人への投資促進コース|デジタル人材育成の枠で、生成AI研修が入るかどうか
「デジタル人材の育成に使える枠がある、と聞いたのですが」というご相談で名前が挙がるのが、人材開発支援助成金の人への投資促進コースです。そして、その次に必ず来るのが「うちの生成AI研修は、これに入りますか」という質問です。
答えを先に書きます。このコースは4つの訓練類型の総称であって、一般的な社員向けの生成AI研修が入る余地があるのは、実務上ほぼ「定額制訓練」の枠だけです。集合型の研修を1回実施する、という形は、このコースの想定ではありません。
この記事では、なぜそうなるのかを、厚生労働省の支給要領(令和8年8月3日版)に書かれている条文の側から説明します。パンフレットの要約ではなく、どの一文が効いて対象から外れるのかまで書きます。制度全体の見取り図は人材開発支援助成金とはに、期限の並びは申請の流れに分けて書きました。
1|人への投資促進コースは、4つの訓練類型の総称
まず、このコースが1つの制度ではないことを押さえてください。支給要領の0102では、訓練類型が次のように定められています。
| 訓練類型 | 要領に書かれている趣旨 | 生成AI研修が入る余地 |
|---|---|---|
| イ 定額制訓練 | 定額制サービスを活用した教育訓練を実施する事業主に助成し、労働者の多様な教育訓練の選択と複数の教育訓練の実施を可能にする | ここが実務上の本命 |
| ロ 自発的職業能力開発訓練 | 労働者の自発的な職業能力開発への支援を行う事業主に助成する | 会社が業務として受けさせる研修は該当しない |
| ハ 高度デジタル人材等訓練 (高度デジタル人材訓練/成長分野等人材訓練) | 高度情報通信技術資格の取得等を目指す高度なIT分野の訓練/大学院での学び直し | 資格水準・実施機関の要件が高く、一般的な研修とは別枠 |
| ニ 情報技術分野認定実習併用職業訓練 | IT分野未経験者等に対するIT分野の訓練(認定実習併用職業訓練) | IT未経験者の育成が対象。中身が異なる |
ここで見てほしいのは、ハとニが「IT人材そのものを育てる枠」だという点です。要領は高度情報通信技術資格を、IPAが公表する「ITスキル標準(ITSS)」または「DX推進スキル標準(DSS-P)」のレベル3・4に相当する認定試験・資格と定義しています。営業や管理部門の社員に生成AIの使い方を教える研修は、この水準を目指すものではありません。
したがって、全社員向けの生成AIリテラシー研修を、ハやニの枠で通そうとするのは筋が悪いということになります。リテラシー研修そのものの位置づけはAIリテラシー研修とはに書きました。
2|「定額制訓練」だけが本命になる理由
残る定額制訓練が本命になるのは、定義の書き方によります。要領は定額制サービスを次のように定義しています。
一訓練当たりの対象経費が明確でなく、同額で複数の訓練を受けられるeラーニング及び同時双方向型の通信訓練で実施されるサービス(支給要領0200・定額制サービスの定義)
この一文が、実務上いちばん効きます。教室に集まって1日やる集合研修(要領の言葉では通学制)は、この定義から外れます。オンラインでも、単発の講義を1回配信するだけなら「同額で複数の訓練を受けられるサービス」には当たりません。
つまり定額制訓練の枠は、サブスクリプション型のeラーニングサービスを法人契約して社員に受けさせる形を想定した枠です。生成AIの講座が並んだ学習プラットフォームを1年契約する、という組み方であれば、検討の土俵に乗ります。
逆に言えば、講師が入って自社の業務に合わせて設計する研修は、この枠では組めません。その場合は別のコースを見ることになります(後述)。研修そのものの設計思想の違いは生成AI研修とはに整理しています。
3|定額制訓練で実際に引っかかる5つの条件
土俵に乗ったとして、そこから先に落とし穴が5つあります。いずれも要領に条文として書かれているもので、後から変えられない種類の条件です。
条件1|1人あたり、修了した訓練の標準学習時間が10時間以上
要領06012ハは、対象労働者を「修了した訓練の標準学習時間が10時間以上の者」としています。さらに06025で、受講時間数が10時間に満たない対象労働者分の経費は支給しないと明記されています。
これは実務でいちばん脱落が出る条件です。契約はしたが、忙しくて数本しか見ていない社員が出る。その社員分は落ちます。アカウントを配ることと、10時間受け切らせることは別の仕事です。定着させる設計の話は社員にChatGPTを定着させるに書きました。
条件2|講座ラインナップの5割以上が対象外だと、まるごと落ちる
要領は、支給の対象としない教育訓練の実施方法として「定額制サービスに含まれる全体の講座数に占める支給対象外訓練の講座数が5割以上であるもの」を挙げています。
ここは、サービスを選ぶ段階でしか手が打てません。総合型の学習プラットフォームには、趣味教養に近い講座や、社会人マナーの講座が混ざっていることがあります。自社が受けさせたい講座が対象でも、サービス全体の構成比で落ちる可能性がある。この観点で見積依頼をしている会社は多くありません。
条件3|教育訓練機関が、自社サイトで講座情報を公開していること
要領06013ハは、事業外訓練であることに加えて、計画届の提出日時点で、教育訓練機関が自社のホームページに訓練の概要・連絡先・申込みや資料請求が可能な状態であることが分かる情報を掲載していない場合は対象としないとしています。
広く受講者を募っている機関であることを求める趣旨です。相対で作った非公開のプログラムは、ここで外れます。
条件4|訓練の実施期間は1年以内
要領06013への条件です。実施期間は原則として定額制サービスの契約期間になります。2年契約や3年契約をそのまま出す形にはなりません。
条件5|計画届は「契約期間の初日の6か月前から1か月前まで」
要領06032は、職業訓練実施計画届の提出期間を定額制サービスの契約期間の初日の6か月前から1か月前までと定めています。
ここが、相談のタイミングとして最も多い失点です。契約を先に済ませてから助成金を調べ始めると、この窓を過ぎています。期限の逆算は申請の流れに日付の並びで書きました。
4|お金の側:助成率と、1人あたりの上限
定額制訓練の経費助成率は、要領06023で企業規模ごとに定められています。
| 企業規模 | 経費助成率(通常分) | 訓練修了後に賃金を増額した場合(割増分) |
|---|---|---|
| 中小企業 | 60% | +15% |
| 大企業 | 45% | +15% |
割増分の条件は要領06014にあり、標準学習時間10時間以上の訓練を修了した日から訓練終了日の翌日を起算日として1年を経過する日までの間に、賃金を5%以上増加させる(賃金要件)か、資格等手当の規定を整えたうえで支払い賃金を3%以上増加させる(資格等手当要件)ことです。研修のためだけに賃金制度を動かす話ではないので、もともと昇給や手当の新設を予定している会社だけが取りに行く枠と考えるのが実務的です。
もう一つ、金額の天井があります。要領06027は経費助成の限度額を1人につき一月あたり2万円とし、あわせて1事業所あたりの支給額の合計に2,500万円の限度を定めています(成長分野等人材訓練を除く)。
ここから逆算すると、月額2万円を大きく超える高単価のサブスクを契約しても、超えた部分は助成の計算に乗りません。助成金の側から見て効率が良いのは、月額数千円台の学習サービスを、受け切れる人数に絞って契約する形ということになります。
なお、経費助成の対象になるのは事業主が全額を負担した経費です。受講した労働者に一部でも負担させている場合は対象になりません(要領0602)。費用の考え方全般はChatGPT研修の費用相場、投資対効果の測り方は生成AI研修のROIに書きました。
5|「生成AI研修だから対象外」ではない。落ちるのは中身の書き方
要領には、助成対象とならないOFF-JTの例が表として載っています。生成AI研修に関係するのは次の3つです。
| 要領の記載 | 読み方 |
|---|---|
| 職務に直接関連しない教育訓練は対象外。ただしDX化やグリーン・カーボンニュートラル化を進める上で必要となる知識・技能を習得させる教育訓練は除く | 「直接関連しない」で落ちそうな内容でも、DXを進めるために要る、という位置づけなら別扱いになる |
| 職業人として共通して必要となるものは対象外(接遇・マナー講習等)。ただしDX化に必要な知識・技能の場合、および各階層で適切な時期に実施される教育訓練の場合は除く | 全社員向けという理由だけで落ちるわけではない |
| 職業又は職務に関する知識・技能の習得を目的としていないもの(意識改革研修、モラール向上研修 等)は対象外 | ここが実務の落とし穴 |
3行目が効きます。生成AI研修は、社内の説明資料で「全社の意識を変える」「AIへの抵抗感をなくす」と書かれがちです。研修の狙いとしては正しいのですが、この書き方のまま計画届に載せると、意識改革研修と読まれる余地が出ます。
対象として整理するなら、職務に紐づいた技能として書くことになります。「営業部門が提案書の初稿を作成できるようになる」「管理部門が議事録の要約と社内規程の草案作成を行えるようになる」。同じ研修でも、書き方で読まれ方が変わります。この考え方はDX人材の育成とも共通します。
6|集合型でやりたいなら、別のコースを見る
ここまで読んで「うちがやりたいのは講師の入る研修だ」と思われた場合、見るコースが変わります。人材開発支援助成金には他のコースがあり、事業展開や新分野への進出に伴う訓練であれば事業展開等リスキリング支援コースが対象になる場合があります。
コース選択の分岐は次の3点で決まります。
- 受けさせ方が、サブスク型か・都度の研修か。サブスク型なら定額制訓練、都度型なら他コース。
- 訓練の目的が、既存業務の高度化か・新しい事業展開に伴うものか。後者ならリスキリング側の枠が視野に入ります。
- 訓練時間が何時間あるか。都度型のコースには訓練時間数の下限が定められており、半日研修では届かないことがあります。
制度の横並びはリスキリング助成金とはとAI研修に助成金は使えるかにまとめました。予算の立て方から考える場合は社員教育の予算が取れないときを先に読んでください。
7|どのコースを選ぶにせよ、先に社内で整える3つ
要領06011は、支給対象事業主の条件として次を挙げています。研修の内容以前の、会社側の前提条件です。
- 事業内職業能力開発計画を作り、労働者に周知していること。作成にあたっては事業所の労働組合等の意見を聴くことが求められます。
- その計画に基づく職業訓練実施計画を作り、対象の被保険者に周知していること。
- 職業能力開発推進者を選任していること。要領は、教育訓練部門があればその部課長、なければ人事労務担当部課長等が該当するとしています。
この3つは、思い立ったその日には整いません。計画届の窓(契約期間初日の6か月前から1か月前)に間に合わせるには、契約の話より先に着手する必要があります。ここを飛ばしたまま研修日程だけ先に決まっている、というご相談は珍しくありません。
あわせて、要領06011リには助成対象の訓練は業務上義務付けられ労働時間に該当するため、訓練中に賃金を支払うことが必要と書かれています。「業務時間外に各自で受けておいて」という運用にすると、この条件から外れます。所定労働時間外に受講させた場合でも、賃金の支払いは必要です(要領06026)。
8|検討に入る前のチェックリスト
相談前に、次の6つを自社で確認しておくと話が早く進みます。
- 受けさせ方は、サブスク型のeラーニングか。集合研修か。
- 対象にする社員は何人で、そのうち10時間受け切れる人は何人か。
- 候補のサービスは、講座全体のうち職務関連の講座がどのくらいの比率か。
- そのサービスの提供元は、自社サイトで講座情報を公開しているか。
- 契約開始の予定日は、今日から1か月以上先か。
- 事業内職業能力開発計画と職業能力開発推進者は、すでにあるか。
6つのうち3つ以上で答えに詰まる場合、今回は助成金を外して考えたほうが早いことがあります。準備に数か月かけて枠に合わせるより、必要な研修を先に実施して、次の期に制度を整える判断のほうが合理的な会社もあります。研修そのものの選び方は法人向けAI研修の選び方に書きました。
ノセカエの場合
当社は生成AI研修を提供している立場ですが、ご相談の内容によっては「このコースには入りません」とお伝えしています。当社の研修は講師が入って自社業務に合わせて設計する形なので、定額制サービスの定義には当たらないためです。
そのうえで、助成金を使いたいというご要望がある場合は、他のコースで組めるかを一緒に確認しています。会社の状況によっては、eラーニングで基礎を10時間受けてもらい、その後に講師型の研修を入れるという二段構えが噛み合うこともあります。
無料診断では、いまの研修の想定と契約予定日から、どの枠が視野に入るかを整理してお出ししています。支給や採択の結果を保証するものではありませんが、間に合わない場合は日程の置き直し方をあわせてご提案します。
まとめ
人への投資促進コースは、定額制訓練・自発的職業能力開発訓練・高度デジタル人材等訓練・情報技術分野認定実習併用職業訓練という4つの類型の総称です。一般的な社員向けの生成AI研修が入る余地があるのは、実務上ほぼ定額制訓練の枠に限られます。
その定額制訓練にも、1人あたり標準学習時間10時間・講座構成の5割・提供元の情報公開・実施期間1年以内・計画届は契約期間初日の6か月前から1か月前まで、という5つの条件があります。助成率は中小企業60%/大企業45%で、1人につき一月あたり2万円が上限です。
そして、落ちる理由の多くは研修の中身ではなく書き方と段取りにあります。意識改革として書けば対象外に読まれ、契約を先に済ませれば計画届の窓を過ぎる。制度に合わせて研修を歪めるのではなく、必要な研修を、制度が読める言葉で書く。順番はこちらです。
その生成AI研修は、どの枠なら視野に入りますか。
受けさせ方・対象人数・契約予定日から、検討できるコースと、間に合う日程を整理してお出しします。「今回は助成金を外したほうが早い」という結論もそのままお伝えします。
助成金が使えるか無料診断 →※本記事は、厚生労働省が公表している支給要領「第2 各助成金別要領 12 人材開発支援助成金(5)人への投資促進コース」(令和8年8月3日版・https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/001731976.pdf )の記載に基づく一般的な整理であり、個別の申請について支給や採択の結果を保証するものではありません。助成金の要件・助成率・コース構成は制度改正により変更されます。引用した条番号・数値は上記の版に基づくものです。実際の申請にあたっては最新版の支給要領およびパンフレット、ならびに管轄の都道府県労働局の案内を必ずご確認ください。労働社会保険諸法令に基づく申請書等の作成・提出代行は社会保険労務士の業務であり、当社では行いません。税務代理・税務書類の作成・税務相談は税理士法第2条第1項に定める税理士の業務であり、当社では行いません。労働者派遣に該当する形での役務提供は行っておりません。