内にとどめ、可否の判断は行いません。とくに計画の届出が訓練開始前に必要とされる制度が一般的ですので、日程を決める前に確認しておくことをおすすめします。制度の概要は人材開発支援助成金とはに整理していますが、個別の適用可否は必ず所轄の労働局または社会保険労務士にご確認ください。
予算そのものが取れない場合の組み直し方は社員教育の予算が取れないときに書いています。また、外から採るのが難しい前提で社内育成に寄せる場合の順番はDX人材の育成にまとめました。
ノセカエの場合
当社に中堅層のご相談をいただくとき、最初に伺うのは内容ではなく「その方々を、何分なら空けられますか」です。ここが90分なのか半日なのかで、設計が変わるからです。1日空けられないのであれば、1日ぶんのカリキュラムを縮めるのではなく、最初から複数回の形で組み直します。
そのうえで、題材には受講される方が実際に後輩へ渡したい業務をお持ちいただきます。研修のための架空の課題は使いません。各回の終わりに、渡すための手順が1本ずつ残る形にしています。
なお、お話を伺った結果「研修より先に、その業務を誰が持つかを決めるほうが早い」とお伝えすることもあります。渡す先が決まっていない状態で渡し方だけを習っても、職場に戻ったときに使う場面が来ないためです。その場合は、決め方の整理までをお返しして終わりにします。
まとめ
中堅社員研修が組めないのは、予算でも講師でもなく時間です。そして、いちばん合わないのが1日集合の形です。抜けると業務が止まる層なので、欠席と中抜けが構造的に発生します。
現実的な解は90分×複数回、間隔は2週間前後、月末月初と決算期は外すという切り方です。既存の会議枠に乗せられるので、日程が取れます。
そして題材は、自分の業務ではなく後輩に渡したい業務に置いてください。すると目的が具体になり、暗黙の判断が文になり、手順書という形で職場に残ります。生成AIを入れる場合も同じで、中堅に必要なのは自分の作業を速くする訓練ではなく、上がってきたものを見て差し戻す基準のほうです。効果は満足度ではなく、渡した業務の件数で見てください。
1日空けられないなら、1日ぶんを縮めずに組み直します。
受講予定の中堅層が何分空けられるかを伺って、回数・間隔・各回に残す成果物まで含めた形をお出しします。「研修より先に、その業務を誰が持つかを決めるほうが早い」という結論もそのままお伝えします。
助成金が使えるか無料診断 →※本記事は、当社が研修の設計・実施を通じて整理した一般的な考え方であり、特定の研修事業者のカリキュラムや、個別の会社での効果について結果を確約するものではありません。記載した時間配分や間隔は当社の整理であり、業界で統一された基準ではありません。生成AIツールの提供条件・プラン・機能は提供事業者により随時変更されるため、導入にあたっては各提供事業者の最新の公表内容をご確認ください。助成金については、対象や要件が制度改正により変更されます。個別の申請について支給や採択の結果を保証するものではありません。労働社会保険諸法令に基づく申請書等の作成・提出代行は社会保険労務士の業務であり、当社では行いません。税務代理・税務書類の作成・税務相談は税理士法第2条第1項に定める税理士の業務であり、当社では行いません。労働者派遣に該当する形での役務提供は行っておりません。