パソコンを持たない現場社員の生成AI研修|共用端末・会社支給スマホ・事務所の人だけ、3つの組み方

目次
工場・店舗・現場作業などで自分専用のパソコンを持たない社員が多い会社は、生成AI研修をどう組めばよいか。その組み方を考えます。事務所の十数名にはパソコンがあるが、残りの社員が持っているのは会社支給のスマホか共用のタブレット数台、という会社を想定しています。
端末がないからと現場を研修から外すと、時間がたつほど事務所と現場の差が広がります。研修そのものの差より、「AIを使うのは事務の仕事だ」という前提が社内で固まってしまうことのほうが、あとで戻しにくくなります。
以下では、共用端末を交代で使う/会社支給のスマホやタブレットで受ける/事務所の人だけに絞るの3つの組み方を比べ、どの形でも先に決めておくアカウントの持たせ方と、研修後に使う場面の作り方を説明します。なお、私物のスマートフォンで受けてもらう形はおすすめしません。理由は4章で説明します。
1|「端末がない」には3つの状態がある
ひとくちに端末がないと言っても、会社によって状態が違い、それによって選べる形も変わります。
| 状態 | いま社員が使えるもの | 研修で使える選択肢 |
|---|---|---|
| (A) 共用の端末がある | 休憩室や事務所に共用パソコン・タブレットが数台。全員が社内のアカウントを持っている | 3つとも選べる。共用端末を交代で使うのが最も組みやすい |
| (B) 会社支給のスマホだけ | 業務連絡用のスマホが一人1台。パソコンはない | スマホで受ける形か、事務所の人だけに絞るか |
| (C) 端末の割り当てがない | 会社のメールアドレスも持っていない社員がいる | 研修の前に、アカウントを配るかどうかの決定が先に来る |
(C)の会社では、研修の日程を決める前に立ち止まってください。会社のアカウントがない社員に生成AIを使ってもらうには、まずアカウントを配る必要があります。これは研修の話ではなく、情報システム担当と人事が決めることです。何人に配るか、費用がいくらかかるか、退職時にどう止めるかまで決まらないと、研修だけ先に実施しても使う場所がありません。
反対に(A)の会社は、最も動かしやすい状態です。端末もアカウントもあるので、決めるのは「いつ・誰が・どの端末を使うか」だけです。
2|3つの組み方を同じ基準で比べる
比べる軸は費用ではなく、アカウントを一人ひとりに持たせられるか/研修の時間をどう取るか/研修のあとに使う場所があるかの3つです。
| (1) 共用端末を交代で使う | (2) 会社支給のスマホ・タブレット | (3) 事務所の人だけに絞る | |
|---|---|---|---|
| アカウント | 一人1アカウントにできる。端末を共有しても、ログインは個人で分ける | 一人1アカウントにしやすい。端末が個人に紐づいているため管理も楽 | もともと一人1つある |
| 時間の取り方 | シフトを割る必要がある。1回あたりの人数が端末の台数で決まる | 全員同時に受けられる。集合でもオンラインでも組める | 従来どおり |
| 演習でできること | ほぼ制限なし。文章の作成も表の整理も画面が広い | 文章の下書き・要約・音声からのメモ起こしは問題ない。表の整理や長い資料の作成は向かない | 制限なし |
| 研修後に使う場所 | 共用端末の前まで行かないと使えない。作業の合間に使えるかどうかが分かれ目 | その場で使える。最も定着しやすい | 現場には残らない |
| 最大の弱点 | 端末の順番待ち。台数が足りないと研修期間が長くなる | 会社支給のスマホがない会社では、そもそも選べない | 事務所と現場の差が開き、半年〜1年で表に出やすい |
(3)は避けるべき案ではなく、選択肢の1つとして検討してよいと考えています。全社に広げる余力がない時期に、無理に全員へ広げて薄い研修になるくらいなら、まず事務所で型を作るほうが結果として早いことがあります。対象を広さで決めるか順番で決めるかは生成AI研修を全員受講にするか選抜にするかの決め方で扱っています。
ただし(3)を選ぶなら、次にどこへ広げるかと、その時期を同時に決めてください。「今回は事務所だけ」で終わらせると、次の機会は自然には来ません。
3|どの形でも先に決めるのはアカウントの持たせ方
端末の話より先に決めておきたいのがここです。共用端末でよく起きるのが、1つのアカウントを全員で使い回す形です。手続きが不要なので、現場では自然にそうなりがちです。
これは避けてください。理由は3つあります。
- 誰が何を入れたか分からなくなる:あとから「社外に出せない情報が入っていた」と分かっても、辿れません。
- やり取りの履歴が混ざる:前の人の会話が残っている画面で次の人が使うことになり、内容によっては見せたくないものが見えます。
- 研修の効果が測れない:誰がどれだけ使っているかが分からないため、次の打ち手が決まりません。
共用の端末を使うこと自体は問題ありません。端末は共有してよい、アカウントは分ける。この線だけ引いておけば、上の3つは起きません。共用端末にログインしたまま離席しない、というルールも一緒に決めておきます。
そのうえで、「何を入力してよく、何を入力してはいけないか」は、研修の中身ではなく会社のルールとして先に決めてください。入力してはいけない情報の決め方と、ひな形を自社向けに直す方法はAI利用規程の作り方で扱っています。端末を持たない社員が多い会社ほど口頭で伝わる範囲が広いので、紙1枚にまとめて掲示するところまでやっておくと確実です。
4|私物のスマートフォンで受けてもらう形をおすすめしない理由
「全員が自分のスマホを持っているのだから、それで受けてもらえばよいのでは」というご相談をいただくことがあります。手段としては成立しますが、当社はおすすめしていません。
| 論点 | 私物端末で起きること |
|---|---|
| 情報の置き場所 | 業務で扱った内容が、会社の管理外の端末とアカウントに残る。退職時に消せない |
| 通信費・端末の負担 | 誰が負担するかを決めていないと、実質的に社員の持ち出しになる |
| 受けたくない人への扱い | 私物を出したくない社員が出てくる。その人だけ受けられない形になると、対象者の決め方自体が崩れる |
| 時間の扱い | 自分の端末で受けられるため、就業時間外に流れやすい。時間の扱いを決めずに始めると、あとで論点になる |
研修1回だけなら私物端末でも実施できてしまいますが、研修は使い始めるための入口なので、受けたあとも同じ端末を使うことになります。その前提で考えると、最初から会社の端末で組んでおいたほうが、あとで整理し直す手間がかかりません。
私物端末の業務利用そのものを検討する場合は、研修の設計とは別に、社内ルールの側で扱ってください。研修を就業時間内に行うか時間外に行うかで何が変わるかは研修時間は労働時間にあたるかにまとめています。
5|共用端末で組むときの割り方
ご相談の多い(A)の会社について、具体的な組み方を説明します。
1回の人数は端末の台数で決まる
演習で全員が手を動かす形にするなら、1回の受講人数は端末の台数までです。2人で1台を見る形にすると、片方は見ているだけになり、翌日には手が動きません。台数が5台なら5人ずつ、何回かに分けて実施します。
人数を増やすと最初に削られるのは実習の時間です。その関係は研修の人数を1回何人までにするかで扱っています。端末が制約になっている会社では、この上限が台数によって決まると考えてください。
回数を分けるなら間隔を空けすぎない
5人ずつ4回に分ける場合、4回目が2か月後になると、1回目に受けた人は内容を忘れてしまいます。同じ内容を分けて実施するなら、2〜3週間の中に収めるほうが、全体として使われ始めます。
受講形式も選べる
共用端末が事務所にしかない、拠点が離れている、という場合は、集合・オンライン同時・録画のどれで受けてもらうかが別の論点になります。受講形式ごとの違いは集合・オンライン同時・録画の比較で扱っています。端末が共用の場合、録画を一人で見る形は機能しにくくなります。端末の前に座る理由が作れないためです。
当日の動作確認は前の週までに
共用端末は普段そのアカウントで使われていないことが多く、当日になって「ログインできない」「社内の制限でサイトが開かない」といったことが起きがちです。前の週までに確かめる手順は生成AI研修の当日に向けた事前準備にまとめています。共用端末で組む会社は、この確認を必ず実機で1台ずつ行ってください。1台だけ設定が違う、ということがあります。
6|研修のあとにAIを使う場面を1つ決めておく
端末を持たない社員の研修で起きやすい失敗がここです。研修は無事に終わったのに、戻った先の業務に、AIを使う場面が用意されていない。
事務所の社員なら、目の前のパソコンで文章を書く仕事があるので、翌日から使い道があります。端末が共用の社員にはそれがなく、「使ってみてください」と言われても、わざわざ休憩室の端末まで行く理由がありません。
そこで、研修を組むときに使う場面を1つだけ決めて、そこに結びつけるのが現実的です。業務全体を変えようとせず、1つで構いません。
- 日報や作業記録の下書きを、口頭で吹き込んで整える
- お客様への定型の連絡文を、下書きまで作る
- 手順の分からない作業について、社内の手順書を探す前の当たりを付ける
- 報告の要点を、箇条書きに整える
どれを選ぶかは会社によりますが、条件は「いま紙かホワイトボードでやっていて、文字にするのに時間がかかっているもの」です。すでにパソコンで完結している作業を選ぶと、端末のある人の仕事になってしまいます。
研修の中身が「ツールの紹介」で終わっていると、業務への結びつけは起きません。実務につなげる研修の組み立ては生成AI研修とは何をする研修かで説明しています。
7|費用と助成金
端末がない会社では、研修費だけでなく端末やアカウントの費用も同時に検討することになり、助成金が使えるかを先に確認したいというご相談もあります。
研修の費用は、要件を満たす場合に国や自治体の助成の対象になる可能性があります。ただし、対象になるかどうかは、研修の内容・時間数・受講者の雇用形態・実施の形(集合かオンラインか)・申請の時期など、複数の要件で決まります。支給の可否は審査によって決まり、保証されるものではありません。
受講者に派遣・業務委託・パートの方が含まれる場合は、費用の持ち方と助成の対象で扱いが分かれます。研修の対象者に派遣・パート・業務委託の人を入れる場合の確認点を参考に、受講者リストを作る段階で確認してください。
なお、端末やアカウントの費用は、研修の助成とは別の枠組みの話です。研修の助成金で端末代が出るという前提で計画を組まないでください。
8|ノセカエでのご提案の範囲
- 受講者に「端末がない社員」が含まれる場合は、研修の日程より先に、共用端末の台数とアカウントの状況をうかがいます。ここが決まらないと、1回あたりの人数も回数も決められないためです。
- 共用端末で組む場合、1回の人数は台数までとしてご提案します。1回で終わらせたいというご要望があれば、そのために削られるもの(実習の時間)を先にお伝えします。
- 私物のスマートフォンで受けてもらう形は、当社からはご提案しません。会社のご判断でそうされる場合も、情報の扱いと費用の負担を先に決めていただくようお願いしています。
- アカウントの発行、端末の調達、社内ネットワークの設定は当社では行いません。研修の前に確認が必要な項目を一覧でお渡しするところまでが当社の範囲です。
- 端末もアカウントもなく、配る計画も立っていない段階では、研修を先に実施することをおすすめしないこともあります。受けたあとに使う場所がないと、定着しにくいためです。
まとめ
パソコンを持たない現場社員の研修は、共用端末・会社支給のスマホ・事務所の人だけの3つから、アカウント・時間・研修後に使う場所の3点で選びます。どの形でも端末は共有してよい、アカウントは分けるを先に決め、研修のあとに使う場面を1つだけ決めておいてください。事務所の人だけで先に始める場合は、次にどこへ広げるかと時期も同時に決めておきます。
注意事項
3つの組み方の比較、共用端末での人数・回数の目安、研修後に結びつける業務の選び方は、当社の研修提供とご相談の経験に基づく整理で、統計調査に基づくものではありません。私物端末の業務利用、研修時間の労働時間該当性と賃金、通信費・端末費用の負担については、社会保険労務士等の専門家にご確認ください。助成金は審査によって支給の可否が決まり、当社は支給を約束するものではありません。助成金の申請書類の作成・提出代行は社会保険労務士の業務であり、当社では行いません。
端末の台数と受講者の人数から、何回に分けるかを一緒に決めます。
共用端末の台数・会社アカウントの有無・シフトの組み方をうかがい、1回あたりの人数と回数、研修のあとに落とす業務の候補まで一緒に決めます。助成金の対象となるかは、提携社労士が無料で診断します。
自社向けの研修内容を相談する →お電話でのご相談:03-6820-2744(平日10:00〜18:00)
