生成AI研修を社内で作るか、外に頼むか|講師・教材・更新の3つに分けると、内製できる範囲が見える
「社内にAIに詳しい人間がいるので、まず自分たちで作れないかと思っているんです」。研修のご相談で、この言い方をされることがよくあります。私(浅香)は、いつも「作れます」とお答えしています。生成AIの研修は、内製が成立しやすい部類だからです。
ただし、そのあとに1つだけ付け足します。「作るところまでは社内でできます。続けるところで、たいてい止まります」と。
この記事は、外注先を選ぶ前の分岐——そもそも自社で作れないか——を扱います。研修会社の選び方は法人向けAI研修の選び方に、研修の種類と対象者の設計はAI研修とはに書いていますので、そこは前提として省きます。ここでは内製と外注の線をどこで引くかだけを書きます。
1|先に結論|「研修」は1つの塊ではない。3つに割ると判断できる
内製か外注かで話が進まない会社は、たいてい「研修」を一体のものとして扱っています。実際には、次の3つの仕事の束です。
- 講師——当日その場に立ち、質問に答え、手を止めている人を見つけて拾う仕事
- 教材——スライド、演習の題材、手順書、受講後に見返せる資料をつくる仕事
- 更新——ツールの仕様変更・社内ルールの改定・新しい使い方に合わせて、教材と演習を作り直し続ける仕事
この3つは、内製の難易度がまったく違います。そして多くの会社は、いちばん難しい「更新」を計算に入れないまま内製を決めます。
| 要素 | 内製の難易度 | なぜそうなるか | 止まったときに起きること |
|---|---|---|---|
| 講師 | 低〜中 | 社内の業務を知っている人が話すほうが、事例が具体的になる | その人の異動・退職で開催できなくなる |
| 教材 | 中 | 最初の1版は作れる。時間はかかるが、作れないものではない | 古い画面のスクリーンショットが残り、受講者が混乱する |
| 更新 | 高 | 担当者の通常業務に上乗せされ、締め切りも成果指標もない | 半年で内容が実態と合わなくなり、研修そのものが信用されなくなる |
内製か外注かは、二択ではありません。3つのうち、どれを社内に置き、どれを外に出すかの組み合わせです。全部を内製、全部を外注、という決め方をした会社ほど、途中で作り直しになっています。
2|先に、内製で足りる場合を書きます
当社は生成AI研修を提供している側ですが、お金をかけずに社内で済ませたほうがよい場合は確かにあります。次の4つに当てはまるなら、まず自社で作ってみることをお勧めします。
(1) 対象が10人前後で、全員が同じ部署にいる
人数が少なく、業務も揃っているなら、教材を汎用にする必要がありません。その部署の実際の仕事を題材にした演習を数本つくれば、それで研修として成立します。むしろ外部の汎用教材より、当たりが良いことが多いです。
(2) 目的が「触ったことがない人をゼロから1にする」だけ
初回の導入だけなら、内容は限られます。安全に使えるルール、基本的な指示の書き方、うまくいかないときの直し方。この3つで足ります。指示の書き方はプロンプトの書き方に、そのまま社内で配れる形で整理しています。
(3) 社内にすでに使い込んでいる人がいて、その人に時間を割ける
ここが要点です。「詳しい人がいる」ではなく「その人の時間を確保できる」かどうかで決まります。詳しくても、通常業務が満杯なら教材は仕上がりません。
(4) ルールがまだ固まっていない
社内で入れてよい情報の範囲が決まっていない段階で外部研修を入れると、受講者からの「これは入力していいのか」に誰も答えられません。先にルールを決めるほうが順番として早い。作り方は生成AIの社内ルール(AI利用規程)の作り方にひな形の考え方を置いています。
3|3つのうち、最初に破綻するのは「更新」です
内製した研修が1年後に使われなくなる原因は、教材の出来ではありません。更新されないまま古くなることです。理由は3つあります。
(1) ツールの側が、待ってくれない
主要な生成AIサービスは、機能・画面・利用できるプランの内容が短い周期で変わります。手順を画面のスクリーンショットで説明した教材は、変更のたびに直す必要があります。1枚の差し替えは軽い作業ですが、教材全体では常に何枚かが古い状態になります。契約・プランまわりの整理は研修で使うアカウントと契約に書きました。
(2) 更新には、締め切りも評価もつかない
研修の開催日には締め切りがありますが、教材の更新にはありません。担当者の通常業務が忙しくなれば、まっ先に後回しになります。そして後回しにしたことは、誰にも気づかれません。次の開催日に、古い教材のまま実施されるだけだからです。
(3) 古い教材は、研修そのものへの信用を落とす
受講者が「画面が資料と違う」と気づいた瞬間、その研修の内容全体が疑わしくなります。更新の遅れは、内容の質より速く信頼を削ります。
内製で作るなら、作る工数と同じくらい「誰が、いつ、何を見て更新するか」を先に決めてください。ここが決まっていない内製は、初回だけ成功して、二回目から劣化します。
4|外に頼んだほうが早い4つの場合
(1) 部署をまたいで、受講者の前提がバラバラ
営業・製造・管理部門を同じ研修に入れると、題材を一本に絞れません。全員に合う題材は、結果的に誰にも刺さらない題材になります。部署ごとに演習を差し替える設計は、外部の型を使ったほうが早く組めます。切り方の考え方は企業研修は何から手をつけるかにまとめました。
(2) 管理職に受けさせる必要がある
管理職に必要なのは操作ではなく、部下が出してきた成果物を見る基準です。この設計は社内で作りにくい。評価の基準を社内の誰かが決めると、「その人の好み」に見えてしまうためです。中身は部下が生成AIで作った資料を、上司はどこまで直すべきかに書いています。
(3) 「やった」証跡を残す必要がある
助成金の申請、取引先への説明、監査対応など、研修の実施記録が必要な場合です。記録の様式や保存の要件は制度・目的ごとに定めが異なるため、要件を知っている側に組んでもらうほうが手戻りが少なくなります。
(4) 社内の詳しい人が1人しかいない
その1人に講師・教材・更新の3つを全部載せると、その人の業務が止まります。そして異動や退職で研修も止まります。1人に3つ載せる形は、内製ではなく属人化です。
5|現実的なのは、3つを分けて配ること
当社がご提案することが多いのは、全部を外に出す形ではありません。3要素を分けて置く形です。
| 組み方 | 講師 | 教材 | 更新 | 向いている会社 |
|---|---|---|---|---|
| A. 初回だけ外注 | 外 | 外 | 社内 | 社内に担当を置ける。ただし更新の担当を明示しないと最も崩れやすい |
| B. 教材だけ外から入れる | 社内 | 外 | 外 | 現場を知る講師が社内にいる。当たりが良く、劣化もしにくい |
| C. 講師を社内で育てる | 社内(初回は同席) | 外 | 外 | 継続開催の予定がある。人数が多い、拠点が複数ある |
| D. 全部外注 | 外 | 外 | 外 | 社内に時間を割ける人がいない。ただし社内に何も残らない形になりやすい |
実務で結果が安定しているのはBとCです。理由は単純で、講師が社内の人だと、演習の題材が自社の実際の仕事になるからです。外部講師が用意する架空の題材は、どうしても「研修用の話」に見えます。一方で、更新を外に置いておけば、教材が古くなる問題は起きません。
Aは一見いちばん安く見えますが、更新の担当が決まっていないと3で書いた通りに劣化します。Aを選ぶなら、更新の担当者名と、年に何回見直すかまで先に決めてください。
6|内製の費用は、外注費との差では測れない
内製は「無料」に見えますが、実際には社内の人の時間が乗っています。比較するなら、次の3つを金額に置き換えてから並べてください。
| 費目 | 数え方 | 見落としやすい点 |
|---|---|---|
| 教材をつくる時間 | 担当者の想定時間 × その人の時間単価 | 初版だけでなく、演習の答え合わせ・想定質問の準備も入る |
| 当日の講師の時間 | 準備+実施+質疑の対応時間 | 開催回数ぶん掛かる。拠点が分かれていると回数が増える |
| 更新の時間 | 年間の見直し回数 × 1回あたりの作業時間 | ここを0で見積もる会社が最も多い |
そのうえで、担当者がその時間に本来やっていた仕事も併せて考えてください。教材づくりで一番時間を取られるのは、実は演習の題材集めと、想定される質問への回答準備です。外部の費用相場との比べ方はChatGPT研修の費用相場に、効果の測り方は生成AI研修のROIに書きました。予算そのものが取れない場合の組み直し方は社員教育の予算が取れないときにまとめてあります。
7|内製を選ぶなら、最初に決める5つ
自社で作ると決めた会社に、当社がお伝えしている項目です。この5つが埋まれば、内製は十分に成立します。
- 更新の担当者を、名前で決める。役職ではなく個人名で。兼務で構いませんが、その人の評価項目に入れてください。
- 見直しの頻度を決める。年2回でも構いません。決めた月をカレンダーに入れます。
- 教材から、画面のスクリーンショットを減らす。操作手順ではなく「何を頼むか」を書くと、ツールが変わっても古くなりません。
- 演習の題材を、実際の業務から取る。個人情報と機密は伏せたうえで、自社の資料を使ってください。
- 受講後に持ち帰るものを1つ決める。使える指示文でも、チェックリストでも構いません。持ち帰るものが無い研修は、翌週には残りません。
3番は特に効きます。手順を書くから古くなるのであって、「どう頼むか」で書いた教材は、ツールが変わってもそのまま使えます。定着の設計は社員にChatGPTを定着させると生成AI教育が続く仕組みに書きました。
8|助成金を当てにする場合の注意
「内製でも助成金は使えますか」というご質問をよくいただきます。当社としては、ここは断定せずにお伝えしています。助成の対象となる訓練の形・実施主体・記録の要件は制度およびコースごとに定めが異なり、社内で実施する訓練の扱いも一様ではないためです。
ご検討の際は、実際に利用する制度の実施要領と、所管の窓口での確認を先に行ってください。当社の理解では、内製か外注かで要件の当たり方が変わる部分があります。制度の全体像は人材開発支援助成金とはに、申請の流れと期限の逆算は申請の流れに整理しました。ここで書いた内容は制度の説明であり、受給を確約するものではありません。
外に頼むと決めた場合でも、3つのうち「更新」が自動的に相手に移るわけではありません。教材の改訂を約束してもらうのか、それとも1回きりで受け取るのかは、発注の前に書いておかないと含まれません。あわせて、受け取った教材を社内のどこまで配ってよいか、欠席者はどう受けるかも同じタイミングで決められます。交渉できる3項目と、見積書の備考欄に入れる5行は研修の教材は、終わったあと社内で使い回せるか|再利用・更新・再受講を、発注の前に決めるに整理しました。内製をやめて外注に振る方は、こちらを先にお読みください。
ノセカエの場合
ご相談をいただいたとき、当社が最初に伺うのは受講人数でも予算でもなく、「更新を誰がやりますか」です。ここに名前が挙がる会社には、教材だけをお渡しして講師は社内でやっていただく形(前章のB)をご提案しています。そのほうが結果が出ますし、費用も抑えられます。
名前が挙がらない場合は、更新を含めてお受けします。逆に、対象が少人数・同一部署・初回導入だけという条件が揃っている会社には、「まず社内で作ってみてください」とお伝えして終わりにすることがあります。作ってみて回らなかったときに、どこで止まったかが分かっていれば、そのあとの設計が早いからです。
不利なことも書いておきます。外部研修を入れても、社内のルールが決まっていなければ定着はしません。当日の満足度は高く出ますが、翌月には使われなくなります。ルールが未整備の会社には、研修より先にそちらをお勧めしています。
まとめ
生成AI研修の内製と外注は、二択ではありません。講師・教材・更新の3つに割って、どれを社内に置くかを決める問題です。
対象が少人数で同じ部署にいて、目的が導入だけで、詳しい人の時間を確保できるなら、内製で十分に足ります。当社としても、その条件が揃っている会社に無理に外注をお勧めすることはありません。
一方で、内製が壊れるのはほぼ例外なく更新です。締め切りも評価もつかないため、後回しになったことに誰も気づかない。だから、内製を選ぶなら更新の担当者を名前で決め、見直す月をカレンダーに入れ、教材から画面の手順を減らしてください。この3つをやるかどうかで、1年後に残っているかが決まります。
「まず自社で作れないか」の段階から、ご相談を承ります。
受講対象・目的・社内で時間を割ける人をうかがい、講師・教材・更新の3つをどこに置くのが妥当かを仕分けてお返しします。社内で作ったほうが早いと見立てた場合は、その旨をお伝えして終わりにします。ご利用いただける制度があるかどうかも、あわせて確認します。
助成金が使えるか無料診断 →※本記事は研修の設計と社内運用に関する一般的な整理であり、個別の可否や効果を保証するものではありません。※生成AIツールの機能・画面・プランの内容および提供条件は変更されることがあります。導入・契約の前に、必ず提供元の公式情報で最新の内容をご確認ください。※助成金・補助金の対象範囲、支給の要件、社内で実施する訓練の取り扱いは制度・コースごとに定めが異なり、受給を確約するものではありません。適用の可否は、利用する制度の実施要領および所管の窓口でご確認ください。