研修の時間が取れない会社は、どこを削っているか|半日×4回と2日連続で、終わったあとに残るものが違う
研修の相談で、いちばん多く止まる場所は予算ではありません。日程です。「やる方向で決まっているのですが、全員を集められる日が無くて」。この形のご相談を、毎月いただきます。
このとき多くの会社が取るのが、同じ時間数を細かく分割するという解き方です。2日連続が無理なら1日×2回に、それも無理なら半日×4回に、さらに無理なら90分×8回に。合計時間は同じなのだから、分けても同じはずだ、という考え方です。
ここで先に、当社にとって都合の悪いことを書きます。合計時間が同じでも、形が違えば終わったあとに残るものは同じになりません。 分割することで守れるものと、分割すると届かなくなるものがあります。「分けても大丈夫です」と言うほうが受注は取りやすいのですが、それは実務と違います。
この記事は、カリキュラムの中身の話ではありません。時間の形そのものが、定着・欠席・現場の止まり方に何をするかを書きます。読んだあとに「うちは分割でいい」「うちは連続でないと意味がない」のどちらかが決まる状態を目指しています。
この記事は「全社としてどの形を選ぶか」の話です。対象者ごとの向き不向き(中堅層に1日集合が合わない理由など)は中堅社員研修の時間の切り方に、そもそも誰から手をつけるかは企業研修は何から手をつけるかに分けて書いています。
1|先に結論|分割で守れるのは出席、失うのは「深さ」
結論から書きます。研修の時間を細かく割ると、次のことが起きます。
- 守れるもの: 出席率、現場の稼働、日程調整の成立、間に実務で試す機会
- 失うもの: 長い演習ができること、途中で行き詰まってから抜けるまでの時間、参加者どうしが本音を出すまでの助走
3つ目が、いちばん軽視されます。研修で本当に効くやり取りは、たいてい後半に出てきます。「実はうちの部署ではこうしています」「その方法だと、うちでは通りません」。この種の発言が出るまでに、集まってから2〜3時間はかかります。90分の回を8回やると、この助走を8回繰り返すことになり、毎回そこで終わります。
ですから、分割そのものが悪いのではなく、分割に向く内容と向かない内容があるというのが正確なところです。
2|同じ12時間でも、形が違うと残るものが違う
合計12時間を4つの形に割った場合を並べます。数字は当社が研修の設計・実施で置いている整理で、業界の統一基準ではありません。
| 形 | 現場の止まり方 | 欠席が出たとき | できる演習の長さ | 間に試せるか |
|---|---|---|---|---|
| 2日連続 | 2日間まるごと止まる。代替要員が要る | 1人欠けると、その人は入り直せない | 長い(半日かけて1つを作り切れる) | できない |
| 1日×2回 | 1日ずつ2回止まる | 1回落ちると内容の半分が抜ける | 中〜長 | 1回だけ挟める |
| 半日×4回 | 午前または午後だけ。当日中に現場へ戻れる | 1回落ちても次で戻れる設計にできる | 中(1回に演習1つ) | 3回挟める |
| 90分×8回 | ほぼ止まらない。既存の会議枠に乗る | 影響が小さい | 短い(詰め込むと座学に戻る) | 7回挟める |
この表で見ていただきたいのは、右の2列と左の2列がきれいに逆を向いていることです。現場を止めない形ほど、演習は短くなる。演習が短くなると、研修中に「できた」という経験を作りにくくなる。そのぶんを、間の実務で試す時間が埋めます。埋まるかどうかは、宿題を出したあとの運用次第です。
逆に2日連続は、現場を2日止める代わりに、研修の中だけで完結させられるという強みがあります。間の実務に期待しなくてよいので、参加者の忙しさに結果が左右されにくい。忙しい会社ほど、実はここが効きます。
3|分割すると、具体的に何が落ちるか
落ちるもの1|長い演習が組めない
90分の回で、説明・演習・質疑を全部やろうとすると、説明だけで終わります。実務でよくあるのは、演習を「持ち帰り」にして次回の冒頭で共有する形です。これは有効ですが、持ち帰った人が手をつけなければ、そこで止まるという前提がつきます。研修中にやってしまえば、少なくとも全員が1回は手を動かします。
生成AIの研修では、この差がとくにはっきり出ます。プロンプトは、書いて・失敗して・直す、を数回まわしてはじめて感覚がつかめます。1往復で終わると「なんとなく分かった」で止まります。書き方そのものはプロンプトの書き方に整理していますが、読むのと、詰まった状態から直すのとは別の経験です。
落ちるもの2|「言いにくいこと」が出るまで到達しない
研修の価値の一部は、参加者どうしの会話にあります。「その進め方はうちの部署では通らない」といった発言が出て、そこから現実的な形が決まる。これが出るのは、たいてい半日を過ぎたあたりからです。
90分×8回でこれを起こすには、回をまたいで関係が積み上がる設計が要ります。毎回グループを組み替えると積み上がりません。分割するなら、グループは固定してください。 これは費用のかからない工夫で、効果の差は小さくありません。
落ちるもの3|間隔が空くと、前回が飛ぶ
分割の弱点は、回と回のあいだで内容が抜けることです。実務でうまくいっているのは、2週間前後の間隔です。1週間だと間の実務で試す機会が来ないまま次回になり、1か月空くと前回の振り返りに時間を取られて実質の時間が減ります。
あわせて、月末月初と決算期を外すのは最初に確認してください。この時期は、経理や営業事務に近い人ほど物理的に抜けられません。
4|自社はどちらか|4つの質問
形を決めるとき、当社が最初に伺うのは次の4つです。カリキュラムの話より先に、ここで形が決まります。
- 研修の目的は「できるようにする」か、「方針を揃える」か。 できるようにするなら演習の長さが要ります(連続寄り)。方針を揃えるだけなら短く分けて構いません(分割寄り)。
- 受講者は、間の2週間で宿題に手をつけられるか。 つけられない忙しさなら、分割しても回りません。この場合は短時間の連続で押し切るほうが確実です。
- 受講者は同じ部署か、部署をまたぐか。 またぐ場合、半日を全員で揃えるのは実は難易度が高く、90分の定例枠のほうが揃います。
- 現場を止められる日は、年に何日あるか。 ゼロなら、形の議論の前に「その日、誰がその業務を持つか」を決める話になります。
4つ目に引っかかる会社が、実際にはいちばん多いです。この場合、研修より先に業務の持ち方を決めるほうが早いことがあります。そこまで含めてお伝えします。管理職が数名しかいない会社での組み方は中小企業の管理職研修に、入社時期がばらつく場合の組み方はオンボーディング研修に書きました。
5|時間を作る側の工夫|削らずに空ける
形を選ぶ前に、そもそも時間を空ける工夫でどこまで行けるかも書いておきます。研修の時間が取れない会社で、実際に効いたのは次のような方法です。
- 既存の定例会議の枠を転用する。 新しく枠を作らないので、日程調整がほぼ不要になります。90分×複数回を選ぶ場合の実務上の要点はここです。
- 受講者を2班に割り、同じ内容を2回実施する。 現場に必ず半分が残るため、業務が止まりません。講師側の回数は増えますが、欠席の穴埋めもここで吸収できます。
- 繁忙の谷を先に押さえる。 年間の繁忙を月別に書き出すと、たいてい2〜3か月は谷があります。年度が始まってから探すと見つかりません。
- 録画を「欠席者の埋め合わせ」に限定して使う。 全員が録画で済ませられる形にすると、演習が消えます。埋め合わせに限るのが実務的です。
ここで「いっそ終業後に置けば業務が止まらない」と考えたくなりますが、その前に参加を業務として扱うかどうかを決めてください。厚生労働省のガイドラインは、参加することが業務上義務づけられている研修の受講時間を労働時間として扱うと書いています。時間帯を動かすと、割増賃金と助成金の両方が動きます。詳しくは研修を受けている時間は、労働時間にあたるのか|就業時間内にやるか、時間外にやるかで変わることに整理しました。
これらを尽くしても1日空かない場合は、無理に集合研修の形にしないほうがよいこともあります。定着の設計を先に置いて、研修を短くする考え方は生成AIの社内教育に整理しています。
6|生成AI研修の場合、形の選び方はさらに効く
当社が扱っている生成AIの研修に限って言うと、「短く分けて、間に必ず自分の業務で試す」形が合うことが多いのは事実です。ツールは触らないと身につかず、触る機会は研修室より現場のほうが多いからです。
ただし、次の2つは分割に向きません。
- 社内ルールを決める回。 何を入力してよいか、どこまで生成物を使ってよいか。これは全員が同じ場にいて、その場で決め切る必要があります。持ち帰ると決まりません。ルールの作り方はAI利用規程のつくり方に書きました。
- 管理職が生成物を見る目を作る回。 部下が持ってきた成果物をどう見るかは、実物を並べて議論する時間が要ります。短時間では判断の基準まで届きません(管理職による生成AI成果物のレビュー)。
逆に、操作の習得と、自分の業務への当てはめは分割で問題ありません。実際の当社の設計では、この2種類を意図的に混ぜて、決める回だけを連続で押さえる形を取ることが多いです。
7|費用と助成金の見方
形を変えると、費用の出方も変わります。回数が増えれば講師の稼働は増えますが、1回あたりは短くなります。総額がどう動くかは設計によるため、見積りを取るときは「回数を変えた場合の金額」を並べて出してもらうことをおすすめします。相見積が横に並ばない理由はChatGPT研修の費用相場に書いています。
助成金については、研修の時間数や実施形態が要件に関わる制度があり、分割の仕方によって対象になる場合とならない場合があります。使う可能性があるなら、日程を確定する前に確認してください。順序を逆にすると、決めた日程を組み直すことになります。制度の全体像は人材開発支援助成金に、申請の流れは申請の流れにまとめました。要件は制度改正で変わりますので、最終的な可否は管轄の労働局または社会保険労務士にご確認ください。
予算そのものが立っていない場合は、社員教育の予算に、金額の作り方と社内の通し方を書いています。
なお、ここまでは「同じ時間数をどう割るか」という話でしたが、日程がどうしても押さえられない場合は、割り方ではなく配り方を変えるという手があります。集めるのをやめて、オンラインで同じ時間につなぐか、録画を配って各自の都合で見てもらうか。この2つは同じ「オンライン」と呼ばれますが、完走する人の数も、助成金の扱いも別物です。詳しくはAI研修は集合・オンライン同時・録画のどれで受けさせるかで、完走率・その場で質問が出るか・助成金の要件の3軸で比べています。
ノセカエの場合と、正直に申し上げること
当社では、日程を伺うところから設計を始めます。そのうえで3つお伝えします。
- 「1日ぶんを縮めて半日にする」ことはしていません。 内容が薄まるだけで、時間だけが短くなるからです。短くするなら、扱う範囲を減らして密度を保ちます。
- 間の実務で試せない忙しさの会社には、分割をおすすめしません。 その場合は、短時間でも連続で押さえていただく形をご提案します。分割は魔法ではありません。
- 研修より先に業務の持ち方を決めるべき、という結論になることがあります。 その場合はそう申し上げます。実際、日程が1日も空かない会社では、研修を入れても定着しません。
まとめ
研修の時間が取れないとき、同じ時間数を細かく分割すれば解決する、とは限りません。分割で守れるのは出席と現場の稼働、失うのは長い演習と、本音が出るまでの助走です。
判断の順番は、①目的が「できるようにする」か「方針を揃える」か ②間の2週間で宿題に手をつけられるか ③受講者が同じ部署か ④現場を止められる日が年に何日あるか、の4つです。ここが決まれば、2日連続・1日×2回・半日×4回・90分×8回のどれを選ぶかは自動的に決まります。
分割する場合は、間隔を2週間前後に置き、グループを固定し、月末月初と決算期を外してください。この3点だけで、分割の弱点はかなり埋まります。
助成金が使えるか無料診断では、受講予定者が何分空けられるかを伺ったうえで、回数・間隔・各回に残す成果物までを含めた形をお出ししています。助成金の活用を前提にする場合は、日程を確定する前にご相談ください。
「1日空かない」を前提に、形から組み直します。
受講者が何分空けられるかを伺って、回数・間隔・各回の成果物まで含めた設計をお出しします。助成金の対象になり得るかも、日程を決める前に確認します。
助成金が使えるか無料診断 →※本記事は、当社が研修の設計・実施を通じて整理した一般的な考え方であり、特定の研修事業者のカリキュラムや、個別の会社での効果について結果を確約するものではありません。記載した回数・間隔・時間配分は当社の整理であり、業界で統一された基準ではありません。生成AIツールの提供条件・プラン・機能は提供事業者により随時変更されるため、導入にあたっては各提供事業者の最新の公表内容をご確認ください。助成金については、対象や要件が制度改正により変更されます。実施形態や訓練時間の要件は制度・コースによって異なり、個別の申請について支給や採択の結果を保証するものではありません。具体的な可否は管轄の労働局または社会保険労務士にご確認ください。労働社会保険諸法令に基づく申請書等の作成・提出代行は社会保険労務士の業務であり、当社では行いません。税務代理・税務書類の作成・税務相談は税理士法第2条第1項に定める税理士の業務であり、当社では行いません。労働者派遣に該当する形での役務提供は行っておりません。