研修の教材は、終わったあと社内で使い回せるか|著作権と契約で決めること

目次
研修で使った教材を、終了後に社内で再利用してよいか。研修を発注する人事・研修担当の方に向けて、著作権の基本と、契約で決めておく項目に分けて整理します。
見積を受け取り、あとは社内の決裁に回すだけ。この段階で、「当日のスライドは、あとで社内に配ってもいいんですか」と聞かれることがあります。大事な質問ですが、聞かれないまま発注が進むことも多い質問です。
研修の発注で交渉できるのは、金額と日程だけではありません。教材をどこまで使ってよいか、モデルが変わったときに直してもらえるか、当日出られなかった人はもう一度受けられるか。この3つは、契約の前なら決められます。研修が終わってからでは講師の稼働も終わっており、条件を足すことが新しい発注になるため、決めにくくなります。
教材の扱いを何も決めずに発注すると、「当日その場で使うだけ」という最も狭い条件になりやすいのが実情です。研修会社が意地悪をしているわけではなく、書いていないものは含まれていない、というだけです。
1|「教材をもらえるか」ではなく、何をしてよいかを決める
まず、質問の形を変えてください。「教材はもらえますか」と聞くと、答えは「PDFをお渡しします」で終わりがちです。受け取ったあとに何をしてよいかが決まっていないと、もらっても使えません。
実務で問題になるのは、次の5つの行為です。同じ「使い回す」に見えて、性質が違います。
- 受講者が手元に置いて見返す。多くの研修で当然に含まれ、揉めることは少ない使い方です。
- 受講していない社員に配る。ここから条件が分かれます。部数と範囲の話になります。
- 社内のイントラや共有ドライブに置いて、誰でも見られるようにする。配布より一段広い行為です。
- 自社向けに書き換える。自社の業務例に差し替える、章を抜き出して社内資料に組み込む。改変にあたります。
- 自社の講師が、この教材を使って社内で教える。いわゆる社内展開で、研修会社にとって最も影響が大きい使い方です。
教材の著作権は誰にあるか
まず、教材の権利を持っているのが誰かを確認します。著作権法第15条は、会社などの法人の発意に基づき、その業務に従事する者が職務上作成し、法人の名義で公表する著作物について、作成時の契約や勤務規則に別段の定めがない限り、その法人を著作者とすると定めています(職務著作)。研修会社の社員が作り、研修会社の名義で出している教材であれば、通常は研修会社が権利を持っていると考えられます。一方、講師が個人事業主として研修会社から仕事を受けている場合は、講師個人が権利を持っていることもあります。再利用の許諾を出せるのが誰なのかを、契約の前に確かめておくと話が早くなります。
著作権法が置いている原則
著作権法は、著作物を複製する権利を第21条、公衆送信を行う権利を第23条、翻訳・翻案などを行う権利を第27条に定めており、これらは原則として著作権者が持ちます。第30条第1項は私的使用のための複製を認めていますが、個人的または家庭内などの限られた範囲での使用を目的とするもので、企業が業務のために行う複製は、この私的使用にはあたらないと一般に解されています。社内配布であっても「身内だから自由」とはなりません。
譲渡についての落とし穴も1つあります。第61条第2項は、著作権を譲渡する契約で第27条・第28条の権利が譲渡の目的として特掲されていないときは、これらの権利は譲渡した者に留保されたものと推定すると定めています。「著作権を譲渡する」とだけ書いた契約では、書き換える権利が付いてこないと推定される構造です。さらに著作者人格権は第59条により著作者の一身に専属し、譲渡できません。同一性保持権(第20条)が関わる改変は、譲渡とは別に取り決めが要ります。
ここに書いたのは法律が置いている原則で、実際に何ができるかは、最終的に当事者間の契約で決まります。生成AIの入力・出力に関する著作権の論点は、これとは別に生成AIと著作権で整理しています。
2|発注の前に決める3項目
最初の打ち合わせで確かめたいのは、次の3つです。どれも金額に影響することがありますが、聞くだけなら費用はかかりません。
(1) 教材の持ち帰りと、社内での再配布
まず範囲を決めます。「受講者のみ」か「受講者の部署まで」か「全社」か。次に形式です。PDFのみか、編集できるファイル(PowerPointなど)も含むか。編集できる形で渡すかどうかは、研修会社にとって改変の可否と地続きなので、価格が変わることがあります。
そして期間です。無期限か、1年か、契約期間中か。ここを空欄のままにすると、「いつまで置いてよいのか」が誰にも分からなくなります。期間を決めておくと、社内の情報資産の棚卸しもしやすくなります。研修後に残るものの片づけ方は研修が終わったあと、アカウントは誰が止めるかでも書きました。教材もアカウントと同じで、残したまま放置されがちです。
(2) モデルが変わったとき、改訂されるのか
生成AI研修に固有で、見落とされやすい項目です。生成AIのサービスは変化が速く、半年ほどで画面の配置や機能名が変わることがあります。受講者が半年後に教材を開いたら、書いてある画面が見当たらない、ということも起こり得ます。
決めるのは次の3点です。改訂を出すのか。出すなら頻度と回数は。改訂版は誰に届くのか。「1年間、重要な変更があれば改訂版を送る」と1行あるだけで、教材の寿命が変わります。改訂が付かない契約であれば、それを承知のうえで「その代わり安い」と判断すればよいのです。判断するためにも、聞いておく必要があります。
この「更新」は、研修を内製するか外注するかの分かれ目でもあります。講師と教材は社内で用意できても、更新まで社内で続けるのは負担が大きくなりがちです。考え方は生成AI研修を社内で作るか、外に頼むかに整理しました。外注すると決めた場合でも、更新を誰が持つかは自動的には決まりません。
(3) 欠席者と中途入社者の再受講
研修当日は、出張や客先対応、体調などで何人か欠けることがあります。半年後には、その日にいなかった人が入社してきます。
決めることは3つです。録画を配信できるか。次回の開催に空き枠で入れてもらえるか。少人数の追加開催はいくらか。ここを決めていないと、欠席者は「教材だけもらって終わり」になりがちです。演習の時間があって身につく設計の研修では、教材だけで自力で追いつくのは簡単ではありません。
全員に受けさせるか選抜にするかで、この項目の重さが変わります。全員必須にするなら再受講の経路は欠かせません。考え方は生成AI研修は全員に受けさせるか、選抜にするかに書きました。
3|条件は4つの段階に分かれ、価格も変わる
教材の扱いは、実務ではおおむね次の4段階のどこかに落ち着きます。下へ行くほど自社の自由度は上がり、金額も上がる傾向があります。
| 段階 | できること | 研修会社側の事情と、金額の動き |
|---|---|---|
| ①当日利用のみ | その場で使う。受講者が手元に控えを持つところまで | 取り決めがない場合、事実上ここになりやすい。追加費用は生じない |
| ②社内再配布可 | 受講しなかった社員にも配れる。範囲・期間を明記する | 受講者数が実質的に増える。人数課金の研修では単価に反映されることがある |
| ③改変可 | 自社の業務例に差し替える、章を抜いて社内資料に組み込む | 改変後の内容に講師名が残ると品質の責任があいまいになるため、出所表示や名義の扱いを併せて決める |
| ④社内講師による展開可 | 自社の担当者が、この教材で社内に教える | 研修会社の次回受注が減る。ライセンス料や、講師養成を別発注にする形が一般的 |
④まで取る必要がある会社は多くありません。社内講師を立てるには、教材の権利より先に「教える人の時間」が要るからです。まず②を確保し、改訂を1年付ける。これだけでも、次の1年の運用はかなり楽になります。
この4段階は見積の内訳とも連動します。教材費が講師料と分かれて書かれているか、一式なのか。相見積が比べにくい理由の1つがここです。読み分け方は生成AI研修の相見積が比べられないのは、何を数えているからかにまとめました。
4|書面に入れるのは5行で足りる
難しい条項は要りません。当社がおすすめする書き方は次の5行です。長い契約書を作るより、見積書の備考欄にこの5行が入っているほうが、実務では役に立ちます。
- 教材の利用範囲。「受講者および〇〇部に限る」「貴社従業員に限る」など、対象を人で書く。グループ会社や委託先を含めるなら明記する。
- 形式と期間。「PDFで提供、貴社イントラへの掲載可、期間は納品から〇年」。編集可能ファイルを含めるなら、その旨も書く。
- 改訂。「納品から〇年間、内容に重要な変更が生じた場合は改訂版を提供する」。頻度を約束できないなら「重要な変更が生じた場合」でよい。
- 改変の可否と、その場合の名義。「貴社内での改変可。ただし改変後の資料に当社名および講師名を表示しない」。書いておくと、双方が守りやすくなります。
- 欠席者・新入社員の扱い。「録画を〇か月間、貴社内で視聴可」「次回開催時に〇名まで受講可」など、経路を1つ確保する。
助成金を使う場合は、この5行に加えて実施の記録が要ることがあります。制度によっては、実施時間・実施形態・出席の記録の取り方が定められており、教材の作り方にも影響します。設計にどこまで制約が入るかは助成金を使うと、研修の中身はどこまで決められてしまうかに整理しました。
5|録画は、教材とは別の論点になる
「録画を残して欠席者に見せたい」という要望が出ることがあります。注意していただきたいのは、録画には教材以外のものも写るという点です。
- 受講者の顔と声、そして質問の内容。誰が何を分かっていなかったかが記録に残ります。人事評価と切り離すことを事前に受講者へ伝えておくと、質問が出やすくなります。
- 演習で使った自社の資料。実データを演習に持ち込んでいる場合、録画にそれが残ります。持ち込みの是非は演習で自社の実データを使わせてよいかに、情報の扱い全般は生成AIのセキュリティリスクと対策にまとめています。
- 講師の実演部分。画面を操作しながら説明する箇所はスライドより価値が高いことが多く、研修会社が条件を付けたがる部分です。
録画は「可・不可」の二択ではなく、どの部分を、誰が、いつまで見られるかで決めてください。当社は、講義部分は残し、質疑と演習は残さない、という切り分けをおすすめします。質疑を残さないほうが、当日の質問が出やすくなるためです。
6|ノセカエに依頼する場合の教材の扱い
- 教材をどこまで社内で使えるかは、お見積もりの段階でご相談ください。社内講師による展開をご希望の場合も、その段階でご相談ください。
- 研修後の教材の改訂は行っていません。モデルや画面が変わり、研修の内容そのものを更新したい場合は、新たな研修としてご相談ください。
- 「教材が全部もらえる研修」が良い研修とは限りません。資料が分厚くても、当日の演習が薄いことがあります。教材の量ではなく、終わったあとに受講者が自分の業務で手を動かせるかで選んでください。
- 研修会社によって、標準で含まれる範囲は異なります。この記事の整理は、当社の考え方によるもので、業界の統計ではありません。
まとめ
研修の教材を社内で使い回せるかは、発注の前に書面で決めたかどうかで決まります。交渉できるのは、社内再配布の範囲、モデルが変わったときの改訂、欠席者と中途入社者の再受講の3項目で、書面には利用範囲・形式と期間・改訂・改変と名義・欠席者の扱いの5行を入れておけば足ります。なかでも忘れられやすいのが改訂です。
参考資料・注意事項
- 著作権法(e-Gov法令検索):第15条(職務上作成する著作物の著作者)、第20条(同一性保持権)、第21条(複製権)、第23条(公衆送信権等)、第27条(翻訳権、翻案権等)、第28条、第30条第1項(私的使用のための複製)、第59条(著作者人格権の一身専属性)、第61条第2項(著作権の譲渡)
最終確認:2026年9月24日。本記事は法律が置いている原則の一般的な説明であり、個別の契約の有効性や条項の可否を判断するものではありません。契約文言は貴社の法務部門または弁護士にご確認ください。当社は法律事務を行いません。助成金は審査により支給の可否が決まり、受給を保証するものではありません。
研修の教材は、終わったあとも社内で使えるか。
見積書の読み方(教材の利用範囲・改訂の有無・再受講の経路)を、30分の無料相談でご相談いただけます。助成金を使う予定がある場合は、提携社労士が対象となるかを無料で診断します。ご相談だけでも承ります。
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