研修を受けている時間は、労働時間にあたるのか|賃金・割増・助成金の扱い

目次
社員が研修を受けている時間は、労働時間にあたるのか。就業時間内に行うか時間外に行うかで、賃金と助成金の扱いはどう変わるのか。研修の日程を組む人事・総務の方に向けて、厚生労働省の公表資料に沿って整理します。
研修の検討は、中身や金額より日程で止まることがよくあります。日程が決まらない理由をたどると、参加を業務として扱うのかどうかが決まっていないことが多いのです。そのまま「業務が止まると困るので、終業後に1時間ずつでどうか」「任意参加にすれば残業扱いにしなくてよいのでは」という相談になります。
要点を先に書くと、研修を所定労働時間の外に移す組み方は、会社にとって安い選択とは限りません。割増賃金の対象になり得るうえ、人材開発支援助成金を使う前提なら、所定労働時間外に実施した訓練の時間は賃金助成の対象から外れます。以下、公表資料に何と書かれているかを並べ、日程を決める前に自社で確認する順番を示します。個別の判断は、管轄の労働基準監督署または社会保険労務士にご確認ください。
1|判断の起点は、厚生労働省ガイドラインの一文
厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(2017年1月20日策定)は、労働時間の考え方を次のように示しています。
労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいい、使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間に当たる。そのため、次のアからウのような時間は、労働時間として扱わなければならないこと。(中略)
ウ 参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間
(厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」より引用。アは業務の準備・後始末、イはいわゆる手待時間)
研修に関係するのは(ウ)です。読むべき言葉は「業務上義務づけられている」かどうか。研修の中身や場所、時間帯ではなく、参加が義務かどうかが書かれています。
同じガイドラインは、労働時間にあたるかどうかは就業規則などの定めにかかわらず、客観的に見て使用者の指揮命令下に置かれていたと評価できるかどうかで決まるとしています。また、自己申告で労働時間を把握する場合について、「自主的な研修、教育訓練、学習等であるため労働時間ではない」と報告されていても、実際には使用者の指揮命令下に置かれていたと認められる時間は労働時間として扱わなければならない旨を記載しています。案内文に「任意参加」と書いたかどうかではなく、実態で見られるということです。
2|「任意参加」と書いても、実態では義務に見える運用
ここからは当社の考え方の整理で、法的な判定ではありません。日程を決める前の自己点検に使ってください。見るのは案内文ではなく、運用のほうです。
| 運用の形 | 実態としてどう見えるか |
|---|---|
| 受講者を会社が名指しで決めている | 選ばれた側に断る余地が実質的にあるかが問われます |
| 欠席者に別日程を用意して、全員受講まで追いかける | 「受けなくてよい」運用になっていません |
| 受講の有無を人事評価・昇格・配置の要件に結びつけている | 不参加に不利益が伴う形です |
| 受講状況を上司に報告させ、未受講者に督促する | 督促がある時点で、任意とは言いにくくなります |
| 所定労働時間中に、通常業務を止めて受けさせる | そもそも指揮命令下にあります |
| 案内を全社に出し、申し込まなくても何も起こらない | ここまで徹底できていれば、任意に近い運用です |
上の5つに当てはまるなら、「任意参加」という表記だけで労働時間から外れると考えるのは危険です。逆に、最後の行のような運用を本当に貫けるかも考えてください。案内だけ出して督促しない研修は、受講率が上がりにくくなります。全員に受けさせたいのか、受けたい人だけでよいのかは生成AI研修は全員に受けさせるか、選抜にするかで扱いました。「全員に受けさせたい、ただし任意参加、だから時間外」という組み合わせには無理が生じやすい、というのが当社の見方です。
3|時間帯を変えると、会社が払うものがどう変わるか
参加を義務とし、労働時間として扱うと決めたら、次は時間帯です。労働基準法は、法定労働時間を1日8時間・1週40時間とし(第32条)、時間外労働・休日労働・深夜労働に割増賃金の支払いを求めています(第37条)。割増率は、同条と政令(労働基準法第三十七条第一項の時間外及び休日の割増賃金に係る率の最低限度を定める政令)により次のとおりです。
| 実施する時間帯 | 割増率 | 備考 |
|---|---|---|
| 所定労働時間内 | 割増なし(通常の賃金) | その時間、通常業務は止まります |
| 法定労働時間を超える時間外労働 | 2割5分以上 | 1か月60時間を超える部分は5割以上(中小企業にも2023年4月1日から適用) |
| 法定休日の労働 | 3割5分以上 | 月60時間の算定に、法定休日の労働時間は含めません |
| 深夜(22時〜翌5時) | 2割5分以上 | 時間外・休日の割増と重なります |
見落とされやすいのが、「所定労働時間外」と「法定労働時間外」は同じではないことです。所定労働時間が7時間の会社で、終業後に1時間の研修を置いた場合、その1時間は所定労働時間の外ですが、1日8時間の枠には収まります。この場合、賃金の支払いは必要でも、法律上の割増の対象にはなりません(会社の規程で所定外にも割増を定めているなら、その規程に従います)。
一方、所定労働時間が8時間の会社で同じことをすると、その1時間は法定時間外です。同じ「終業後1時間の研修」でも、会社によってコストが変わります。また、時間外労働をさせるには36協定の締結と届出が前提になり、研修も例外ではありません。
業務が止まらない代わりに賃金が上がる、というのが時間外に移す組み方です。業務が止まる問題そのものの解き方は研修の時間が取れない会社は、どこを削っているかに書きました。
4|助成金を使うなら、逆方向の制約がかかる
人材開発支援助成金を使う前提で研修を組む場合、「任意参加にする」「時間外に置く」「年次有給休暇で受けさせる」という3つの逃げ道は、いずれも制度と噛み合いません。厚生労働省「令和8年度版 人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)のご案内(詳細版)」(令和8年8月3日版)の記載を引きます。
(1) 任意参加にすると、助成の対象外になり得る
助成の対象とならない訓練として、「業務上の義務として実施されるものではなく、労働者が自発的に行うもの(育児休業中訓練を除く。)」が挙げられています。
(同案内「助成の対象とならない訓練」の表より引用)
労働時間から外すために任意参加にする設計は、そのまま助成対象外の定義に重なります。「任意にして時間外、でも助成金は使いたい」は成り立ちにくいということです。ただし、労働者の自発的な受講を支援する別の枠組みがあるコースもあり、どの制度に乗せるかで話は変わります。コースごとの違いは人材開発支援助成金とはと人への投資促進コースで整理しています。
(2) 所定労働時間外に実施した分は、賃金助成から外れる
「また、実訓練時間数の算定に含まれるか否かにかかわらず、所定労働時間外に実施した訓練の時間数は賃金助成の対象から除外されます。」
「所定労働時間外・所定休日(予め別日に所定休日を振り替えた場合は除く)に実施した訓練は賃金助成の対象外です。」
(同案内より引用)
同じ案内は、支給対象となる事業主の要件として、訓練を所定労働時間外や休日に行った場合は、時間外手当や休日手当などの割増賃金を含む賃金を適正に支払う必要があるとも記載しています。つまり、時間外に置いた分は、会社が割増を含む賃金を負担したうえで、その部分の賃金助成は受けられないという形になります。経費助成の扱いは訓練の種類によって異なるため、実際の見込みは管轄の労働局にご確認ください。
(3) 年次有給休暇を使って受けさせる形も外れる
訓練の実施にあたって適切な方法でないものの例として、「労働基準法第39条の規定による年次有給休暇を与えて受講させる訓練」が挙げられています。
(同案内「助成の対象とならない訓練」の表より引用)
「有給休暇を取って受けてもらえば業務は止まらない」という組み方は、少なくともこの制度では通りません。
(4) eラーニングでも、賃金の支払いが必要
「eラーニングによる訓練等及び通信制による訓練等を実施する場合であっても、支給対象訓練は業務上義務付けられ、労働時間に該当するものとなるため、当該訓練中に賃金を支払うことが必要となります(育児休業中訓練の場合を除きます。)。」
(同案内「賃金を適正に支払う事業主」について より引用)
「eラーニングは自分のペースで見るものだから業務ではない」という整理は、この制度では取られていません。受講期限を切って進捗を追いかけるなら、それは会社が命じた学習です。なお、このコースでは令和8年8月3日以降に提出する計画届から、同じ労働者が助成を受けられる受講回数が1年度3回まで、そのうちeラーニングによる訓練は1回までとされています(経過措置あり)。録画やeラーニングを配る形の研修ほど、時間の扱いと回数の両方を先に確認してください。
助成金の要件が研修の設計そのものをどこまで縛るかは助成金を使うと、研修の中身はどこまで決められてしまうかに、要件を外して不支給になる典型は人材開発支援助成金が不支給になるのは、どこで躓いたときかにまとめています。
5|選べる組み方は、実質3つ
ここまでを日程の形に落とすと、実質的な選択肢は3つです。
| 組み方 | 賃金 | 助成金 | 向く会社 |
|---|---|---|---|
| A. 所定労働時間内・参加は業務 | 通常の賃金。割増は発生しない | 要件に最も乗りやすい | 研修を投資として扱い、その時間の業務を止める判断ができる会社 |
| B. 所定労働時間外・参加は業務 | 賃金の支払いが必要。法定時間外なら割増も。36協定が前提 | 所定労働時間外の分は賃金助成の対象外 | シフト制などで全員を日中に集められない会社。費用は最も重くなる |
| C. 完全に任意・時間外 | 実態が伴えば労働時間として扱わない整理もあり得るが、督促や評価との連動があると成り立たない | 「自発的に行うもの」として対象外になり得る | 受けたい人だけが受ければよい、と会社が本当に割り切れる場合 |
当社が最初におすすめするのはAです。Bは費用が上がり、Cは受講率が下がりやすいためです。「業務が止まるから無理」という声はもっともですが、それは時間帯よりも日程の組み方で解ける場合があります。半日を4回に分ける、部署ごとに週をずらす、といった打ち手が先に来ます。研修全体の設計の考え方は生成AI研修とはで整理しています。
費用の重さで悩んでいる場合は、予算の組み直しを社員教育の予算が取れないときで、研修後に社員が辞めた場合の費用の扱いを研修を受けた社員が辞めたら、その費用はどうなるかで扱っています。
この記事は、自社が雇用している社員を前提にしています。受講者に派遣社員や業務委託の人が入る場合は、受講時間の扱いを決める相手が変わります(派遣社員なら派遣元、業務委託なら契約内容)。その整理は研修を受けさせる相手に、派遣・業務委託・パートを入れてよいかに、入社前の内定者の場合は内定者研修で生成AIを触らせてよいかに書きました。
6|日程を出す前に、社内で書き留める5行
研修会社に日程の希望を伝える前に、次の5行を決めてください。ここが決まっていないまま見積を取ると、条件が変わるたびに金額が動きます。
- 参加は業務命令か、任意か。どちらかに寄せます。「原則全員だが任意」は運用しにくい形です。
- 実施は所定労働時間内か、外か。外にする場合、自社の所定労働時間が7時間なのか8時間なのかを確認してください。同じ1時間でも扱いが変わります。
- 受講時間をどう記録するか。出勤簿・タイムカード・受講ログのどれで残すかを決めます。助成金を使う場合、記録は支給申請の実務そのものです。
- 欠席者をどう扱うか。追いかけるなら任意ではありません。追いかけないなら、受講率が下がることを受け入れます。
- 有給休暇で受けさせない。助成金を使うかどうかにかかわらず、研修を休暇の消化で処理する形は避けたほうが安全です。
参加を業務として扱うかどうかは、研修会社が決められる事項ではありません。ここが決まっていれば、研修会社との会話は日程と中身に集中できます。
受講者に育児休業や休職で休んでいる社員が含まれる場合は、この5行を早めに固めてください。休業中の就業の扱いと給付との関係が重なるため、参加の扱いを決めないまま案内を出すと、あとから整理し直すことになります。案内を届けるかどうかの分け方は育休・休職中の社員に、生成AI研修を受けてもらうかに書きました。制度上の可否は社会保険労務士にご確認ください。
ノセカエでの日程の組み方
- 時間外・休日に組めるかは、お見積もりの段階でご相談ください。まず所定労働時間内で組めないかを検討することをおすすめします。夜や土曜のほうが日程は取りやすくても、貴社の費用は上がるためです。
- 「任意参加にして時間外」という形では、受講率を保てるかを先に確かめることをおすすめします。督促しない運用にできないなら、実態は義務に近くなります。
- 助成金ありきで日程を歪めることは、おすすめしません。制度に乗せるために受講者を絞ったり、時間帯を無理に動かしたりすると、研修の効果が落ちることがあります。制度に寄せない組み方も、30分の無料相談でご相談いただけます。助成金の対象になり得るかは、提携社労士が無料で診断します。
まとめ
研修の時間が労働時間にあたるかを分けるのは、参加が業務上義務づけられているかどうかで、案内文ではなく運用の実態で見られます。時間外に移せば割増を含む賃金が必要になり、助成金を使うなら、任意参加・所定労働時間外・有給休暇での受講はいずれも要件と噛み合いません。日程を出す前に、この研修は業務なのかどうかを決めてください。
参考資料・注意事項
- 厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(2017年1月20日策定)
- 労働基準法(e-Gov法令検索):第32条(労働時間)、第37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)、第39条(年次有給休暇)
- 労働基準法第三十七条第一項の時間外及び休日の割増賃金に係る率の最低限度を定める政令(e-Gov法令検索)
- 厚生労働省「中小企業の事業主の皆さまへ 月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます」
- 厚生労働省「令和8年度版 人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)のご案内(詳細版)」(令和8年8月3日版)
- 厚生労働省「令和8年8月3日からの変更点について 人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)改正」
最終確認:2026年9月24日。本記事は公表資料に基づく一般的な整理であり、個別の事案における労働時間該当性や助成金の支給の可否を判断するものではありません。助成金は審査により支給の可否が決まり、受給を保証するものではありません。要件はコースごとに異なり、年度の途中で変更されることがあります。申請書類の作成・提出代行は社会保険労務士の業務であり、当社では行いません。
参加の扱いと時間帯を決めるところから、一緒に整理します。
所定労働時間・シフトの形・全員受講か選抜か・助成金を使うかどうかをうかがい、所定労働時間内で組む案と時間外で組む案を、30分の無料相談で比べます。労務上の判断が必要な部分は、社会保険労務士にご確認いただくようお伝えします。
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