生成AI研修の相見積が比べられないのは、何を数えているからか
研修会社3社から見積を取り、机の上に並べたところで手が止まる。よくある場面です。金額はそれぞれ違うのに、どれが高いのか安いのかが判断できません。そして最終的に、いちばん安い1社か、いちばん説明が上手だった1社に決まります。
比べられない原因は、御社の読み方ではありません。各社が数えている単位が、そもそも違うからです。1名あたりで出している会社、1回あたりで出している会社、1日あたりで出している会社、年間の伴走契約として出している会社。並べても比較にならないのは当然です。
当社にとって都合の悪いことから先に書きます。この状態は、受託側にとっては都合がよいのです。比べられない見積は、金額の根拠を問われずに済みます。ですので、この記事では見積を割り直す手順そのものを書きます。当社の見積も、同じ手順で分解できるようになります。
この記事は「複数社の見積を、同じ形に組み直して比べる」手順に絞っています。形態ごとのおおよその費用感はChatGPT研修の費用相場と内容に、中身の見極め方は法人向けAI研修の選び方に、そもそも外に出すかどうかは社内で作るか、外に頼むかに分けて書いています。
1|同じ「30名・半日」でも、見積が別物になる理由
研修の見積が揃わない理由は、金額の前段にあります。4つの単位が混在しているためです。
| 単位 | 見積の書かれ方 | 人数が増えると | 回数が増えると |
|---|---|---|---|
| 1名あたり | 受講者数×単価 | 比例して増える | 比例して増える |
| 1回あたり(定員制) | 1開催いくら・定員○名まで | 定員までは変わらない | 比例して増える |
| 1日あたり(講師派遣) | 講師の稼働日数×日額 | ほぼ変わらない | 比例して増える |
| 年間契約(伴走) | 月額または年額の一式 | 契約人数の枠次第 | 回数は枠の中 |
ここで起きる典型的な逆転があります。受講者が少ないときは1回あたりが割高に見え、多いときは1名あたりが割高になります。同じ会社の見積でも、御社の人数を入れた瞬間に順位が入れ替わります。ですので、比較の第一歩は値引き交渉ではなく、全社の見積を「御社の実際の人数・回数」で計算し直すことです。
そして、この計算をした時点で、たいてい1社は候補から外れます。人数の前提が御社と合っていないためです。
2|研修費は、3つの費目にしか割れません
単位を揃えたら、次は中身を割ります。どれだけ複雑に見える見積でも、研修の原価は講師料・教材費・運営費の3つに収まります。それぞれ、何が動くと増えるのかが違います。
(1)講師料|動くのは「時間」と「事前の作り込み」
当日の登壇時間だけで決まると思われがちですが、実際に金額を動かしているのは事前の作り込みの量です。汎用の教材をそのまま使うのか、御社の業務を題材に演習を組み直すのか。後者は当日の時間が同じでも、講師側の工数が数倍になります。
ですので、見積を見るときは「講師料が高い/安い」ではなく、その金額に事前ヒアリングと演習のカスタマイズが入っているかを聞いてください。入っていない見積が安いのは当たり前です。
(2)教材費|動くのは「作るか」ではなく「あとで使えるか」
教材費でいちばん差が出るのは、当日配るスライドの厚さではありません。終わったあとに、その教材を社内で使い回せるかどうかです。
- 当日限りの閲覧(配布なし・投影のみ)
- 受講者にPDFで配布(社内再配布は不可)
- 社内で自由に使える(欠席者・中途入社者への再配布を含む)
- 編集して自社の教材にできる(改変の可否)
この4段階は、金額に直結します。安く見えた見積が一番上の段階だった、という形はよくあります。3年使う前提なら、教材の権利は費用そのものです。生成AIの研修は特に、モデルや画面が変わると内容が古くなります。改訂が誰の負担かも、あわせて確認してください。
(3)運営費|動くのは「事務局の作業が、どちらに寄っているか」
いちばん見えにくいのがここです。運営費とは、案内メールの配信、出欠管理、当日の受付、アンケートの回収と集計、修了者の名簿作成といった作業のことです。この作業は、消えるのではなく、どちらかがやります。
研修会社の見積に運営費が計上されていなければ、その作業は御社の人事総務がやることになります。見積の金額は下がりますが、社内の工数は増えます。ここを費用として認識しないまま比較すると、「安い見積を選んだのに、担当者が忙しくなった」という結果になります。
3|3社の見積を、同じ形に並べ直す
実際の作業はこうなります。各社の見積を、3費目+前提条件の表に書き写すだけです。金額が1本の合計しか出ていない場合は、内訳を出してもらってください。出せない会社は、その時点で判断材料になります。
| 確認する項目 | A社 | B社 | C社 |
|---|---|---|---|
| 単位(1名/1回/1日/年間) | |||
| 御社の人数・回数で計算した総額 | |||
| 講師料に事前ヒアリングが含まれるか | |||
| 演習は自社業務を題材にできるか | |||
| 教材の権利(4段階のどれか) | |||
| 改訂の負担(誰が・いつまで) | |||
| 運営(出欠・受付・アンケート)はどちらが | |||
| 欠席者・中途入社者の再受講 | |||
| 研修後の質問対応(期間・手段) | |||
| 交通費・会場費・機材が別か込みか |
この10行が埋まると、金額の差が説明できるようになります。差の理由が説明できない見積は、高いのではなく、比べられていないだけです。そして多くの場合、この表を埋める過程で御社の要件そのものが固まります。
4|見積書に載らない、第4の費目
3費目のほかに、どの見積書にも載らない費用があります。受講者と事務局の人件費です。
30名が半日集まれば、その時間は他の仕事をしていません。研修費が仮に外部への支払だけで見えていても、実際に会社が投じているのはその何倍かになります(金額は御社の人件費で計算してください)。これは研修を否定する話ではなく、比較の対象が変わるという話です。外部への支払の差が小さいのであれば、選ぶ基準は金額ではなく、受講者の時間を無駄にしないほうになります。
研修の時間そのものが取れないという相談は非常に多く、研修の時間が取れない会社は、どこを削っているかに別途整理しました。効果の測り方は生成AI研修のROIに書いています。
5|相見積を頼む前に、こちらから揃えておく5項目
比べられない見積が返ってくる原因の半分は、依頼の仕方にあります。次の5つを先に伝えると、各社が同じ土俵で出してきます。
- 受講者数と、その内訳。 全社か選抜か、職種の構成、AIを触ったことがある人の割合。人数だけでなく、レベルの幅を伝えてください。
- 回数と時期。 1回で終わらせるのか、分けるのか。期末や繁忙期を外す必要があるか。
- 実施の形。 集合か、オンラインか、録画か。会場は自社か先方か。
- 使うツールと、アカウントの用意者。 ここが決まっていないと当日に止まります。詳しくは研修の前に決めるアカウントと契約にまとめました。
- 終わったあとに、何が残っていてほしいか。 教材か、社内ルールのひな形か、推進役の人か。ここを書くだけで、見積の中身が変わります。
5番目が最も効きます。「何が残っていてほしいか」を書かない依頼には、当日を無事に終える見積しか返ってきません。研修の切り方そのものを決めかねている場合は、企業研修は何から手をつけるかを先にご覧ください。
6|助成金を使う場合、比較の前提が1つ増えます
研修費の一部について、国の助成金が対象になる場合があります(受給を確約するものではありません。要件・手続は制度ごとに定められており、実施前の計画届など順序の決まりがあります。詳しくは人材開発支援助成金に整理しました)。
比較の観点で1点だけ申し上げると、助成金を使う場合は、研修会社が出す書類の対応可否が費用に効いてきます。カリキュラムの様式、受講記録、修了の証明。これらを出せる会社と出せない会社があり、社内で作るなら事務局の工数になります。見積の金額が同じでも、ここで差が出ます。
もう1つ、金額の比較と同時に見ておくべき欄があります。教材費に何が含まれているかです。同じ教材費でも、当日その場で使うだけなのか、社内に再配布してよいのか、モデルが変わったときに改訂されるのかで、1回の研修が持つ寿命が変わります。ここは金額欄ではなく備考欄に書かれる項目なので、比較表に載らないまま決裁に上がります。決めておくべき条件は研修の教材は、終わったあと社内で使い回せるか|再利用・更新・再受講を、発注の前に決めるにまとめました。
ノセカエの場合と、正直に申し上げること
当社も研修を売っている側なので、フェアになるように書きます。
- 当社の見積も、上の10行の表で分解できます。 内訳を出さない見積の出し方はしていません。求められれば講師料・教材費・運営費に割ってお出しします。
- 教材の権利は、ご要望があれば社内再配布まで含めています。 ただし改変を含む形にする場合は別途ご相談です。当社の演習は御社の業務を題材にするため、改変後の内容まで当社が責任を負えないためです。
- 運営を当社に寄せると、その分は金額に出ます。 出欠管理とアンケート集計を御社でやっていただければ、そのぶん下がります。どちらが得かは、御社の事務局の忙しさ次第です。
- 1回きりの研修なら、当社より安い選択肢があります。 汎用教材の集合研修は、単価では当社より安く出ます。当社が価格で勝てるのは、演習を自社業務に載せ替えたい場合と、教材を社内に残したい場合です。
最後の1行は、営業としては書かないほうがよい内容です。それでも、比べられない見積のまま決めていただくより、比べたうえで他社を選ばれるほうが健全だと考えています。
まとめ
相見積が比べられないのは、御社の読み方の問題ではありません。各社が数えている単位が違うためです。まず全社の見積を、御社の実際の人数と回数で計算し直してください。この時点で順位が変わります。
次に、金額を講師料・教材費・運営費の3費目に割り直します。講師料は事前の作り込みが入っているか、教材費はあとで社内で使えるか、運営費は事務局の作業がどちらに寄っているか。この3点で、金額の差はほぼ説明がつきます。
そして、見積書に載らない第4の費目——受講者と事務局の時間——を思い出してください。外部への支払の差が小さいなら、選ぶ基準は金額ではなく、その時間を無駄にしないほうです。比べられる形に組み直すところまでが、発注側の仕事です。そこまでやれば、あとは中身の話だけが残ります。
お手元の見積を、3費目に割り直してお返しします。
他社の見積でも構いません。単位・教材の権利・運営の分担を整理し、御社の人数で並べ直した表をお渡しします。当社が合わないと判断した場合は、そうお伝えします。
助成金が使えるか無料診断 →※本記事は一般的な整理であり、個別の見積・契約における取扱いを保証するものではありません。費用の構成は研修会社ごとに異なります。助成金については、対象となる場合がありますが受給を確約するものではなく、要件・手続・提出期限は制度ごとに定められています。適用の可否は必ず所管の窓口または社会保険労務士にご確認ください。労働社会保険諸法令に基づく申請書等の作成・提出代行は社会保険労務士の業務であり、当社では行いません。